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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

寒空はだか先生・桂南海(なんしー)さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第33回

左より)寒空はだか、桂南海 撮影:橘蓮二

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「知性ある至芸」──寒空はだか

30年以上のキャリアを誇り演芸界に於いて括弧たる地位を築く芸人さんを若手扱いするとは何事かと突っ込まれることは重々承知の上で取り上げさせて頂いたのは1年間の代演及び準会員を経てめでたく8月上席より落語協会正会員に昇格した新たな門出を寿ぐと共に寒空はだかファンが未だ知ることがなかったミステリアスな来歴を解き明かすべく今回ご登場いただいた。

高校生の頃から先代金原亭馬生師匠に憧れ落語家を目指していた。大学進学と同時に落語研究会に所属「大詰亭冷やっこ(おおつめていひややっこ)」として落語に没頭する毎日だったが、落研の大会に出場した折に桁違いの“怪物”に出会ったことで運命が変わる。その“怪物”は圧倒的なセンスと実力で優勝したにも関わらず即落語家にはならなかった。目の当たりにした力量もさることながらプロを目指していたはだか先生にとってはその出来事もショックだった。書店員からその後トップ落語家になる小原君は大学在学中に『純情日記 横浜編』を既に生み出していた。そうその“怪物”は後の柳家喬太郎師匠だった。落語を離れたはだか先生は小劇団ブームの当時、先鋭的な劇団に入団する。それまで身近だった落語的笑いとは全く異質の世界を体感し発想が180度転換、在籍中に演じた即興劇を起点に退団後に活動拠点としていたライブハウスで弾き語りミュージシャンが多数出演する中で唯一楽器が演奏できないことを逆手に取り“真空ギター”の原型を編み出した。その後フォークシンガー姿でのひとりコントから「寒空はだか」となり、現在のスタイリッシュなジャケット姿での漫談スタイルを確立する。

どんな番組に入っても外さないネタ選びと流れを見極める感度の良さ、芸人随一と言ってもいいユーティリティープレーヤーぶりは寄席出演を重ねる毎にさらに磨きがかかっている。若き日感性を揺さぶられ身に纏ったシュールでナンセンスな笑いが寄席の高座でほどよく熟成ブレンドされ極上の味わいになっている。テレビ的な勢いに任せた平板なお笑いとは対極にある独自の切り口と絶妙な角度で笑いのツボを突いてくるはだか先生の至芸には知性を感じる。知性があるとは豊富な経験を踏まえた他者を思い遣る心根を宿していると言うことだ。「タワー、タワー、東京タワーに登ったわ~」演芸ファンなら知らぬ者はいない名曲『東京タワーの歌』がこれからは寄席でも聴けるという贅沢。いつ観ても何度聴いても寒空はだか先生の高座は「良かったわ~」。

「洗練された思考」──桂南海

観客の視線を瞬時に惹き付ける天性の佇まいは出色だが話を聞くほどに強く印象に残ったのは落語に対する“洗練された思考”である。落語家である自分との対話を片時も忘れない表現者としての誠実な姿勢は将来第一線に駆け上がるであろう大いなるポテンシャルを感じさせる。父はデザイナー、母は手芸作家。生まれながら音楽、絵画、映像、様々なクリエイティブな世界が身近にあった。

落語の入り口は高校時代に聴いた十代目金原亭馬生師匠。その端正な名人芸に痺れアイドルに憧れるが如く傾倒したが徐々に嗜好が変化、四代目柳亭痴楽師匠や五代目古今亭今輔師匠、そして先月99歳で天寿を全うされた四代目桂米丸師匠はじめ時代を反映させた創作・新作で名を馳せた落語芸術協会所属の先達の落語にのめり込んでいった。大学進学後も卒業と同時に落語家になることを胸に刻み芸協一筋に寄席へ足を運ぶ毎日だった。そんなある日、入門を即決する出来事が起こる。その日の番組はトリに人間国宝・講談師の神田松鯉先生、そして中トリ(この呼称は正式ではないが分かりやすいので敢えて)には講談のみならず演芸界を担うスーパースター神田伯山先生。お目当ての二人を観ようと駆けつけたお客さまで立錐の余地もない超満員の中で登場したのが桂小南師匠だった。柔らかく馴染ませるように空間を捉え時事ネタを絡めた演目であっという間に物語を現出させた手腕に心を射貫かれた。予定を前倒し大学を中退。2020年1月東京に雪が舞った極寒の浅草演芸ホール前で出待ち、念願叶い翌月入門、6月に前座名「南海(なんしー)」で楽屋入り、2024年8月中席より二ツ目に昇進した。

モットーは“高座では持てる力を出し惜しみせず全力を尽くす”。南海さんが日々意識する“全力”とは、ただがむしゃらに突き進むことではなくお客さまに落語をどう届けるかを見極め、想像力を膨らませるため如何に心を砕くか考え続けること。例えば自身の属性と登場人物に心情的距離がある場合は噺の骨格は崩さず自分のパーソナリティーに寄せた言葉を用いるといった創意工夫を忘れない。滑稽噺、人情噺、怪談噺、更には大喜利までエンターテインメントとしての落語の幅は広大である。まだスタート地点に立ったばかり。これから数え切れない成功と失敗を繰り返し他者と比して際立てばファンもアンチも増え続け、終わることのない自分への問いかけは生涯付いて回る。答えなど何処にもない。然れど今日も覚悟を持って颯爽と果てのない表現の道を歩んで行く。見据えるその先にある“南海落語”を数多の落語ファンと共に見届けたいと切に願っている。

文・撮影=橘蓮二

寒空はだか 公演予定

公式サイト:
https://yukiyanagi.sakura.ne.jp/

■浅草東洋館 9月下席
2024年9月21日(土)・22日(日) 東京・浅草東洋館
開場 12:00 / 開演 12:30

■喜楽館 昼席
2024年9月23日(月・休)~29日(日) 兵庫・新開地 喜楽館
開場 13:30 / 開演 14:00

■秋のはだか祭り ~寒空はだか×かんのとしこ×ラングド社
2024年9月25日(水) 大阪・ムジカジャポニカ
開場 18:00 / 開演 19:00

■鉄道演芸会〔鉄渦85号〕~秋の復活運転~
2024年10月5日(土) 東京・スタジオフォー
開場 18:30 / 開演 19:00

■天満天神繫昌亭 昼席
2024年10月14日(月)~20日(日) 大阪・天満天神繫昌亭
開場 13:00 / 開演 13:30

■桂しん吉『鉄』の祭典 ’24 ~『鉄渦の3人、三度来たる!』~
2024年10月16日(水) 大阪・天満天神繫昌亭
開場 18:00 / 開演 18:30

■桜荘18/秋の狂い咲きスペシャル
2024年10月27日(日) 東京・con ton ton vivo
開場 18:30 / 開演 19:00
共演 桜井明弘 / 金谷ヒデユキ / 遠峰あこ

桂南海 公演予定

■新鋭女流花便り寄席
2024年9月27日(金) 東京・お江戸上野広小路亭
開場 11:30 / 開演 12:00

■桂南海 自由型勉強会
2024年10月18日(金) 東京・道楽亭
開場 18:30 / 開演 19:00

■池袋演芸場 10月中席
2024年10月16日(水)~20日(日) 東京・池袋演芸場
開演 12:30

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。