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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

春風亭柳枝師匠、春風亭昇々師匠 ごひいき願います!

毎月21日連載

第4回

左から春風亭柳枝、春風亭昇々 写真:橘蓮二

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全身落語家ー春風亭柳枝

「自分の名前を売るよりも落語を知って欲しいんです」

古典落語の魅力をお客様に届ける為に思考と実践を重ねる春風亭柳枝師匠の姿はまさに“全身落語家”と感じる落語愛に貫かれている。

柳枝師匠の高座の余韻の心地良さは格別だ。そこには現実と非現実、物語と観客をどう繋げていくかという繊細な工夫が施されている。例えば噺によっては時代感覚の違いにより受け手の感情にそぐわない言葉や台詞が含まれていることがある。普段は気にならなくても世相によっては共感しづらい空気が醸し出される可能性があると判断すれば豊かな語彙力と描写力で聴き手が悟る間も無くそっと言葉を置き換え調和させる手腕は見事である。そして何と言っても状況判断力と自己をコントロールする力は若手落語家の中でもピカイチだ。

寄席、ホール等どんな落語会でも入るポジションによって求められることは異なる。優先すべきは個でありながらも全体を見通すバランス感覚だ。正中線が崩れない安定感抜群の所作から繰り出される緩急自在な語り口で押し出し過ぎず埋没もしない最も難しい程良く印象に残る落語をやってのける。独演会に臨む際にもトリネタのみに注力せず其々の噺にも意味を込め溢れんばかりの愛情を注ぐ。もちろんその柔軟さの中には落語家として譲れない強い拘りもある。それは初席やテレビ出演時など極端に限られた持ち時間であっても小噺や漫談で凌ぐことを良しとせず、骨格は崩さず再構成した古典落語を演じることでも分かる。更に自身の表現を俯瞰できる視野の広さは真打ち昇進して日が浅い若手とは思えぬほど際立っている。

古典、新作に関わらず才ある同世代がひしめき様々なアプローチで新機軸を打ち出す状況下、溢れる情報に引きずられることなく20年後をピークと想い定め自分の歩幅を守る。将来は落語ファンが真っ先に思い描く落語家のイメージと一致したいと語る姿からは表現力を研くには意識を目に見える上澄みに沿って横に掬っていくのではなく縦方向に深めていく重要性を感覚的に理解していることが伝わってくる。全ては愛する落語の力を信じればこそのぶれない姿勢。大看板への歩みはすでに始まっている。

素晴らしき、ヘンテコな世界ー春風亭昇々

センスを発揮するには瞬発力より緻密な準備が必要だ。多くのスターを輩出した「成金」や新作ユニット「ソーゾーシー」に名を連ねる人気若手真打ちのひとり春風亭昇々師匠は新作落語を作ることを丸太を彫り込み整えてゆく彫刻に例える。そこには最終的にイメージした作品に近づけるために周知に用意された幾つものプロセスとセオリーがある。落語表現の強さと弱みの捉え方、受け手の感受性に対しての意識の向け方は思考力の高さを感じる。

落語は言葉を操る表現だが登場人物ひとりひとりが独立して喋り、台詞も一言ずつ語る。台詞の応酬であれば漫才やコントなどスピード感を伴い言葉を次から次へと重ねられる表現が時に優る。更に喋り言葉は音として伝わるので文字表現のように難解な言葉は使いづらい。

昇々師匠の創作は先ずは発想した物語が落語で表現する意味があるか、着眼点は何処なのかから始まる。第一条件をクリアしたらキャラクター設定と予想を裏切るストーリー展開を考える。予想を裏切るといっても荒唐無稽ということではなく寧ろ現実にはない話だからこそ真実味を加え話を立体的にする。そこから余計な情報が入りずらく且つ喜怒哀楽の感情を乗せた台詞をひたすら稽古で身体に入れていく。そして最も重要視しているのは必ず“ヘンテコを入れる”ことだと語る。昇々師匠は大学時代に心理学科を専攻し脳波の研究をしていた。例えば赤と書かれた文字が緑色だと脳はどう認識するのかといった実際に目にしたものと脳で感受したことの差異、突き詰めれば事象に対し自分はどう感じ他者はどう感じるのかに興味があると言う。

新作落語の訴求力を増す為には効果的である数人がひとつに纏まるグループでの活動と並行しながらひとり会も積極的に行っている。熱狂と孤独の中、いつもグズグズ、ジタバタしていると言うがそれは昇々師匠が表現に真摯である証。表現も人間も一見して十全なものに魅力は感じない。人は真面目に生きれば生きるほどヘンテコなことになる。そこには逸れていく面白さと滑稽で切ない人生の愛しさがある。ロジカルでいてセンシティブ、春風亭昇々師匠の高座はとてもチャーミングだ。

文・撮影=橘蓮二

<近日公演予定>

春風亭柳枝

■第517回花形演芸会
4月23日(土) 東京・国立演芸場
開演 13:00

「第517回花形演芸会」チラシ

■天どん・柳枝 ふたり会
4月28日(木) 東京・ゆにおん食堂
開演 19:00

■第5回桂福丸 趣向の会
5月7日(土) 東京・らくごカフェ
開場 13:00 / 開演 13:30

「第5回桂福丸 趣向の会」チラシ

■第36回芝浜落語会~柳枝の會~
5月12日(木) 東京・港区立伝統文化交流館
開場 18:30 / 開演 19:00

「第36回芝浜落語会~柳枝の會~」チラシ

■第1回 上昇㐂柳 柳家㐂三郎・春風亭柳枝二人会
5月15日(土) 東京・お江戸日本橋亭
開場 17:30 / 開演 18:00

「第1回 上昇㐂柳 柳家㐂三郎・春風亭柳枝二人会」チラシ

■春風亭柳枝独演会 其ノ四
6月8日(水) 駒込 アーリーバード・アクロス
開場 18:30 / 開演 19:00

「春風亭柳枝独演会 其ノ四」チラシ

■第3回 柳枝百貨店
6月30日(木) 東京・日本橋社会教育会館ホール
開場 18:15 / 開演 18:30

「第3回 柳枝百貨店」チラシ

■みなと毎月落語会「志の春・小痴楽・柳枝三人会」
7月13日(水) 東京・赤坂区民センター 区民ホール
開演 19:00

■小辰さん真打だよTOKYOダブルス〜春風亭柳枝と入船亭小辰
7月21日(木) 大阪・道頓堀ZAZA Pocket's
開演 18:45

■娯楽百貨5周年記念興行 柳枝・寸志の《落語ができました》
7月23日(土) 東京・シアタートップス
開演 14:00

春風亭昇々

■第517回花形演芸会
4月23日(土) 東京・国立演芸場
開演 13:00

■小痴楽・昇々の放送禁止放送 第八弾
4月28日(木) 配信
開場 18:30 / 開演 19:00

「小痴楽・昇々の放送禁止放送 第八弾」チラシ

■アルテリッカ演芸座 真打昇進披露落語会
5月3日(火・祝) 神奈川・新百合トウェンティワンホール
開場 12:30 / 開演 13:00

■綾瀬寄席 若手人気落語家三人会
5月4日(水) 神奈川・綾瀬市オーエンス文化会館
開場 13:00 / 開演 14:00

「綾瀬寄席 若手人気落語家三人会」チラシ

■ファミリー寄席
5月7日(土) 東京・東京芸術劇場シアターウエスト
開演 18:00

「ファミリー寄席」チラシ

■瀧川鯉斗・春風亭昇々二人会
5月14日(土) 神奈川・もみじホール城山
開場 13:30 / 開演 14:00

■おろしの会15
5月18日(水) 東京・なかの芸能小劇場
開演 19:00

■第26回昇々ひとり会
5月20日(金) 東京・なかの芸能小劇場
開演 19:00

■昔昔亭A太郎・春風亭昇々二人会
5月28日(土) 東京・ひびきホール
開場 17:00 / 開演 18:00

「昔昔亭A太郎・春風亭昇々二人会」チラシ

■ふじ寄席 春風亭昇々・桂宮治 二人会
6月25日(土) 静岡・ロゼシアター
開場 13:30 / 開演 14:00

■四合わせ落語会
7月12日(火) 東京・お江戸日本橋亭
開場 12:30 / 開演 13:00

<橘蓮二最近のオススメ>
キッチンミノル『キッチンミノルの写真教室』

人物・料理を中心に雑誌、広告などで活躍、多数の写真絵本の製作や春風亭一之輔師匠の撮影でも知られる人気若手写真家キッチンミノルさんの新刊『キッチンミノルの写真教室』(筑摩書房 定価1980円)が絶賛発売中! 初心者から上級者まで楽しみながら上達するコツが素晴らしい作品と共に満載。ハイレベルな技術に裏打ちされた心惹かれる数々の写真と飾らない優しい文章からはキッチンさんの被写体に対するリスペクトと温かな眼差しが溢れている。写真を眺めるだけでも満たされる技術書を遥かに凌駕する作品集。

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。