演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

三遊亭花金さん、京山幸乃さん(浪曲) ごひいき願います!

毎月21日連載

第2回

左から三遊亭花金、京山幸乃 撮影:橘蓮二

表現者としての有り様、来し方がひと際光る三遊亭花金

「大変申し訳ありません、今日台風が来たのも私のせいです」

昨年の10月第一回ぴあ寄席に出演した際、開口一番発した一言で優しい笑いがお客様の心の内にスッと入り込んだ。この会は僭越ながら橘がおすすめする若手芸人さんをたっぷり聴いてもらうという主旨の会で、毎回演者さんが登場する前に橘が魅力や見所を紹介するのだが、花金さんの最大の長所はネガティブなところであると話したことを受けての冒頭の言葉だった。

表現者にとって思考がネガティブであることは決してマイナス要素ではなく創作を続けていくことに於いては大きな力になる。寧ろ怖いのは平板な物の見方と実践の裏付けを持たないポジティブさだと考える。ネガティブとは内省と近似にあり自分を俯瞰することに繋がる。

もちろん花金さんはひとりだけの世界に埋没することはなく、自身の勉強会やメンバーに名を連ねる人気ユニット√9、そして協会問わず同世代の芸人さんと共に積極的に様々な会に参加している。どんなジャンルに在っても同業者の目が最もシビアであると同時に自身のウィークポイントとストロングポイントを知ることができる。時に他者の中に自分にはない発想や表現を目の当たりにし打ちのめされることもあるが逆に己の強みと他を凌駕する可能性のヒントを見つけることもできる。

花金さんは普段から落語力を高めていく為にどうすれば良いかを日夜思考し、刻々と試行錯誤を繰り返し稽古を積んでいることが高座から見てとれる。安定感抜群の高座姿と軽やかで芯がある語り口で活写する人物造形により人情噺、滑稽噺共に物語が彩り鮮やかに立ち上がる。現在、三遊亭花金さんが期待の若手と問われれば迷いなく名前が上がるひとりなのは技術は元より表現者としての有り様、来し方がひと際光っているからだ。
真の上達を願うなら表現する自分を信じるのではない、疑いを持ち続けるのだ。四半世紀以上に渡り数多の看板師匠に接してきたが、共通するのは皆、自己懐疑の塊であるところ。三遊亭花金さん、既にその条件を楽々クリア。

スケールアップした京山幸乃、要注目です

ここに一枚の写真がある。客席から高座を一心に見つめる浪曲師・京山幸乃さんの入門前の姿である。当時、落語・講談・浪曲と、とにかく様々な会でしょっちゅう見かけた。自然と顔見知りになり言葉を交わすようになったある日、浪曲界の大看板・京山幸枝若先生に入門する為単身大阪に行ってひとり暮らしを始めますと連絡が来た。2017年師走のことだった。勿論すぐに入門を許されるはずもなく、アルバイトをしながらひたすら幸枝若先生の浪曲教室に通い稽古を重ね、入門試験を兼ねた浪曲三席をマスターして翌年秋に念願の入門が叶った。

東京を離れ9カ月が経っていた。幸乃さんの師匠・京山幸枝若先生は“実るほど頭を垂れる稲穂かな”を地でいく人格者。その語りに触れれば思わず笑顔になること請け合いの温かい人柄である。敬愛する師匠から授かった忘れてはならない大事な三つの心得、気遣い・思い遣り・感謝を胸に日々の修行に励んできた。

幸乃さんの活動拠点は大坂なので撮影する機会は暫く訪れなかったが2019年12月東京初高座の勉強会に伺った。緊張の中、懸命に声を出し精一杯に高座を努める姿がとても初々しかった。それから二年が経った昨年末、ファインダー越しに高座に立つ幸乃さんを見て驚いた。纏う華やかさは以前と変わらずとも一声した瞬間、別人かと錯覚するほどに声量、節回し、所作の全てが桁違いにスケールアップしていた。その変貌に積み重ねてきた厳しい稽古鍛錬の様子が窺えた。

浪曲師は皆通る道だが始め最大出力で声を飛ばし、一度喉を潰してから少しずつ声質を変化させていく。そこから更に鍛えていくことで妙味が加わり言葉に揚力が生まれ物語に感情を乗せることが出来る。

「少しでも師匠に近づきたい」
と一分一秒も疎かにせず直向きに研鑽を続けている。聞けば近くに大声を出せる場所もなく自主稽古はもっぱらカラオケボックスだということだ。
「月々のカラオケボックス代が凄いんですよ」
と笑う声も稽古熱心の賜物か実に艷のある耳心地の良い響きに変わっていた。京山幸乃さん、要注目です。

文・撮影=橘蓮二

<近日公演予定>

三遊亭花金

■"擬古典落語"の夕べ
3月14日(月) 東京・月島社会教育会館ホール
開場 18:40 / 開演 19:00

■√9 fes. 2022
3月21日(月・祝) 東京・座・高円寺2
開場 13:30 / 開演 14:00

■猫じゃ猫じゃの会
3月27日(日) 東京・江戸東京博物館小ホール
開場 13:30 / 開演 14:00

■二ツ目茶屋
4月3日(日) 東京・吉原仲之町 金村
13:30 開場 / 14:00 開演

■第9回 やっちゃう?!
4月4日(月) 東京・らくごカフェ
18:30開場 / 19:00開演

京山幸乃

■ゆきのすみれ
2月26日(土) 東京・浅草木馬亭
開場 13:00 / 開演 13:30

■京山幸乃浪曲の会
3月18日(金) 京都・城陽プラネタリウム
開場 13:30 / 開演 14:00

■ゆきのすみれ
3月26日(土) 東京・浅草木馬亭
開場 13:00 / 開演 13:30

■ゆきのすみれ
5月5日(祝) 東京・浅草木馬亭
開場 18:00 / 開演 18:30

■京山幸乃浪曲の会
5月18日(水) 京都・城陽プラネタリウム
開場 13:30 / 開演 14:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。