
左より)三遊亭ごはんつぶ、桂銀治、桂枝之進、桂空治 撮影:橘蓮二
3月13日、世田谷代田駅と下北沢駅を結んだ遊歩道に建ち並ぶ個性的な施設の中で一際目を引くガラス張りのコミュニティースペース(仁慈保幼園)でスタートした「ジュゲムクラブ」に集った4人(桂枝之進・三遊亭ごはんつぶ・桂銀治・桂空治)が描いた高座は、初心者、長年の落語ファンを問わず落語の魅力をストレートに訴求するための演目選びや構成、空間作りに至る隅々まで考え抜かれた緻密さは出色であった。
先陣を切って登場した三遊亭ごはんつぶさんは“初めてのお客さまを置いていかない、寄席的な流れを作る”ことを意識していたと丁寧且つ明瞭な語り口の『牛ほめ』で先ずは客席を柔らかい笑いに包み込んだ。

確りと掴んだ会の空気を二番手の桂空治さんがさらに大きな流れに持っていく。演目は初心者にも馴染みのある『寿限無』。最も知られたと言ってもよい耳慣れた噺を圧倒的な描写力で畳み掛ける見事な高座だった。加えて“噺の中に業界用語を使わない”といった然り気無い配慮も物語への自然な没入感を支えていた。

休む間も無く三人目に上方落語の気鋭、桂枝之進さんが自身の新作『短歌界隈』を披露する。導入からの伏線回収を経てゾワッとするサゲまでの巧みなストーリー展開が印象的な噺だが、最後に上がる予定だった出番が当日急遽変更になったことに合わせたネタ選びだった(トリ前なので少しクセのある噺を持ってきた)と聞いて発想力もさることながら判断力と対応力をも兼ね備えた落語家としての技量に感心した。

そして大きな盛り上がりを呈した会を締めるトリを務めたのが桂銀治さん。“前で流れを作ってもらえたので上手く乗れた”と謙遜するが季節感を盛り込んだ『長屋の花見』は若手屈指の古典落語家の存在感を遺憾なく発揮するさすがの高座だった。中入りを挟んだ後は4人揃っての演者に纏わるクイズ形式のトーク。各人のキャラクターや関係性が伺い知れるお喋りは前半の落語と相俟って会の魅力がさらに立体的になり会場からは今後の「ジュゲムクラブ」への期待度が一層増したように感じられた。

■桂空治さん
「第二回という意識は捨てる。毎回初回という気持ちで挑む」

■桂銀治さん
「3人に不甲斐ない所は見せられない。馴れ合わず研磨していく」

■三遊亭ごはんつぶさん
「これからは宣伝に於いてもコンセプトをより明確に言語化したい」

■桂枝之進さん
「気持ち良い会になる予感がする。空間に流れる心地よい風を育ててゆきたい」

4人とも既に6月に開催される次回に向けた準備に怠りはない。自由でありながら個性に偏り過ぎない風通しが良い会は演者とお客さま相互のバランスが非常に優れている。数ある若手グループの中でも「ジュゲムクラブ」の融通無碍な表現力は傑出している。
文・撮影=橘蓮二
<公演情報>
「ジュゲムクラブ」第2回
2025年6月4日(水) 東京・世田谷代田 仁慈保幼園
開場 19:00 / 開演 19:20
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。