左から)古今亭佑輔、林家きよ彦 撮影:橘蓮二
「秘めた心の強さ」 ──古今亭佑輔
どんな若手が将来有望であるか? 思考力、稽古量、そして状況に応じた対応力。言うまでもなく落語家にとって全て大事な要素であるが、その中でも十年、二十年と積み重ねていく為に必要不可欠なことは、表現に対しての誠実さと決して楽をせず試行錯誤を飽くことなく続けていける粘り強さだ。
古今亭佑輔さんの凛とした高座からは落語にかける熱い想いと良質な頑固さを感じた。俳優経験もあり大学時代はミスコン受賞という華やかな経歴を持つが話を伺って強く印象に残ったのは不器用なまでの一途さだった。アメリカ留学中に気づかされた母国である日本文化についての知識の浅薄さを恥じたところから何とも興味深い話が続く。
帰国後、先ず飛び込んだのが北辰一刀流の道場。何故?理由は坂本龍馬のファンだったから。後に知ることになるのだが、佑輔さんが習っていたのはオーソドックスな日本刀、翻って坂本龍馬は同流でも長刀(薙刀)の方、普通は調べそうなものだが意外と猪突猛進タイプ。気付いた時には中々の腕前になっていた。その頃出会ったのが落語。すっかり古典落語の世界に魅了され落語家になることを決意する。
2017年3月より前座修業をスタート、2020年に二つ目昇進。一度は落語界から離れるが2022年2月「古今亭佑輔」として再出発をした。当事者にしか知る由もない葛藤や紆余曲折はあったはずだが全てはこれから“落語が再びできる喜び”をどう表現していけるかにかかっている。
落語の世界には早熟も遅咲きも存在する。タイプは異なっても評価される者に共通するのは安易な追従を良しとしない強い精神力と他者への思い遣りを合わせ持っているところ。先述の北辰一刀流の極意は己の欲を切り落とし相手の闘争本能をも切り落とす、つまり反発するのではなく調和することなのだという。
落語も演者と観客が共に空間を作り上げるもの。人生の晩年には人間の業を深く語れる落語家になりたいと、昨日より今日、今日より明日と一歩ずつ歩みを進める佑輔さんの果てしない挑戦は日々続いていく。人一倍の緊張しい、されど決して怯まない。“美貌の落語家”古今亭佑輔さんの美しさには秘めた心の強さが映し出されている。
「師匠の慧眼」──林家きよ彦
二つ目昇進からまだ一年半、恐るべき才能を持った期待の若手新作落語家 林家きよ彦さんが俄然注目を集めている。作品センスはもちろん、どんな動きの所作にも揺らぐことのない安定感抜群の高座姿、そして聴き手に心地よく届く天性の声音の美しさで生み出される新作は日に日に評価が高まっている。
大学卒業後、6年間社会福祉士として障害者施設で働いていた。そこで出会った障害を持つ方が何物にも縛られない自由な発想で描くパラアートに触発され、きよ彦さん自身も表現する世界に興味を持ち始めたという。そんな矢先、きよ彦さんの地元の落語会に訪れたのが林家彦いち師匠だった。落語ファンには説明不要、近年活動再開した伝説の新作落語ユニットSWAのメンバーであり数々の名作を世に送り出してきた新作落語を牽引する人気師匠である。
大学時代は落研に所属していたきよ彦さんだが、本人曰く超ビビりで人見知り。すんなり弟子入り志願とはならず初回は少し言葉を交わしただけで終わった。そして二度目の会で意を決して入門を願い出た。すると彦いち師匠は優しく一言
「来ると思ってた」。
落語界一のアウトドア&行動派で心優しい師匠の元、厳しくも温かな環境で前座修業を終え二つ目昇進。そこで師匠から厳命が下る。
「お前の古典は聴きたくない、新作しかやるな。」
その言葉には弟子の素質を見抜く彦いち師匠の慧眼があった。新作はゼロから全ての創作をひとりで行う地道な作業の連続。効率とは無縁、日々自身と向き合いコツコツと積み上げていく生真面目さが求められる。様々な落語に手を出しどっちつかずになるならば退路を絶ってひとつの道を行くことが賢明と判断したのだ。
きよ彦さんは物事に対して全か無か、ある一面完璧主義なところがあり些末な失敗を時に引きずることもあるが、同時に弱気な自分を客観的に回収する術も持ち合わせている。表現することに於いて喜びよりも先に立ちはだかる恐怖にも臆せず心を保つ強靭さがきよ彦さんの中にはしっかりと息づいている。数多の先人達が築いてきた新作落語の系譜を受け継ぎ更に大きく飛躍させる存在、それが林家きよ彦さんであると確信している。
文・撮影=橘蓮二
古今亭佑輔 公演予定
■「月刊ランナーズ」
2022年10月27日(木) 梶原いろは亭
開場 19:00 / 開演 19:30
■龍志、志ん輔、扇遊三人会
2022年10月31日(月) 浅草演芸ホール
開場 17:00 / 開演 17:30
■耳をすませば
2022年11月6日(日) 平野邸
開場 12:30 / 開演 13:00
■古今亭佑輔独演会ゆーareレディ??
2022年11月13日(日) こまむ亭
開場 11:30 / 開演 13:00
■男女三人秋物語2022(春風亭昇輔、古今亭佑輔、林家きよ彦)
2022年11月15日(火) ミュージックテイト
開場 18:30 / 開演 19:00
■白井街かど落語会 佑輔・伊織二人会
2022年11月20日(日) お食事処 むらさき
開場 14:00 / 開演 14:30
■池袋演芸場特選会 桃色婦人会
2022年11月28日(月) 池袋演芸場
開場 18:00 / 開演 18:30
■すがも巣ごもり寄席
2022年12月21日(水) スタジオフォー
開場 12:30 / 開演 13:00
■シモキタで女子会?!クリスマスだよ!全員集合!
2022年12月25日(日) 下北沢・サンガイノリバティ
開場 12:30 / 開演 13:00
林家きよ彦 公演予定
■鈴本演芸場「十月下席」
2022年10月23日(日)・24日(月) 出演
開場 16:30 / 開演 17:00
■高円寺★若手箱 彦三・きよ彦二人会3
2022年10月26日(水) koenjiHACO
開場 18:30 / 開演 19:00
■かめあり亭 第66弾 新作落語の会
~今は新作!いつかは古典!~ HALLOWEEN 豊穣まつり編
2022年10月28日(金) かめありリリオホール
開場 17:45 / 開演 18:30
■やしょめ寄席5
2022年10月29日(土) 伝承ホール
開場 14:30 / 開演 15:00
■パスティーシュ落語会
2022年10月31日(月) らくごカフェ
開場 18:30 / 開演 19:00
■木曜落語勉強会チャノマ
2022年11月3日(木)、17日(木) 新宿無何有
開場 18:00 / 開演 19:00
■第4回林家きよ彦 独演会 〜師匠参観日〜
2022年11月11日(金) 日本橋社会教育会館ホール
開場 18:20 / 開演 18:45
■男女三人秋物語2022(春風亭昇輔、古今亭佑輔、林家きよ彦)
2022年11月15日(火) ミュージックテイト
開場 18:30 / 開演 19:00
■すがも巣ごもり寄席
2022年12月14日(水) スタジオフォー
開場 12:30 / 開演 13:00
■噺ノ目線
2022年12月14日(水) なかの芸能小劇場
開場 18:30 / 開演 19:00
■きよ彦BoB!!! vol.6
2022年12月16日(金) アトリエ三軒茶屋
開場 18:30 / 開演 19:00
■シモキタで女子会?!クリスマスだよ!全員集合!
2022年12月25日(日) 下北沢・サンガイノリバティ
開場 12:30 / 開演 13:00
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『落語の凄さ』(PHP新書)。
■橘蓮二著『落語の凄さ』PHP新書
人気落語家5人が演芸写真の第一人者橘蓮二さんに、落語ならではの魅力を語り、さらに自身の落語との向き合い方を本音で語る。登場するのは春風亭昇太、桂宮治、笑福亭鶴瓶、春風亭一之輔、立川志の輔。何ともすごい顔ぶれ。観客と演者の狭間に身を置く橘さんだからこそ引き出せる、奥行きのある話が満載。