
古今亭佑輔 撮影:橘蓮二
「真冬の幻想譚~NEKOに纏わる三つの世界~」『寝子』

古典・新作ともに高座を重ねる毎に評価が高まる注目の逸材、古今亭佑輔さんの代表作のひとつ自作怪談『寝子』の初見は昨年の7月7日「ぴあ寄席」だった。上々の完成度にてっきり著名な落語作家の作品と思っていたら佑輔さんの自作と聞いて驚いたことが先ず強く印象に残った。更に間を置かず、場所は同じくらくごカフェで8月4日に開催された「佑輔サプライズ特別編 佑輔怪談」で本編に先駆けて演じた『寝子 前日譚』と合わせた妖しくも切ない世界観に魅了されたことが2月5日「真冬の幻想譚~NEKOに纏わる三つの世界~」(練馬文化センター小ホール)をプロデュースするきっかけになった。

聞けばこの作品はサゲが浮かんだところからプロットや人物設定を構築していったという。哲学者であり妖怪研究者としても知られた井上円了や作家・小泉八雲の怪異譚に興味を抱き、その時代風俗を勉強する中で遊女が「寝子」と呼ばれ、実際に猫を愛玩していた者が多くいたことがこの噺の起点となった。登場人物もそれまでの人間関係から得た人物像がヒントになっているためキャラクターの輪郭がとても明瞭で性格や会話にもリアリティがある。肉親であるが故にすれ違っていた父子の心情が邂逅を遂げる前半、添い遂げることを夢見、一途に想いを寄せながら悲しい結末を迎える遊女。誠実、不実、情愛、怨嗟、一筋縄では行かない複雑怪奇な幾つもの感情の狭間をキーワードとなる“ネコ”を絡めながら心理の陰影を見事に描き出す出色の作品となっている。

奥行きある声質と相俟った聴き手の想像力に染み込んでいく端正な語り口、情景がスッと浮かび上がるきめ細やかな所作からは常日頃の稽古に向き合う姿勢が伺える。加えて高座から強く感じるのは人生の深淵に目を凝らし人間の本質を見極めようとする真摯な眼差しである。人は自分自身でさえも捉えきれない心の深奥にうごめく様々な感情に日々翻弄されている。況してや他者からの剥き出しの主張に基づく善悪の断定など出来ようはずもない。高みから“正義か悪か”と断言しない誠実さと容易く答えを求めないことが表現者には重要であると佑輔さんは熟知している。
将来“妖怪ババア”になって寄席で怪談をやれるように現在は模索中と新たな創作に意欲を燃やす。理解を超えるものに目を向け、救われない物語に微かな希望の光を見る。佑輔さんが描く怪談には“悲しさ”ではなく寧ろ“優しさ”が息づいている。“佑輔怪談”は、名もなき儚いものたちへ寄り添う美しい愛情物語である。

文・撮影=橘蓮二
<取り上げた公演>
「真冬の幻想譚~NEKOに纏わる三つの世界~」
2025年2月5日(日) 東京・練馬文化センター 小ホール(つつじホール)

今後の公演予定
公式サイト:
https://kokontei-y.com/
■りさらくご 鈴座落語会
2025年3月24日(月) 東京・鈴座Lisa cafe
開場 13:45 開演 14:00

■こんがりクラブ公演
2025年3月30日(日) 東京・やきもち
開場 10:15 開演 10:30
■古今亭佑輔 × 古今亭雛菊 二人会 「ゆうびな」第3回
2025年4月5日(土) 東京・らくごカフェ
開場 17:30 開演 18:00

■噺ノ目線8 ─ 自作新作の会─
2025年4月12日(土) 東京・なかの芸能小劇場
開場 13:30 開演 14:00
■ラゾーナ寄席
2025年4月15日(火) 神奈川・ラゾーナ川崎プラザソル
開場 18:00 開演 18:30

■【勉強会】こっそり佑輔
2025年4月25日(金) 東京・ばばん場
開場 18:30 開演 19:00

プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。