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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

春風亭昇羊さん、柳家小ふねさん ごひいき願います!

毎月21日連載

第27回

左より)春風亭昇羊、柳家小ふね 撮影:橘蓮二

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「発信と受信」──春風亭昇羊

優れた表現者は発信力より受信力が勝っている。最終的にはどう出力するかだが、そこに至るまで何を感じどう思考し準備してきたかが問われる。ここ最近、春風亭昇羊さんの活躍がめざましい。前座時代から目を引く持って生まれた華やかな空気を纏った明快な高座の上に強度が加わりお客さまを惹き付ける落語の吸引力が一段と上がっている。

子供の頃からお笑い好きであったが落語に触れる機会は皆無でその存在も意識したことはなかった。高校卒業後、あるお笑い芸人が演じた古典落語をアレンジした高座を観たことが元々お笑い表現に関わりたいと思っていた気持ちとシンクロ、新作落語を創り演じたいとプロを目指すことになる。しかし落語に関しての知識はゼロに等しい。そこで【落語・面白い】で検索し最初にヒットした春風亭昇太師匠に弟子入り志願するという今考えるとだいぶ無茶な行動であった。それでも何度も粘り強く通い続け2012年5月に六番弟子として入門を果たす。まる4年の前座修業を終え2016年5月二ツ目に昇進した。

これまでの経緯を伺っている中で前座時代を振り返り「傲っていた当時の自分は嫌い」の一言が強く印象に残った。具体的に何があったとハッキリとしたキッカケは分からないがその後知らず知らずのうちに落語家としての有り様が大きく変化していった。当初は新作落語家に成るべく自身の創作落語を演じていたが、次第に人生を右往左往と惑いながら懸命に生きる人の営みが生み出す切なさや滑稽さといった豊かな感情が詰まった世界観に気持ちが向かい現在は古典落語を演じることに重心を置いている。兄弟子の元に毎月3回1年間に渡り通いながら古典落語の基礎をみっちり稽古するなど地道な努力を重ねてきた。

さらに怠ることのない実践の中で培った高い感受性により落語と聴き手である観客、そして自身の心の置き方がとても綺麗なバランスを保っている。演じ方や根多のチョイスなどお客さまにどうすれば物語の面白さを壊さずに届けられるかを常に考え続ける謙虚で直向きな姿勢が高座から伝わってくる。そこには集団行動が苦手で目の前の事象に対して如何なる時も個で見極め立ち向かってきた者が持つ強さがある。“孤独”と“寂しい”は全く別物。ひとりで立つことができる(受信の感度が高い)からこそ他者と共感(多く発信)することができる。繊細で大胆、冷静で熱い昇羊さんの落語には深い奥行きと美しいコントラストを感じる。

「“フラ”があるは“嘘”が無い」──柳家小ふね

演芸の世界では得も云われぬ可笑しみのことを“フラ”と言うが何処のどういうところがそれにあたるかを具体的に説明することはなかなか難しい。しかして、その醸し出す独特の空気感と豊富な稽古量に裏付けされた巧みな高座がお客さまから同業者に至るまで俄然注目を集めている柳家小ふねさんにはこれまで数多の人気落語家から必ず感じてきた不思議な“フラ”が存在している。

2017年4月柳家海舟師匠に入門、2018年3月前座名「り助」で楽屋入り。4年間の前座修業を経て2022年5月「小ふね」に改名し二ツ目に昇進、2023年6月より柳家小里ん師匠の元へ移籍した。高校時代、大好きで毎日聴いていたラジオから流れてきた柳家小三治師匠の高座が落語との出会いだった。心地よい豊潤な世界に瞬く間に心を掴まれて気付けばすっかり“小三治マニア”になっていた。CDで全演目を聴くのはもちろんのこと小三治師匠に関わる書籍も全て読み込んだ。そして仙台で過ごしていた大学在学中、毎年開催されていた小三治師匠の独演会に足を運び憧れの存在を目の当たりにするうちに気持ちは次第にプロの道を意識するようになる。大学卒業と同時に意を決し落語家になるために上京、アルバイト先の知人が縁となり念願叶い落語の世界に足を踏み入れた。

とにかく勉強家、毎月根多おろしの会を開催し現在持ち根多数は50席を超える。本人曰く無趣味で下戸故に落語に費やす時間が一番楽しいと言い切る。人間観察に長け多角的な視点から得た工夫を巧みに落語に織り込む。そして小ふねさんの高座の魅力は何と言っても落語に出てくる登場人物が皆とてもチャーミングに描かれているところである。ことさら大きく表現したり無理にウケを取りに前掛かりにならず、噺の流れの中でスッと差し込む台詞の言い回しや緩急の付け方に不自然さがなく、やり取りが非常に立体的であるためにキャラクターが際立ち聴き手は瞬時に物語に没入できる。さらに小ふねさん自身の優しい人柄も落語のそこここに反映されている。日々最も気を付け心掛けているのは決して“人の悪口は言わない”こと。

柳家小三治師匠は演じる時の心構えについてこう語っていた。本当にその人に成りきればこれから起きることを“登場人物はまだ知らない”はずだと。強調せずとも自然に滲み出る。そう“フラ”と“嘘が無い”ことは同義なのだ。小ふねさんの高座には“フラ”がある、つまり落語に嘘が無い。

文・撮影=橘蓮二

春風亭昇羊 公演予定

■春風亭昇羊ネタだし落語会 ひつじのばば【毎月開催】
2024年3月26日(火) 東京・ばばん場
開場 18:30 / 開演 19:00

■春風亭昇羊独演会
2024年4月6日(土) 東京・亀戸梅屋敷
開場 14:00 / 開演 14:30

■第一回 春風亭昇羊関内落語会
2024年4月7日(日) 神奈川・関内ホール
開場 13:30 / 開演 14:00

■春風亭昇羊落語会 井上ひさし作より
2024年4月14日(日) 山形・東ソーアリーナ
開場 13:30 / 開演 14:00

■春風亭昇羊落語会
2024年4月15日(月) 宮城・魅知国定席花座
一部 開場 13:30 / 開演 14:00
二部 開場 18:00 / 開演 18:30

■第二十二回 いけびず落語会【定期開催】
2024年4月27日(土) 東京・としま産業振興プラザ(IKE・Biz)6階多目的ホール
開場 13:30 / 開演 14:00

■春風亭昇羊のショーヨー SHOW4【定期開催】
2024年4月27日(土) 東京・お江戸両国亭
開場 17:30 / 開演 18:00

<関連リンク>
■ヴィンテージファッションInstagram
https://www.instagram.com/hitsujirakugo?igsh=cnRmOThlZmwybWsx

■公演情報
https://x.com/s_sho_yo_?t=aYvQ7l0ngt5WKaN4-mFbVg&s=09

■お酒激弱な癖にやってる一人呑み歩きブログ
https://shoyohitsuji.blogspot.com/

柳家小ふね 公演予定

■天下一落語会 予選会
2024年3月23日(土) 東京・日本橋社会教育会館
開場 18:20 / 開演 18:45

■雨休亭 ふね・もん 春
2024年4月14日(日) 埼玉・氷川の杜文化館 伝承の間
開場 13:30 / 開演 14:00

■池袋特選会 第382回 二ツ目勉強会
2024年4月30日(土) 東京・池袋演芸場
開場 17:30 / 開演 18:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。