峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

AMラジオがなくなるって知っていましたか?

毎週連載

第356回

まだあんまり話題になっていないけど、AMラジオが向こう数年で廃止になるらしい。AMラジオの設備の更新とか維持費用に対して、FMラジオのほうが合理的に放送できるということで廃止が決まったらしいんだけどさ、これが僕はすごく寂しい。いや、僕は特別な「AMラジオ愛好家」ってわけではなかったけどさ、あの音の質感がなくなるのがまず寂しい。RCサクセションの「トランジスタラジオ」っていう名曲があるけど、あの歌詞を聞いていて思い浮かべるのは、やっぱりAMラジオのあのモワモワした柔らかい音だもんな。僕が音楽を本格的に聴き始めた頃、レンタルレコードはもうなくなっていて、レンタルCD全盛期だったの。ちょうどアナログからデジタルに変わる時代に音楽にハマったからさ、余計にレコードとかAMラジオとかの、アナログ的な柔らかい音に憧れがあるようにも思う。

あとさ、東京の福生基地、神奈川の厚木基地界隈で昔、FENっていう在日米軍人向けのAMラジオが流れていて、日本人でもエアチェックすることができたらしい。後にAFNっていうラジオ局になったけど、今はしばらくAMラジオでのオンエアが中止になってる。インターネットではAFNが聴けるみたいだけどね。

FENは今ほどアメリカ、イギリスの音楽の情報がなかった時代にはっぴぃえんど、ジャックス、RCサクセションとかさ、日本のロックを牽引した大御所のバンドたちがみんなエアチェックして、最新の洋楽を勉強していたらしい。だから60年代から70年代初頭の日本の東側のバンドが音楽的にマセていたのは、やっぱりFENがあったからなんじゃないかと僕は思っている。

またさ、FENで流れる曲って必ずしもヒット曲ばかりだったわけでもなかったらしくて。DJとか選曲する人の「個人的に好きな曲」とか「個人的に推したい曲」が流れることがいっぱいあって、言わば「売れていないけど、いい曲」をいっぱい聴ける貴重な情報源でもあったらしい。

つくづく羨ましいよ。僕が育った山形なんて、良くて北朝鮮のラジオが聴けるくらいだもん。仮に北朝鮮のラジオが聴けても何言ってるか全然わかんないし、音楽的な衝撃はまったくなかったからね。

話が飛んじゃったけど、AMラジオには僕にもすごい小さい頃の記憶がある。まだラジオとカセットがセットになった「ラジカセ」を持っていなかった頃、ラジオで好きな歌謡曲がかかったときに、別に持っていたカセットデッキの録音ボタンを押してアナログ的な録音をしたっていう。スピーカー越しの録音だから、下手したら自分の声とか息の音とかも入っちゃうんだけど(笑)、こういう今では笑われるほどの苦労をして音楽を楽しんでたってわけ。でも、たぶん、さっき言った大御所のバンドの人たちも、当時はやっぱりこんな風にしてFENの音楽を、じっと堪えてカセットに録音してたんじゃないかな。

またさ、昔はAMラジオだけを受信できるオモチャのラジオも結構あって、どれもすごいかわいいんだ。きっとああいうオモチャのラジオをコレクションしている人もいると思うけど、AMラジオが廃止になったら、何も受信できなくなるから、コレクターの人は、僕なんかが想像する以上に寂しく思っているように思う。

AMラジオをかつて聴いた思い出があったり、特別な思い入れを持つ人にとっては、やっぱり廃止はすごく寂しいものだよ。AMラジオもある、FMラジオもある、インターネットのPodcastもある、iTunesやSpotifyもある……っていうのが僕にとっての理想の状態だけど、この中からAMラジオがなくなるのはマジで寂しいです。

古いもの・新しくて便利なものの両方あるのが理想なんだけどなぁ……

構成・文:松田義人(deco)

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プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。