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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

立川志のぽんさん、春風亭昇咲さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第36回

左より)立川志のぽん、春風亭昇咲 撮影:橘蓮二

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「落語に魅せられた男」──立川志のぽん

今月、満席の渋谷伝承ホールで開催した『立川志のぽん 渋谷之大風呂敷“けじめの会”』の空間には“落語家立川志のぽん”の現在地と未来への道筋が明瞭に姿を現していた。当初は今年1月に内定していた真打昇進の御披露目の会になる筈だった。しかしその後昇進に向けた迷いや重圧、落語への取り組み方の不備などにより内定は白紙に戻ってしまう。周囲の人に対する申し訳なさ、自分自身への情けなさ、当初は様々な葛藤が渦巻き気持ちは停滞するばかりだった。そんな八方塞がりの心を救ったのはこれまでどんな時も手離すことがなかった純粋な想い“大好きな落語が出来る喜び”だった。失意から立ち上がった志のぽんさんは毎月連続で独演会を行うなど以前にも増して積極的に活動を続け今回の公演も応援し支えてくれるお客さまと師匠の前でキチンとけじめをつけるためにキャンセルすることなく開催に至った。

高校時代に落語にハマリ、美術系の国立大学の大学院卒業まで落語研究会に所属、在学中は内面に浮かぶ発想を手作業で緻密に刻んでいく彫刻と所作と語りで想像させる落語、ベクトルの違う二つの表現に没頭する。卒業後二年半の会社員生活を送りながらプロになることを模索している時に学生時代から目標に掲げる“幾つもの異なる表現の統合”をまさに落語に於いて実現する“志の輔らくご”を目の当たりにする。何十年にわたりその圧倒的な世界観で他ジャンルに引けを取らない落語のエンターテインメント力を見せつけてきた立川志の輔師匠に入門することを決意する。2005年1月、28歳で入門、2013年4月の二ツ目昇進までの7年間、師匠の一挙手一投足に目を凝らしながら修業の日々を送った。変化する時代や世相との親和性に富んだまくらと演目選び、日常でのアンテナの張り方と膨大な知識量、お客さまのためにその日のベストを尽くす姿勢を間近で吸収していった。

芸術家肌で論理的、落語家としての美学と表現に対する拘りが強い反面、自分にはない環境に身を置くことでより良く変化しようとする客観的視点と柔軟性も併せ持っている。「こちらが投げたボールがお客さまの頭の中に波紋のように拡がりやがて笑いというひとつの塊になれる」ところが落語の魅力だと語る志のぽんさんの高座はいつでも幸福感に満たされている。その姿を先述の会で志の輔師匠は「ここにも落語に魅せられた男がいる」と言った。近い将来訪れる真打ち昇進に向けその歩みはもう止まらない。

「“慣れない”者が“成れる”」──春風亭昇咲

「初めて来た人に落語の面白さを伝えたい」目標として掲げる理想を如何に形にするのか、それにはどう思考し実践してゆくべきかを日夜求め続ける姿勢は一際目を引く。表現者には余分なものを極力排除しながら深度を意識して縦方向に進むタイプとアンテナを張り巡らし様々な要素を取り込み横方向に斬っていく2つのタイプがいる。どちらが正解ということではなくチームスポーツに於ける最適なポジションと同じく最大限に自分の能力を出力できるやり方を見つけることである。春風亭昇咲さんは間違いなく後者である。

2016年3月春風亭昇太師匠に入門、8月より楽屋入りし2020年9月二ツ目昇進と同時に落語芸術協会所属の若手ユニット√9に参加、期待の新作落語家のひとりに数えられる。さらに今年に入ってから√9で活動を共にする昔昔亭昇さん、笑福亭茶光さん、そして上方落語の逸材・桂九ノ一さんを加えた4人で笑いに特化した新たな落語会『わらいばなし』を自ら立ち上げるなど積極的に表現の幅を拡げている。幼稚園から大学まではサッカー一筋、卒業後も指導員資格を活かしスポーツ関連の仕事に就くことを考えていたが同時にお笑いにも興味があったことから放送作家などの裏方として関わることに意識が向く。その後自分の特性を分析した結果、じっくり時間と手間をかけて創作をしたい気持ちが膨らんだことと何よりも落語表現には無限の可能性を感じ厳しい修業は承知の上で落語家になることを決めた。入門後は第一線の落語家でありまた映画や演劇と様々なジャンルで活躍する師匠の元で4年間前座修業をしながら勉強を重ねていった。

昇太師匠は自分が知る落語家の中でもプロ中のプロと感嘆するほど“落語家としての在り方”を的確に捉える客観的視点とストレートな表現力のバランスがずば抜けている。落語に対しての向き合い方を見ていると昇咲さんは師匠にとても近いセンスがあると感じる。外の世界を体感し自身の表現にフィードバックさせることはとても重要な要素である。加えて元々は内省的な性格というのも良い結果に繋がり易い。何故なら不確定要素が多い表現に於いては評価の所在を外に求めずキチンと自分の中で修正できるからだ。落語に確りと軸足を置きどんな環境にも慣れることを知らない昇咲さんは他ジャンルと積極的に関わることできっと今までにない落語家になれるはず。ようは“慣れない”表現者だけが目指す者に“成れる”のだ。

文・撮影=橘蓮二

立川志のぽん 公演予定

公式サイト:
https://shinopon.com/

■年の瀬に、藤堂教授と白餅を聞く会
2024年12月29日(土) 東京・神田連雀亭
開場 17:30 / 開演 18:00
予約:1500円 / 当日:2000円
出演:立川志のぽん、藤堂高直(タイ国立チュラロンコーン大学客員教授、建築デザイナー、陶芸家)
予約・問い合わせ:
shinopontatekawa@gmail.com

■志のぽんの背伸びと寸法直し・折り返し!
2025年1月18日(土) 東京・神田連雀亭
開場 17:45 / 開演 18:15
予約:2000 / 当日:2200円
出演:立川志のぽん
予約・問い合わせ:
shinopontatekawa@gmail.com

春風亭昇咲 公演予定

公式サイト:
https://syunputei-syosaku.com/

■ 連雀亭 正月特別興行
2025年1月3日(金) 東京・連雀亭
開場 13:30 / 開演 14:00

■グリーンホール寄席「精鋭二人会」
2025年1月7日(火) 東京・グリーンホール環七野方
開場 15:30 / 開演 16:00

◾️新宿末廣亭正月初席 昼席
2025年1月8日(水) 東京・新宿末廣亭

◾️上野広小路亭しのばず寄席
2025年1月12日(日) 東京・ お江戸上野広小路亭

◾️浅草演芸ホール二ノ席 昼席
2025年1月14日(火)、17日(金) 東京・浅草演芸ホール

◾️ルート9 in 花座
2025年1月19日(土)・20日(日) 宮城・花座

◾️連雀亭 昼席
2025年1月26日(日) 東京・連雀亭

■第3回 わらいばなし〜ただ笑える落語だけをする落語会〜
2025年1月27日(月) 東京・下北沢・シアター711
開場 18:30 / 開演 19:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。