左から)立川吉笑、 春風亭かけ橋 撮影:橘蓮二
「唯一無二の存在感」──立川吉笑
寄り引き、高低、角度、様々なポジションから被写体を自在に捉えるカメラのように立川吉笑さんは幾つもの視点を持っている。更にその視点を操る頭脳はミクロからマクロを駆け巡り、時には次元すらも易々と超越する。
大学時代よりお笑い芸人を志し放送作家を続けながらコンビでお笑い活動していた。その後立川志の輔師匠の落語に触れ、即時的な笑いではない物語として描く落語に魅了され自身の感性を託せる表現と確信し落語家の道へ。
2010年11月立川談笑師匠に入門、2012年4月に1年半という驚異的なスピードで二つ目に昇進した。昇進と同時にメキメキと頭角を表し、多くのスターが生まれた演芸人気の一翼を担う「渋谷らくご」の常連出演者として名を連ねるなど若いお客様を中心に人気を博す気鋭の新作落語家である。
吉笑さんが創るそれまで体感したことがない新たな切り口で見せる作品の跳躍力には心が踊ると同時に軽やかなカタルシスがある。新作、擬古典など時代設定の違いに関わらず通底しているのはマジックリアリズムに似た現実を描く中で現れる非現実。そこには幾層にも重なった時間と空間が伸縮し過去のイメージの枠組みを飛び出し想像力を攪拌される。吉笑さんの落語世界を体感すると人間の五感を頼りにした認知の曖昧さや実体と意識の距離に気づき、目の前の事象に新たな見方が加わり認識が更新される愉しさを味わえる。そして上半身だけの動きで見せる所作と台詞のみという形式に嵌めることで自由になれる落語表現には過去から未来、原子から宇宙の果てまで時間も物質も無限に頭に描くことができる力があることを吉笑さんは深く理解している。
日常と非日常の境目や概念の際の在りかを落語に仕立てる独自の発想と身体表現で虚構と観客を隔てるいわゆる「第四の壁」を越えていく落語は一元では完結しないメタ構造を持った世界観がある。いずれスタンダードになっていく新作落語は数多あるが吉笑さんの作品は本人以外は演じるのは難しいと思わせるほどオリジナリティがある。天才?異才?いやいやそんな分かりやすい呼称には収まらない。
ただひとつ確かなのは立川吉笑さんが唯一無二の存在ということである。
「想いを繋ぐ“かけ橋”」 ── 春風亭かけ橋
7月上席より四年ぶり二度目の二つ目昇進を果たす。えっ?と思うかもしれないが紛れもなく前回も今回も期待値大の逸材として昇進するという稀有な存在、それが春風亭かけ橋さんその人である。
2012年5月柳家三三師匠に入門、柳家小かじとして厳しい修行を経て2016年11月二つ目昇進。古典もオリジナルな新作も評判は上々、活動の場を広げ順風満帆に思っていたが、かけ橋さんの心の内は周囲の評価とはまた別のところにあった。落語に対しての想いが人一倍強いだけに当時は自身の力不足を日々痛感していたという。悩み抜いた結果落語の世界から一旦は身を引くことになった。しかし時間と心理的距離が空くほどに落語への想いの強さを改めて知り一からやり直す決意をする。
然りとて戻れる宛もなかったが無理を承知で元師匠になった三三師匠に相談に行った。三三師匠は言わずと知れた第一線で活躍する落語家であり表現者、プレーヤーは他のプレーヤーの技量は最も敏感に感じ取る。師弟としての縁は無くなっても若き才能を埋もれさせずどんな形でも開花させたいとの考えから、かけ橋さんの覚悟と希望を汲み取り協会も異なりそれまで接点のなかった春風亭柳橋師匠との橋渡しを本人に知らせることなく進めていた(後にかけ橋さんも知ることになる)。
春風亭柳橋師匠は落語芸術協会の重鎮でありながら尊大なところは微塵もない誰に対しても優しく接する芸も人格も一流の師匠。そんな包容力に溢れる師匠の元、2018年7月より前座修行をリスタート、今月待望の二つ目昇進となる。
かけ橋さんの落語は明るくおおらかな中に精緻で密度の高い描写力を兼ね備えていて心地好い。そこには決して無駄ではなかった二度の前座修行に於ける稽古の積み重ねと意識の高さを感じる。遥か先に見える目標に向かっていく時、人は得てして直線で進もうとするものだが自身を俯瞰で見られる者は道が平坦では無いことを察知し回り道こそ最短距離であることを知っている。将来は高座から古典落語の空気感が自然に醸し出される落語家になりたいと目を輝かせる。
三三師匠からは落語に対しての純粋さを、柳橋師匠からは芸人としての器の大きさに影響を受けたと語る。秋には何と両師匠が口上に並ぶ二つ目昇進披露の会がある。その名は体現している。元師匠と現師匠、そしてお客様、支える皆の想いを繋ぐ“かけ橋”であり続けることを。
文・撮影=橘蓮二
立川吉笑 公演予定
■立川吉笑 真打計画02「キッショウと浜野矩随」
2022年7月25日(月) 東京・ユーロライブ
開演 19:00
■連雀亭昼席
2022年7月23日(土) 東京・連雀亭
開場 13:00 開演 13:30
■談笑一門会
2022年7月29日(金) 東京・武蔵野公会堂
開場 18:30 開演 19:00
■立川流マゴデシ寄席
2022年7月31日(日) 東京・お江戸上野広小路亭
開場 18:30 開演 19:00
■立川吉笑 入船亭小辰二人会
2022年8月7日(日) 愛知・扶桑文化会館
開場 13:30 開演 14:00
■ソーゾーシー2022~兵庫公演~
2022年8月27日(土) 兵庫・喜楽館
開場 18:00 開演 18:30
■ソーゾーシー2022~静岡公演~
2022年8月28日(日) 静岡・サールナートホール
開場 13:00 開演 13:30
春風亭かけ橋 公演予定
■三遊亭遊かり勉強会「ゆっくり遊かり」
2022年7月24日(日) 東京・らくごカフェ
開場 18:00 開演 18:30
■第22回十条らくご「お二階へご案内」
2022年8月6日(土) 東京・A1バクテー2階
開場 14:40 開演 15:00
■かけ橋噺
2022年8月18日(木) 東京・ばばん場
開場 18:30 開演 19:00
■音羽ワイン寄席
2022年9月10日(土) 東京・WineCafe護国寺
開場 14:30 開演 15:00
■かけ橋庭園落語会
2022年9月24日(土) 東京・練馬区立向山庭園
開場 13:30 開演 14:00
■桃月庵こはくプロデュース「かけ橋の夢は二度ひらく」
2022年10月20日(木) 東京・日本橋社会教育会館
開場 18:30 開演 19:00
■春風亭かけ橋二ツ目昇進記念落語会
2022年10月24日(月) 東京・日本橋公会堂
開場 18:30 開演 19:00
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。