Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

立川志の春師匠、田辺いちかさん(講談) ごひいき願います!

毎月21日連載

第3回

左から立川志の春、田辺いちか 写真:橘蓮二

続きを読む

表現力を支える思考力ー 立川志の春

表現の解像度を高める為に重要なのは如何に思考力を高めるかだ。その中には観察力と対象との距離感も含まれる。自己満足な表現に浸らないよう注意を払っていても知らず内に主観と偏見に侵食され狭量な感情に囚われる。

立川流若手真打ち・立川志の春師匠のセンスの良さとスケールの大きい高座からは自我と他我の絶妙なバランス感覚と視野の広さを感じる。アメリカの名門イェール大学を卒業後、日本の商社に勤めていたという異色の経歴を持つ。学生時代、同じ寮にいたアメリカ人の友達から日本の映画や文化について尋ねられた時に全く答えることができなかった自分を恥じ、改めて母国をルーツにした芸能を深く知りたいという思いから現地での就職は見送り帰国、伝統芸能を含めた様々なエンタテインメントに触れていた2001年11月偶然目にした立川志の輔師匠の高座に衝撃を受け人生の方向は大きく転換した。翌2002年10月三番弟子として入門、厳しい前座修行を経て2011年1月に二つ目昇進。そして2020年4月念願の真打ち昇進を果たした。

古典、新作ともに緻密な構成力は見事で特に日常の隙間に顔を覗かせる違和感に笑いをまぶした新作はストーリーテラーぶりが遺憾なく発揮される。古典落語に対しての分析力にも膝を打つ。ご隠居と八五郎のやり取りは多少無理筋であっても論理を補強して自分の主張をするところがアメリカ時代身近にあったまさにディベート。そしてここが肝要なのだがディベートは意見の戦い方を楽しむもので決して相手の人格を否定するものではない。落語の登場人物も時に反発してもリスペクトがある故に各々のやり取りを聴いて愉しめるのだ。

今後は一歩進めてひとつの場面に様々な感情が流れ込むような何度も繰り返し聴きたくなる作品を作っていきたいと語る。更に若手落語作家と一緒にお題を出しあって新作落語を作る会にもトライしている。自分の感情のみに拘泥せず他者からのテーマに演者というフィルターを通し幾つもの物語が生み出されることに大いなる可能性を感じている。他者にも自身にもラべリングすることなく常に多角的な視点を持ち続ける志の春師匠の表現力を支えるものは様々な経験から培ってきた柔軟かつ高い思考力である。

たおやかで凛とした美しさー田辺いちか

“人はかけがえのない存在と共にあれば決して心は折れない”

二つ目昇進からメキメキ頭角を現している期待の若手講談師・田辺いちかさんのこれまでの表現に於ける道のりがそれを如実に証明している。出身地の北九州から京都府立大学へ進学、卒業後はシルクロードの起点、中国の西安に渡り日本語教師をしていた。遠い異国の地で日本語を教える中で異文化を体験をしたことが、いちかさん自身が日本語と日本文化の魅力を再発見することになる。改めて母国でリスタートする為に帰国、直ぐに“講談の世界に飛び込んだ”となれば話は早いのだが講談に出会うのはまだ先のこと。

日本に戻って向かった先は以前から興味があった演劇の世界。小劇場の女優から主に海外ドラマの吹き替えを中心に声優として活躍していた。声優の仕事を続けながらフランス演劇など様々な演技のスキルを身につけていた時にワークショップのひとつとして出会ったのが講談であった。それまで体感したことがないリズムとテンポから豊穣な物語を生み出す話芸に魅了された。そして2014年田辺一邑先生に入門、19年二つ目昇進。寄席への出演の他、勉強会やホール落語への出演など精力的に活動の場を拡げている。

講談には幾つかの流派があるが、田辺派の特長と言えば数々の新作講談で一時代を築いた“髭の先生”こと田辺一鶴先生に代表される型に囚われないオリジナルな講談。もちろんどんなジャンルに於いてもフリースタイルと言うのは徹底的に土台を築いた上に成り立つもので勝手気ままな表現とは意味合いが違う。明瞭で切れのある語り口と美しい所作で古典講談の評価も高いいちかさんだが更に独自の世界を構築すべく日々奮闘を続けている。

振り返れば日本語指導もキャラクターを演じ分ける声優の仕事も、美しい旋律で語るフランス演劇も経験の全てに意味があった。速記本に記された無数に存在する講談を読み説き感情を溶け込ませ新たな物語に昇華させるべく飽くことない研鑽を積んでいる。終わりなき伝統芸の道を歩む傍らにはいつでも想いを託してきたかけがえのない“言葉”という存在があったからこそ気鋭の講談師・田辺いちかさんが描く世界には、たおやかで凛とした美しさが宿っている。

文・撮影=橘蓮二

<近日公演予定>

立川志の春

■志の春落語劇場 in ブディストホール 3月
3月22日(火) 東京・築地本願寺ブディストホール
開場 18:30 / 開演 19:00

「志の春落語劇場 in 築地」チラシ

■築地シアターウィーク RAKUGO in English
4月4日(月) 東京・築地本願寺ブディストホール
開場 18:30 / 開演 19:00

「築地シアターウィーク RAKUGO in English」チラシ

■第6回立川志の輔一門弟子ダケ寄席@千本桜ホール
4月9日(土) 東京・千本桜ホール
第一部:11:30 開場 / 12:00 開演
第二部:14:30 開場 / 15:00 開演

「第6回立川志の輔一門弟子ダケ寄席@千本桜ホール」チラシ

■志の春落語劇場 in ブディストホール 4月
4月19日(火) 東京・築地本願寺ブディストホール
開場 18:30 / 開演 19:00

■立川志の春独演会 in 柏 其の九十
4月23日(土) 千葉・柏京北ホール
14:00 開場 / 14:30 開演

■第461回ノラや寄席 百栄・志の春 二人会③
4月24日(日) 東京・なかの芸能小劇場
13:30開場 / 14:00開演

「第461回ノラや寄席 百栄・志の春 二人会③」チラシ

■二、三が六で九劇 vol.10 落語と笑いの方程式
5月16日(月) 東京・浅草九劇(古典編)
5月17日(火) 東京・浅草九劇(新作編)
共に18:30開場 / 19:00開演

「二、三が六で九劇 vol.10 落語と笑いの方程式」チラシ

■雀太!ケッチ!志の春!ザ3マンショー
6月19日(日) 大阪・池田市民文化会館 小ホール
第一部:10:30 開場 / 11:00 開演(どっちかいうたら子ども向け)
第二部:14:00 開場 / 14:30 開演(どっちかいうたら大人向け)

「雀太!ケッチ!志の春!ザ3マンショー」チラシ

田辺いちか

■いちかの小部屋シーズン3 その1
3月24日(木) 東京・お江戸日本橋亭
開場 12:30 / 開演 13:00

■古民家噺の会18 春の講談会
3月26日(土) 東京・みんなの古民家
開場 13:30 / 開演 14:00

「古民家噺の会18 春の講談会」チラシ

■渋谷らくご
4月9日(土) 東京・ユーロライブ
開場 16:30 / 開演 17:00

■田辺いちかの会
5月14日(土) 東京・らくごカフェ
開場 13:00 / 開演 13:30

■講談新扇会
5月28日(土) 東京・らくごカフェ
開場 17:00 / 開演 17:30

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。