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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

桂源太さん、桂銀治さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第22回

左より)桂源太、桂銀治 撮影:橘蓮二

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「“普通”であるために」──桂源太

“孤独”と“恐怖心”を持ち続けることが創作意欲を駆り立てる原動力になる。人と接し他者の想いを知ることは重要だが“結束”と“群れる”ことは全くの別物であることに気付かなければ“慣れ”という表現する者にとって最大の敵に瞬く間に取り込まれてしまう。先ずは終わりのない表現の地平にひとりで立つこと、そして千変万化の高座を前に正しく恐がることができれば落語と真正面から深く向き合える。

「ビビりで頑固ですから」

自身の落語を見定めようとする真摯な姿勢が表出したその言葉に、上方落語のホープ桂源太さんから感じていた高座に於ける抜群の安定感の意味がキレイに肚に落ちた。

小学校の頃よりお笑い芸人になることを夢見ていた。大学ではここぞというお笑いサークルを見つけられず何の気なしに落語研究会へ入部することに。そこで出会った同世代の高座に刺激を受け新たな世界が開かれていくことを実感、本腰を入れて落語に取り組み始めた。元々センスもあり努力家でもある源太さんは直ぐに結果を出した。大学2年で全日本学生落語選手権策伝大賞で優勝、その瞬間、朧気だった落語家になるという目標が明確になった。その後、生で触れられる高座はほぼ観尽くした上で最高に愉しくて失礼ながら最も“気が合う”と直感した上方の人気落語家・桂雀太師匠に入門することを心に決めた。後にラジオ番組に出演した雀太師匠が

「生き写しかと思うほど自分に似ている」

と称した相性抜群の“相思相愛”の師弟。入門時の予感は見事的中、2018年4月入門。芸に厳しく人に優しい人間的にも器の大きい雀太師匠の教え

“どんな時にも周囲の人に感謝を忘れない”

の言葉を心に刻み修業を重ね2020年4月に年季明け、精力的に活動の場を広げ早くも将来の上方落語を担う看板のひとりになれる逸材と期待されている。

会場の大小や会の規模にかかわらず常にぶれない芯の通った所作と淀みなく刻むリズム感溢れる語り口、表現の入力と出力の絶妙なバランスは日頃から落語にどれ程の手間隙を注入しているかが窺える。

「付き合いが悪いと思います」

と前置きしながら無理して余暇を過ごすなら落語の稽古をしたいと言い切る。更に“無頼”を装うよりも“普通”で在りたいと。源太さんが追い求める“普通”には近道や裏技などは微塵も存在しない。いつ観ても自分らしさを失わない溌剌とした高座は感性プラス実践、そして自身を内観できる強靭な思考に支えられていることが分かる。その“普通”は決して普通じゃ成し得ない。

「感情の温度を聴く」──桂銀治

人間の持つ五感の強度は個々によって異なる。視・聴・嗅・味・触、の中で最も鋭敏な感覚が前に出ることで脳内に描かれるイメージはより明確になる。

前座時代より逸材の呼び声も高い気鋭の新二ツ目・桂銀治さんはその日のお客さまの集中の度合いやバランスの変化を察知するために重要なのは“客席の温度を聴く”ことだと言う。“温度”とは“聴き手の感情”と同義、会場の大小や観客の入り具合以上に同じ空間を共にするお客さまの気持ちと高座にかけた落語を一致させ如何に楽しんで貰えるかを真っ先に考える。

大手芸能プロダクション(地元にあった支社)に所属し活動していたが、目指す場所がメディアへの進出以上に生の舞台をやりたいという気持ちが強かったことと落語は人情噺や怪談噺など笑い以外でもお客さまに喜んで貰えるエンターテインメントであることが落語家への道を決断する大きなきっかけとなった。2018年9月に上京、2019年4月三代目桂伸治師匠に入門、前座名「伸ぴん」で修業をスタートさせ2023年9月下席より「銀治」と改名して待望の二ツ目に昇進した。

寝言で落語を喋っていたほどの底知れぬ“落語好き”。二ツ目昇進後の心境の変化は?の問いに今まで5分以内だった持ち時間が15分になりじっくりと寄席を体感できて「毎日高座が楽しい」と答え、プロフィールの趣味の項目「落語鑑賞」が示す通り、常に頭から落語が離れず日常生活の些細な出来事も落語に反映させる“生きること即ち落語”を体現する何処を切っても溢れ出る尋常じゃない落語愛はそれはそれは桁違いだ。

口跡善き語り口と切れある所作で描く古典落語では程よくオリジナルなくすぐりを織り込み物語を際立たせ、会のテーマによっては新作を披露するなどその才能は留まることを知らない。更に『思い出』(五代目古今亭今輔・作)『抜け裏』(五代目柳亭燕路・作)といった創作された当時は時代の空気を纏っていたが時間の経過と共に廃れ埋もれていった昭和初期の新作噺を掘り起こすことにも積極的にトライしている。

将来の目標も大仰なことは言わず二ツ目昇進の感想とほぼ同じ

「毎日高座に上がりたい」

お客さまにひととき物語に身を委ね喜んで欲しいという想いは扇子の置き方にも表れている。客席との境界を示すために自分の前に平行に置く演者が多い中、銀治さんは意識的に扇子を脇に置いている。そこには素晴らしき落語の世界を分け隔てなく共有したいという想いが表明されている。銀治さんが持つセンサーには演者と観客の心を繋げる力と温かい感触がある。

文・撮影=橘蓮二

桂源太 公演予定

公式サイト:
https://katsuragenta.com/

■ジャッキー7 vol.136 〜桂雀喜の落語会
2023年10月22日(日) 大阪・摂津市民文化ホール(くすのきホール)
開場 13:30 / 開演 14:00

■喜楽館 昼席〜繁昌亭大賞受賞者記念ウィーク〜
2023年10月23日(月) 兵庫・神戸新開地 喜楽館 開演 14:00

■~喜楽に落語~ ハルカス寄席
2023年10月24日(火) 大阪・あべのハルカス
一部:開場 12:45 / 開演 13:00
二部:開場 14:15 / 開演 14:30

■桂源太の星時ちいさな落語会
2023年11月4日(土) 岐阜・喫茶 星時
開場 18:30 / 開演 19:00

■たこらく
2023年11月18日(土) 東京・らくごカフェ
開場 18:00 / 開演 18:30

■カモニン落語会
2023年11月19日(日) 東京・梅里一八八(GALLERY工+with)
開場 14:30 / 開演 15:00

桂銀治 公演予定

公式サイト:
https://www.katsura.to/

■昔昔亭A太郎 お江戸日本橋亭独演会vol.7
2023年10月23日(月) 東京・お江戸日本橋亭
開場 17:30 / 開演 18:00

■第1回いっちゃが
2023年10月30日(月) 東京・竹芳亭
開場 18:30 / 開演 19:00

■桂銀治落語会 in 福岡
2023年11月1日(水) 福岡・博多落語カフェ笑庵
開場 18:30 / 開演 19:00

■とうきやのらくご その弐
2023年11月2日(木) 福岡・とうきや
開場 18:30 / 開演 19:30

■桂銀治二ツ目昇進落語会・延岡
2023年11月5日(日) 宮崎・風の菓子 虎彦
開場 17:30 / 開演 18:00

■第17回 芸協コマド落語会
2023年11月14日(火) 東京・cafe COMADO
開場 19:15 / 開演 19:30

■桂銀治 独演会「凱旋」
2023年11月18日(土) 東京・道楽亭
開場 13:30 / 開演 14:00

■桂銀治二ツ目昇進の会
2023年11月23日(木) 東京・お江戸日本橋亭
開場 12:30 / 開演 13:00

■にまめのこまめ 東京編 -桂二豆 上方落語勉強会-
2023年12月7日(木) 東京・光塾 COMMON CONTACT並木町
開場 18:30 / 開演 19:00

■協力ひらい圓藏亭 立川幸朝・桂銀治二人会
2023年12月23日(土) 東京・ひらい圓藏亭
開場 13:30 / 開演 14:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。