演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜
新連載! 幕開けは、3月に真打ち昇進の春風亭ぴっかり☆、桁違いの超新星・春風亭朝枝ご両人で
毎月21日連載
第1回

撮影:橘蓮二
群を抜くオーラ 春風亭ぴっかり☆

3月下席待望の真打ち昇進である。キュートな風貌と確かな実力、そして観客の目を惹き付けてやまない群を抜くオーラを身に纏い二つ目時代より明るい未来が輝いていると感じていたファンも多かったと思われる。が、しかし真打ち昇進の報告を聞き、ぴっかり☆さん本人を前に発した最初の言葉は「おめでとう」ではなく「よく堪えて頑張ったね、偉かったね」だった。
師匠である春風亭小朝師匠は言わずと知れた大看板、90年代から2000年代にかけて単独での日本武道館公演や博品館30日間連続ネタおろし公演、プロデューサーとしても東西落語研鑽会、大銀座落語祭といった大イベントを成功させ現在の落語人気の基礎を築き上げた落語界にとっての大功労者である。その小朝師匠のもとに2007年、愛らしい小柄な女の子が入門してきた。この時、春風亭ぽっぽさん(前座名)が身を置く世界の厳しさ知る者の多くは心でエールを送りながらも、期待と同じいやそれ以上に果たして前座修業を無事乗り越えていけるのかと一抹の疑念を持っていた事は想像に難くない。

小朝師匠は芸に対しての厳しさは言わずもがな、芸人としての振る舞い、思考、対処の仕方など全てに意味があることを日常に於いて徹底的に問い続ける。男女問わず生半可な覚悟では務まるはずもなく、過去知りうる限り三人の両手の指では足りない数の者が志半ばで去っていった。そんな落語界屈指の厳しさを持った一門で修業を重ねながら見事真打ち昇進を果たしたぴっかり☆さんの精神力の強さは特筆すべきものがある。修業に耐えた事だけに留まらず数こそ減ってはきたがどんな時代にも一定数は存在する保守的な自称落語ファンに「どうせ甘やかされているんだろう」などと華やかな見た目と人気師匠の弟子であることで根も葉もないバッシングを受け続けても笑顔で受けとめてきた事からもその強靭さが窺い知れる。
「楽屋裏での苦労など語る必要ないですよ」と笑うぴっかり☆さんのプロフェッショナルとしての矜持は凛として美しい。まさに桃の花咲く春爛漫、新真打 春風亭ぴっかり☆改め蝶花楼桃花、いよいよ満を持しての登場である!
圧倒的な表現力 春風亭朝枝

描く落語の深度、質感、訴求力、表現に対しての思考や向きあい方、そして指先まで行き届いた所作は基より着物の着こなしに至る全てに魅了される。まだ二つ目昇進から二年足らずとはとても信じられぬほどの圧倒的な表現力で若手落語家の中でも際立つ存在である。周囲には彼を“天才”と称する向きもあるが、自分はその才はいわゆる生まれながらに持ち合わせたものではないと思っている。寧ろ才ある者であればあるほど己の至らなさを自覚しているものである。
春風亭朝枝さんの初見の姿と言葉を交わした時の印象は未だ鮮明だ。一流アスリートはユニフォームの着こなしが洗練されているように初めて目にした朝枝さんの高座姿はまるで着物が生きているかのごとく身体に寄り添っていた。故にひとつひとつの所作に陰影と流麗な旋律を生み自然と視線が惹き付けられるのだ。そして後日、話す機会を得た際にこちらの問いかけに朝枝さんが何度も繰り返した言葉は大いなる夢物語や理想の落語家像といった彼方にある未来の姿ではなく、熟考の後たった一言「ただ、稽古あるのみです」。

独創性、創意工夫、美意識、といった表現力を押し上げる為に自身の内奥に浸透させなければならない不可欠な要素は数え上げれば切りがないが、例えそれらの感覚を手にしたとしても実践が伴わなければ受け手の心に届けることは叶わない。落語に限らず準備してきたことを余すことなく再現することなど万にひとつも有り得ないが、ほんの僅かでも表現の高みを希求するならば日々積み重ねてきた稽古だけが目指す世界への入り口を垣間見せてくれる。本番前、近寄ることさえ憚られるほどの緊張感に支配されながら、一転、高座では言葉と所作を自在に操り情感を鮮やかに浮かび上がらせる力量は凄まじい。研ぎ澄まされた刃物の如く反復を繰り返すことで強度を上げ純化していく姿は、容易い“天才”という概念を脅威的とも言える持続力を持った努力で軽々と凌駕する。春風亭朝枝さん、まさに桁違いの超新星。
文・撮影=橘蓮二
<近日公演予定>
春風亭ぴっかり☆
■春風亭ぴっかり☆独演会「P-CAN」FINAL
1月28日(金) 東京・お江戸日本橋亭
開場 18:40 / 開演 19:00
Pコード:506-614
■真打昇進記念スペシャルディナーショー
2月12日(土) 東京・品川プリンスホテル
開場 17:00 / 開演 18:00
Pコード:510-473
■春風亭ぴっかり☆南亭市にゃお(南沢奈央)夢の演芸会
2月24日(木) 東京・池袋演芸場
開場 18:00 / 開演 18:30
Pコード:509-637
■春風亭ぴっかり☆ファイナル独演会「寿貞無 Je t’aime」
3月17日(木) 東京・なかの芸能小劇場
開場 18:40 / 開演 19:00
Pコード:509-648
■真打昇進披露興行
3月21日(月・祝)・26日(土)・29日(火) 東京・鈴本演芸場
開場 16:30 / 開演 17:00
Pコード:508-706
■真打昇進披露興行
4月1日(金)・8日(金) 東京・新宿末廣亭
開場 16:20 / 開演 16:30
Pコード:787-478
■真打昇進披露興行
4月11日(月)・14日(木)・19日(火) 東京・浅草演芸ホール
開場 11:10 / 開演 11:40
Pコード:508-707
■真打昇進披露興行
4月21日(木)・30日(土) 東京・池袋演芸場
開場 12:30 / 開演 13:00
Pコード:508-708
※3月21日以降は真打「蝶花楼桃花」名での出演となります(春風亭ぴっかり☆での公演検索ではヒットしない場合がありますのでご注意ください)。
春風亭朝枝
■第三回 春風亭㐂いち・春風亭朝枝 二人会
1月25日(火) 東京・江戸東京博物館 小ホール
開場 18:30 / 開演 19:00
Pコード:508-497
■橘蓮二プロデュース ぴあ寄席 ※ぴあプレミアム会員限定
2月5日(土) 東京・らくごカフェ
開場 17:40 / 開演 18:00
■第四回 三琳会
2月6日(日) 東京・アートスペース兜座
開場 13:30 / 開演 14:00
■第4回 朝枝の会
2月26日(土) 東京・日本橋社会教育会館ホール
開演 18:30
■第一回 已己巳己会
3月13日(日) 東京・日本橋三井ホール「橋楽亭」
開場 12:30 / 開演 13:00
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。