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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

立川笑二さん、桂九ノ一さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第13回

左から)立川笑二、桂九ノ一 撮影:橘蓮二

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「演者の人間力」──立川笑二

陽だまりのような温かな高座は立川笑二さんの人柄そのもの。観る者を惹き付けてやまない愛らしい笑顔と耳にしっとり馴染む柔らかな語り口が何とも心地好い。お笑い芸人を目指し、ふるさとである沖縄を後に大阪の芸能事務所主宰の学校に入学、コンビを組み漫才師として暫く活動していたがその後解散、二十歳で立川談笑師匠に入門するために上京、2011年6月に入門を果たした。

談笑師匠は落語界きっての知性と懐の深さを兼ね備えた賢人。経験のみに基づく一元的な考えを理不尽に押し付けることを良しとせず、お弟子さん達ひとりひとりの個性を見極めながら見守り育てる名監督であり名コーチ。包容力ある師匠の元で順調に修業を重ね2014年6月、3年という異例のスピードで二つ目に昇進し周囲の高い評価を受けていた。しかし好事魔多し、その後、笑二さんは人間関係のストレスから倦み疲れ、全ての連絡を断ち切り自分の心を閉じてしまった時期があった。そんな状況にあっても簡単に切り捨てず手を差し伸べ、復帰するまで親身に寄り添ってくれたのが敬愛する師匠だった。

その時の事を振り返り笑二さんは

「あの時、師匠に救ってもらわなければ今の自分はいなかった」

人生は他者と関わることで形作られていく。しかし誰しもそう容易く自分の思う通りに生きて行けるものではない。出会いの中で孤独と連帯を繰り返しながら懸命に日々を送っていく。人は些細な言葉に傷付き細やかな一言に救われる。

「落語家以前の人としてどうであるかが大事」

と語る笑二さんは協会や先輩後輩を問わず積極的に周囲の人間とコミュニケーションをはかり心を配る。“対話する一門”で育まれた笑二さんは、他者に想いを馳せることの大切さや相手の喜びを感じることによって個人としてまた落語家として存在する意義が何処にあるのかを深く理解している。古典落語をベースに世界観を損なうこと無く現代的な笑いを盛り込みながら構成し独自のセンスを反映させた繊細で力強い物語は常に演者と聴き手が同じ目線で向き合っていることを感じる。その高座からは観客と空間を共有し直接語りかける落語という表現に於ける技術を超えた先に位置する“演者の人間力”の重要性が伝わってくる。ポカポカと心温もる笑二さんの落語にはお客さまへの優しい共感がある。

「昔日の自分へ」──桂九ノ一

「落語って面白い!」。外連のない真っ直ぐな言葉に桂九ノ一さんの限りない落語への愛情が凝縮されている。声音のグラデーション、どんな動きにも対応できるコントロールされた所作、そして高座にかける熱量。そのポテンシャルの高さは実力者が揃う若手上方落語家の中でも抜群の存在感を放っている。大師匠にあたる桂枝雀師匠の十八番のひとつで大ネタの『天神山』や前座噺『御公家女房』、『幽霊の辻』(小佐田定雄 作)など様々なスケールの噺のいずれにも自身をフィットさせ登場人物を立体的に描く力は見事だ。

高校卒業後、お笑い芸人を目指すも養成所を3日で退所、それでもお笑いの世界に身を置くことを諦めきれずにいた頃、以前母校の記念式典で見た桂九雀師匠を思い出し落語の知識が全く無いにも関わらず入門志願、九雀師匠の唯一の入門条件の二十歳未満をギリギリ満たし入門、四年間の内弟子修業を経て“年季明けは、20本のネタを上げる”をクリア、2020年5月に年季明けした。ところが当時はコロナ禍の真っ最中、仕事はおろか黒紋付きの着物と羽織を作ることも儘ならない状況に追い込まれる。そこで九雀師匠にもゲスト出演していただき毎日三本のネタをかけ7日間連続の落語会を開催、お客さまからの心のこもった入場料で念願の着物一式を誂えることができた。その時の得難い経験は現在の九ノ一さんの落語家として活動していく上での大きな柱のひとつになっている。

以前にはコインランドリー内のスペースで演じたこともある。どんな環境であってもでき得る限りのことを総動員して目の前のお客さまに落語を届けることで表現のチャンネルを増やしてきた。更に最大の趣味である音楽活動も効果的に作用し、リズミカルで緩急が効いた高座は心地よい。これほど多才であっても古典落語に拘り続け、若い感性を持つ落語未体験の人達に一度でもいいから落語の愉しさを感じて貰いたいと言う。そこには初めて落語を聴いた遠い日、会話の意味すら希薄で噺をさっぱり理解できなかった自分へ向けた想いがある。

「昔の自分に落語の面白さをわかって貰いたいんです」

九ノ一さんは落語とお客さまに対しての向き合い方がとても献身的だ。これから多くの魅力的な落語家さんに出会うであろう未来の落語ファンに予めお伝えしたい。

「桂九ノ一って面白い!」

文・撮影=橘蓮二

立川笑二 公演予定

公式サイト:
https://tatekawashouji.com/

■立川笑二独演会
2023年1月22日(日) 沖縄・ゆかるひホール
開場 17:30 / 開演 18:00

■立川談笑一門会
2023年1月24日(火) 吉祥寺・武蔵野公会堂
開場 18:30 / 開演 19:00

■立川笑二ひとり会 その3
2023年1月25日(水) アーリーバード・アクロス
開場 18:30 / 開演 19:00

■有望若手応援寄席 第256回・立川笑二独演会 第14回
2023年1月29日(日) 飯能・一丁目倶楽部
開場 14:00 / 開演 14:30

■立川笑二独演会
2023年2月6日(金) 東京・道楽亭
開場 18:30 / 開演 19:00

■立川笑二月例独演会
2023年2月22日(水) 上野広小路亭
開場 18:30 / 開演 19:00

桂九ノ一 公演予定

■九雀家の人々
2023年1月25日(水) ツギハギ荘
開場 18:15 / 開演 18:45

■ラクゴ・ラモーンvol.5
2023年3月4日(土) 動楽亭
開場 18:30 / 開演 19:00

■桂九ノ一東京ひとり会「九ノ一のピン!」
2023年4月1日(土) らくごカフェ
開場 13:00 / 開演 13:30

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『落語の凄さ』(PHP新書)。

■橘蓮二著『落語の凄さ』PHP新書

人気落語家5人が演芸写真の第一人者橘蓮二さんに、落語ならではの魅力を語り、さらに自身の落語との向き合い方を本音で語る。登場するのは春風亭昇太、桂宮治、笑福亭鶴瓶、春風亭一之輔、立川志の輔。何ともすごい顔ぶれ。観客と演者の狭間に身を置く橘さんだからこそ引き出せる、奥行きのある話が満載。