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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

三遊亭遊七さん、春風亭だいえいさん ごひいき願います!

毎月21日連載

第26回

左より)三遊亭遊七、春風亭だいえい 撮影:橘蓮二

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「在り続けるということ」──三遊亭遊七

芯のあるしなやかな所作と聴き手の気持ちを優しく誘導する艶めく声音で描く空間には幾つもの色彩を感じる。その鮮やかで澄みきった色合いは、果てしない芸の道を偽りなく真っ直ぐに進んで行く嘘のない向上心が纏う色そのもの。大学在学中より劇団に所属し途中ストレートプレイからミュージカルへ移行しながら20代は演劇の世界に生きていた。

今思えば運命的とも言える落語へのめり込むきっかけは知人を通じて引き受けた歴史散策ガイドの仕事でのちょっとしたアクシデント。予約時の開花予想とは大幅にずれた花見ツアーのガイドで実際には殆ど咲いていない中でお客さまに楽しんでいただこうと土地や桜に纏わる落語をしゃべったことが始まりだった。不思議なほどスッと気持ちに馴染んだ落語の魅力にすっかり取り憑かれ、その後はさらに落語を深めようと教室に通い始め瞬く間に5年という月日が経っていた。そしていつしか芽生えたプロの落語家への思い断ちがたく、年齢制限ギリギリ(落語芸術協会は35歳)のタイミングで教室の講師を勤めていた三遊亭遊之介師匠に入門。2016年4月より楽屋入り、前座修業を重ね2020年5月二ツ目に昇進した。

二ツ目昇進後は落語ユニット「擊鱗」や芸術協会の総会で虚無僧の格好で演奏した余興から生まれた三人組の音楽パフォーマンスユニット「CommeSeau-コムソウ」など様々な形態での活動も自身の落語にフィードバックさせる努力を惜しまない。とりわけ遊七さんは自身の落語の現在地を知りどうアプローチしていくかという客観的な視点と事象や他者に対しての感度が非常に高い。才能豊かな同世代の仲間と定期的に結集することでお客さまがシャッフルされ刺激になることに加え、お互いの伸び方のバロメーターに照らし合わせ短時間で好不調に気付ける故に例え自分がスランプになっても修正しやすいと鋭い分析力をみせる。さらに目標とする“総合力の高い落語家”を目指し小唄、長唄、踊り、笛といった落語表現を高める全ての素養を身体に染み込ませるための精進も怠らない。踊りからは隅々まで行き届いた繊細な身のこなしを、唄と笛からは日々移り変わる声や音の微細な高低差の違いを感知する力を身に付けた。そこには昨日より今日、今日より明日、もっと上手くなりたいと願いながら高座に向き合う遊七さんの真摯な落語への想いが在ればこそ。

三遊亭遊七さんの高座は体現している。“なることに意味があるのではない、在り続けることこそ尊い”と。

「心のファイティングポーズ」──春風亭だいえい

繊細な者ほど己の心に爪を立ててしまう。奥行きを感じる天性の声質の良さと丁寧でスケールの大きい所作で積極的に高座を重ねる期待の若手、春風亭だいえいさんもまたシャイで仲間想いそして理不尽を許さない正義感を持つが故の苦しみがあったことは想像に難くない。この世代はご多分に洩れずコロナ禍で先行きが見通せない焦りや不安がつきまとう長い前座修業を経験している。自己肯定感が低く、時に不貞腐れてしまうこともあったと当時を振り返る。しかし二ツ目昇進を境に、このまま置かれた状況に甘んじることを善しとせず同世代や次世代の活躍を意識しながら

「沈まないように自分でやるしかない」

と落語家として生きていくために危機感を持って厳しく自身を見つめ直した覚悟は以前とは比べようもなく強度を増した。

小学生の頃からの落語ファン。日常の傍らにはいつも落語が流れていた。当初はプロになることは考えておらず大学卒業後は映画会社に入社した。ところが三年ほど勤めた後に転機を迎える。当人曰く人生に迷いモヤモヤしていた時期に生涯をかけてやり遂げたいことの真っ先に頭に浮かんだのがいつも自分を癒し救ってくれた落語の存在だった。寄席通いを始め数多の高座を体感する中で鈴本演芸場のトリに出演していた春風亭百栄師匠の落語に魅了され弟子入りを決意する。2017年6月入門、2018年9月前座名「だいなも」後に「枝次」と改名、2022年11月「だいえい」に再び改名し二ツ目に昇進した。二ツ目昇進以降はそれまで以上にまくらや入れごとを含め高座にかける噺が落語表現として成立しているかを常に念頭に置き根多おろしの会など数多くの高座を精力的に続けている。想い描く理想の落語家像は化学調味料を使わない素材の良さが際立つ料理のような、忘れていた感覚が甦り思わず聴き手の背筋が伸びる落語の真髄を感じられる落語家になること。

真摯に生きようとすれば知らず内に葛藤や焦燥に駆られ逸走することも気持ちに血が通わなくなることもある。例え追い込まれたとしても執着心を持って立ち続ける者だけに次のステージに向かう扉は開かれる。格闘技の世界には“嫌倒れ”という言葉がある。それは肉体的にではなく心が折れて自ら倒れることを言う。数値化できない表現に於いてはより精神的なコントロールは重要になる。いつでも心のファイティングポーズを崩さない表現者は応援したくなる。頑張れ!だいえい!

文・撮影=橘蓮二

三遊亭遊七 公演予定

■梅林寄席
2024年2月23日(金) 神奈川・湯河原梅林
開演 13:30

■さがみはら若手落語選手権予選
2024年2月24日(土) 神奈川・杜のホールはしもと
開場 13:30 / 開演 14:00

■二二九落語会
2024年2月25日(日) 東京・rogicaya路地裏寺子屋
開場 17:40 / 開演 18:00

■発破三人会
2024年2月27日(火) 東京・梶原いろは亭
開演 19:00

■2月下席魅知国仙台寄席
2024年2月29日(木) 宮城・仙台花座
開演 11:00 / 14:00

■梶原いろは亭日曜寄席『ひな祭りの会』
2024年3月3日(日) 東京・梶原いろは亭
開演 12:30

■ろじこや二ツ目落語会
2024年3月5日(火) 東京・rogicaya路地裏寺子屋
開演 19:00

■築地魚よし落語会二人会
2024年3月16日(土) 東京・築地魚よし
開演 14:00

■第36回谷根千よみせ落語会
2024年3月18日(月) 東京・coffee chi-ze 2号店
開場 19:00 / 開演 19:30

■第24回撃鱗-GEKIRIN-弥生の陣
2024年3月22日(金) 東京・神田連雀亭
開演 18:00

■しまあかり落語会
2024年3月23日(土) 東京・熱帯夜酒房しまあかり日野
19:00〜20:00

■りさらくご鈴座落語会
2024年3月28日(木) 東京・鈴座
開演 19:00

■三遊亭遊七の会
2024年3月30日(土) 東京・スカイルーム太陽
開演 14:00

■花の吉原落語会プレミアム
2024年4月6日(火) 東京・桜なべ中江別館金村
開場14:00 開演 14:30

■二ツ目×二ツ目勉強会
2024年4月7日(日) 埼玉・ティールームJUNE
開演 16:30

春風亭だいえい 公演予定

春風亭だいえい出演情報(アメブロ):
https://profile.ameba.jp/me

■さがみはら若手落語選手権予選
2024年2月24日(土) 神奈川・杜のホールはしもと
開場 13:30 / 開演 14:00

■四谷だいえい百席Vol.5
2024年2月29日(木) 東京・上智大学
開演 19:10

■春風亭一花の会「はないちりん〜一花の部屋〜」ゲスト
2024年3月2日(土) 東京・らくごカフェ
開演 13:30

■第6回 カゼトソラ落語会
2024年3月3日(日) 東京・蕎麦カゼトソラ
開場 15:10 / 開演 15:30

■第58回南阿佐ヶ谷すずらん通り落語会
2024年3月11日(月) 東京・アートスペースプロット
開演 11:30

■大幸落語会
2024年3月13日(水) 東京・フリースペース無何有
開場 18:45 / 開演 19:00

■だいえい鯉花二人会
2024年3月20日(水・祝) 東京・koenjiHACO
開場 13:30 / 開演 14:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。