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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

桂二葉さん、笑福亭茶光さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第5回

左から、桂二葉、笑福亭茶光 撮影:橘蓮二

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“アホ”という名の“賢者” ── 桂二葉

初見でアッと言う間に魅了された。気づけば自然とカメラを向けていた。

昨年の「NHK新人落語大賞」を女性初、満点で受賞し現在最も注目を集める桂二葉(かつらによう)さん。独演会はどこも満員御礼、東京の寄席初出演となった池袋演芸場4月中席も一目観ようと詰めかけたお客様で立ち見の大盛況であった。高座はもとより楽屋に至る様々なシーンから放射される華やぎと凛とした佇まいは群を抜いている。

印象派の画家の多くが用いた画法に色彩分割(視覚混合)という表現法がある。色は混ぜれば混ぜるほど暗くなり原色から遠ざかっていく。目の前にある鮮やかさと明るさをそのまま伝える為には色を混合せず重ね置いて描くことで鑑賞者の脳内で色が混ぜられ光彩は保持されたまま再現される。二葉さんの高座も同様、余計な混ぜ物がなくストレートに落語の愉しさがお客様の心に届く。落語表現をする上で大事にしていることや心掛けていることを尋ねたところ

「高座では振り切り、気持ちに嘘はつかない」

その言葉には二葉さんの力強く真っ直ぐな想いが表れている。そしてもうひとつ目を見張るのは全力で高座に挑みながらも同時に観客の反応を察知する冷静さも兼ね備えていることだ。その日の客層や振ったマクラのウケ方の違いなど次から次へと変化していく聴き手の状況を瞬時に捌いていく感応力は素晴らしい。

“アホ”が大好きで落語はひとりで堂々と“アホ”を演じる喜びがあると語る二葉さん。“アホ”という名の“賢者”は世知辛い日常に於いて懸命に生きる者に安らぎと笑顔を届ける為に落語の国からやって来た心優しき使者である。

先述の大賞受賞の記者会見で言い放った

「ジジイども、見たか!」がメディアでも大きくクローズアップされたが“ジジイ”とは姿形のことだけではなく誰の心の中にも存在する他者を線引きし己を高みに置こうとする頑なで脆弱な心根のことでもある。つまらぬプライドを“アホ”が打ち砕く。何故これほど二葉さんの落語に心惹かれるのか、それは桂二葉さんが素敵な“アホ(賢者)”だからである。“アホ”と共に生きれば今日も幸せ。

落語の国にやって来た逸材 ── 笑福亭茶光

明るく軽やかな上方落語の語り口と切れのある骨太な江戸落語のエッセンスを絶妙にブレンドした笑福亭茶光(しょうふくていさこう)さんの落語は幸せな余韻が心地よく沁みる。構成力、リズム感、言葉の選び方、何処を取ってもハイレベル。才能豊かな若手落語家の中でもその存在感は日に日に増している。

2005年より漫才師「ヒカリゴケ」として活動していたが2015年落語家に転身、笑福亭鶴光師匠に入門し2019年二つ目昇進、現在は人気二つ目ユニット√9にも参加している。二人から一人へ、表現方法が全く異なっても茶光さんのネタ作りへ向き合う姿勢はぶれることがない。オリジナルな作品を生み出すには他者の意表をつくこと以前に土台となるべき日々の飽くなき積み重ねがあってこそ噺に厚みが生まれその中に見いだした独自の妙味が彩りを加える。高座にかける前には先ず噺を書き写すところから始めネタが浮かんだところに差し込み更に何度も書き直す。つまり読んでも噺の完成度は保たれているかが重要なのだ。漫才の醍醐味のひとつはコンビが織り成す緩急自在の台詞のキャッチボールが生むスピード感と時には相方のミスも笑いに昇華させる技術とセンス。翻ってひとり芸である落語は何があっても高座に於ける全てを自身で背負い回収しなければならない。

茶光さんは漫才と落語各々の強みを熟知し高座に向けての準備を怠らない。噺の芯は壊さず一度取り込み分解、再構成し調和させる。高座ではその場の勢いで安易に笑いを取りに行ったりせず細部に至るまで考え抜いた最もフィットする台詞を充てる。だから噺の流れが綺麗で自然と笑いがわき上がってくる。大きな漫才のタイトルを目指していた漫才師時代はともすればネタの完成度を最優先してしまうこともあったが現在はネタ作りに注力しながらも目の前のお客様に喜んでいただく意識がより強くなったという。

「前にも増して今がとても楽しいんです」

と笑顔で語る姿を見て心から思う。どんなジャンルでも才能を発揮したであろう茶光さんが落語の国にやって来てくれて本当に嬉しい。

文・撮影=橘蓮二

<近日公演予定>

桂二葉

■第二十一回 楠公さんde神能殿寄席
5月21日(土) 兵庫・湊川神社神能殿
開場 13:00 / 開演 14:00

■桂二葉落語会 ぺちゃらくちゃら vol.5
6月8日(水) 大阪・天満天神繁昌亭
開場 18:30 / 開演 19:00

「桂二葉落語会 ぺちゃらくちゃら vol.5」チラシ

■桂二葉 独演会
6月10日(金) 山口・シネマヌーヴェル
開場 18:30 / 開演 19:00

■桂二葉 独演会
6月11日(土) 山口・洞春寺
開場 13:30 / 開演 14:00

「桂二葉 独演会」チラシ

■第2回によによ団主催公演 桂二葉の会
7月18日(月・祝) 東京・阿佐ヶ谷不二庵
開演 13:00

「第2回によによ団主催公演 桂二葉の会」チラシ

■桂二葉ひとり会vol.2
7月18日(月・祝) 東京・日本橋社会教育会館
開場 18:30 / 開演 19:00

■桂二葉 独演会in名古屋 Vol.1
7月22日(金) 愛知県芸術劇場 中リハーサル室
開場 18:00 / 開演 18:30

笑福亭茶光

■茶光がいっぱいしゃべる会
5月30日(月) 東京・浅草なまくら亭
開演 19:00

■ヨンセキ
6月1日(水) 東京・西日暮里活ハウス
開演19:00

■√9落語会 3(three)
6月8日(水) 東京・神田明神
開場 18:30 / 開演 19:00

「√9落語会 3(three)」チラシ

■第2回 笑福亭茶光独演会
6月22日(水) 東京・日暮里サニーホール
開場 18:30 / 開演 19:00

「第2回 笑福亭茶光独演会」チラシ

■北とぴあ亭1000円落語七月の会
7月2日(土)東京・北とぴあ15階ペガサスホール
開場 14:00 / 開演 14:15

■続・さこうと呼ばれたい
7月3日(日) 東京・ムーブ町屋
開場 14:00 / 開演 14:15

「続・さこうと呼ばれたい」チラシ

■かしめ・茶光二人会
7月11日(月)東京・西新宿ミュージックテイト
開演19:00

■けやき落語
7月18日(月・祝) 埼玉・秩父宮記念市民会館けやきフォーラム
開演18:30

「けやき落語」チラシ

■√9落語会 3(three)
7月20日(水) 東京・神田明神
開場 18:30 / 開演 19:00

■青春おじさんvol.3
8月6日(土)東京・お江戸両国亭
開演13:00

「青春おじさんvol.3」チラシ

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。