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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

三遊亭ごはんつぶさん、神田松麻呂さん(講談)  ごひいき願います!

毎月21日連載

第11回

左から)三遊亭ごはんつぶ、神田松麻呂 撮影:橘蓮二

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「男前、落語と観客を繋げる一役に」 ──三遊亭ごはんつぶ

一目瞭然、落語界トップクラスのイケメンである。そして心構えもまた様子の良さに負けず劣らず男前。11月初席より二つ目に昇進した三遊亭ごはんつぶさんの落語に対しての想いとお客さまへの向き合い方はとても誠実だ。自身が初めて落語に触れた時の感動をいつまでも忘れずにひとりでも多くのお客さまに来ていただこうと日々創意工夫を重ねている。

ごはんつぶさんが常々心がけているのはどんな噺でも登場人物の設定や性格を抜かないこと。例えば“与太郎”というキャラクターは落語ファンにはお馴染みだが初見のお客さまはよく知らない。いきなり理解している前提で噺を始めたら置いていかれた聴き手は物語に没入できない。先ずは少し会話を重ねて与太郎の天然な性質を伝えてからストーリーに入っていくように心掛けている。表現がとても繊細で丁寧なのは古典と新作の差違や構造をしっかりと理解しているからである。

ごはんつぶさんは古典の上手さにも定評があるが特に新作に於けるセンスと表現力は先年亡くなった大師匠にあたる新作落語のレジェンド三遊亭円丈師匠やごはんつぶさんの師匠である人気新作落語家のひとり三遊亭天どん師匠に将来比肩する力量がある。新作落語は最初は誰も知らないところから語り出すので先ずは関係性や人物描写を明確に伝えることが尋常であることが全ての落語表現に生かされている。

新作の持ちネタ数は約80本、常に10本以上は高座にかけることができる高いポテンシャルを持ちながらも、作品の質を上げるためにはウケたものを捨てることも時には大事だと自己満足に浸ることを許さない客観的な厳しさも備えている。そして常に気持ちを安住させることなく自分が何をやりたいか以上にその日のお客さまに如何に噺をフィットさせ楽しんでもらえるかを考えている。

古典や新作、改作など様々な演目があり、演じる落語家がいる。入口はどこであっても構わない。ひとりの演者が表現する究極のエンタテインメントである落語が織り成す世界とお客さまの心を繋げる一役になることを願い、ごはんつぶさんは今日も目の前のお客さまに想いを注いでいく。眉目秀麗な姿に柔軟さと芯の強さを併せ持つ。これほどカッコいい落語家さんはそうそういない。

「温もりの講談師」──神田松麻呂

今や講談の世界だけに留まらない演芸界のスーパースターと言うべき存在、神田伯山先生の出現により俄然注目を集める講談界にはここ数年将来を嘱望される多くの若手講談師が頭角を現してきた。活況を呈する中でまたひとり神田派期待の講談師 神田松麻呂さんが9月下席より二つ目昇進を果たし、いよいよ本格的に活動の場を広げていく。

講談に描かれる世界は様々、軍記物や政談、侠客伝など幾つもの演目があるが演者によって描く世界観は千差万別、特に人物造形に於ける感情の込め方には最も違いが顕著に出る。講談界に君臨する数多の名人上手は元より、近年才能溢れる個性的な若手講談師が次々と生まれ虜になる講談ファンが増え続けている。

松麻呂さんの高座はいつ聴いても観客の気持ちに沁みわたるような温もりを感じるところに惹かれる。本人も人間の業が沸き立つ情念のダークサイドを描くよりも希望が持てる陽の感情に立脚し且つ義理人情に彩られたハッピーエンドの話を演じたいと語る。更にもうひとつ心掛けていることは高座では常にお客さまと共に空間を作る意識を持つことの重要性。そこには表現者は陥りやすい自分の世界に耽溺した発表会であってはならないという意志とエンターテインメントとしての講談を届け喜んでもらいたいという強い気持ちが表れている。

二つ目昇進を果たしてからは更にアンテナの感度を上げ、自分の出番のみに注力せず寄席や出演する会全体の流れや観客のささやかな変化を感じ取りながら対応力を磨き自身の講談に反映させている。そして何にも増して松麻呂さんが将来の講談界に大きな足跡を残す存在になれると期待できるのは確りと足元を見詰め続ける謙虚な姿勢とお客さまに対しての向き合い方がブレていないところである。

松麻呂さんの師匠、人間国宝 神田松鯉先生は“実るほど頭を垂れる稲穂かな”を体現する芸も人格も最高峰の芸人。その松鯉先生の教え“常にまわりの人に感謝する気持ちを忘れない、皆さんがあっての自分”の想いを講談に込めながら高座を重ねていく。ダイナミックな語り口と気持ちがほどけていく優しい笑顔。松麻呂さんの高座には温かな人柄が柔らかな光となって降り注ぐ。

文・撮影=橘蓮二

三遊亭ごはんつぶ 公演予定

■鈴本演芸場「十一月下席夜の部」
2022年11月22日(火)〜29日(火) 鈴本演芸場
開場 17:30 / 開演 17:45

■山野楽器・落語の一日 第三部
=三遊亭ごはんつぶ・二つ目昇進を祝う会=
2022年11月28日(月) ヤマノミュージックサロン池袋
開場 18:20 / 開演 18:40

■新宿末廣亭「十二月上席夜の部」
2022年12月1日(木)〜10日(土) 新宿末廣亭
昼夜入替なし 開演 16:45

■「わん丈ストリートVol.36」
2022年12月12日(月) 国立演芸場
開場 17:30 / 開演 18:00

■「蒲田落語ゆきねこ亭」
2022年12月17日(土) 寿司居酒屋日本海蒲田店2階スタジオ
開演 13:00

■「DOURAKUTEI 寄席 春風亭だいえい・三遊亭ごはんつぶ『二つ目になりました』」
2022年12月25日(日) 新宿・道楽亭
開場 13:30 / 開演 14:00

神田松麻呂 公演予定

■新宿末廣亭「十一月下席夜の部」
2022年11月21日(月)〜 30日(水) 新宿末廣亭
昼夜入替なし 開演 16:45

■「すがも 巣ごもり寄席」
2022年11月23日(水) スタジオフォー
開場 12:30 / 開演 13:00

■「神保町かるた亭」
2022年11月24日(木) 奥野かるた店
開場 17:30 / 開演 18:00

■「若葉会」
2022年11月28日(月) お江戸日本橋亭
開場 11:30 / 開演 12:00

■新宿末廣亭「十二月中席夜の部」
2022年12月11日(日)〜12月20日(火) 新宿末廣亭
開演 16:45

■「木馬亭講談会」
2022年12月10日(土) 浅草木馬亭
開場 12:30 / 開演 13:00

■「明日葉会」
2022年12月10日(土) お江戸上野広小路亭
開場 18:00 / 開演 18:30

■「ワンコイン寄席」
2022年12月12日(月) 連雀亭
開場 11:00 / 開演 11:30

■「若葉会」
2022年12月12日(月)・26日(月) お江戸日本橋亭
開場 11:30 / 開演 12:00

■「神田松麻呂の会」
2022年12月17日(土) 墨亭
開場 10:40 / 開演 11:00

■「講談きゃたぴら」
2022年12月20日(火) 連雀亭
開場 13:00 / 開演 13:30

■「よしなに」
2022年12月22日(木) スタジオフォー
開場 18:30 / 開演 18:45

■「堀之内寄席」
2022年12月23日(金) 堀之内 妙法寺
開場 14:00 / 開演 14:30

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『落語の凄さ』(PHP新書)。

■橘蓮二著『落語の凄さ』PHP新書

人気落語家5人が演芸写真の第一人者橘蓮二さんに、落語ならではの魅力を語り、さらに自身の落語との向き合い方を本音で語る。登場するのは春風亭昇太、桂宮治、笑福亭鶴瓶、春風亭一之輔、立川志の輔。何ともすごい顔ぶれ。観客と演者の狭間に身を置く橘さんだからこそ引き出せる、奥行きのある話が満載。