演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

立川志の彦さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第42回

立川志の彦 撮影:橘蓮二

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「立川志の彦 紀尾井町LIVE」

二ツ目最後の独演会は、間近に控えた真打ち昇進への覚悟を感じる熱い三席だった。2007年10月、落語界のスーパースター立川志の輔師匠の五番弟子として入門した。因みに、当時思いの強さを示すために東京在住にもかかわらず、名古屋の独演会までヒッチハイクで現地にたどり着き入門志願したガッツマンである。

18年間という真打ち昇進に至るまでの決して短いとは言えない期間も、確りと落語に向き合うことができた貴重な時間だったと振り返る。これまでに様々な現場から得た経験をじっくりと自身の落語表現に繋げ、細やかなれど自信もついたこのタイミングでの昇進がベストだと前向きに捉えている。

この日演じた三席を通じて強く印象に残ったことは、以前にも増してどっしりと安定した高座姿勢。とくに二席目の『船徳』は場面転換のスピード感と共に大きな所作が随所に入るため、崩れない正中線は聴き手が物語に没入するにはとても重要な要素のひとつだ。落ち着かない動きの中での語りは意識が散漫になるが、振り幅のある激しい動きをしても身体の軸が決まっていると自然と噺に集中できる。

さらにトリ根多の『死神』では主人公がクライマックスで尽きかけた命(この噺では“運”と表現)に一旦灯が点るシーンも、何故灯が付いたかを、噺の前半で困っていた子供になけなしのお金を渡した一場面を差し込み、小さな“運”が残っていたことを然り気無く意味付けすることで、物語に立体感を持たせる工夫が凝らされている。

落語を解体し再構成することで物語の骨格を保持しながら大いなるカタルシスを生み出す世界観を創造する志の輔師匠譲りの、どう現代の観客に落語を届けるかを日夜思考し研鑽を続ける表現の根幹には常に笑いを通じて“お客さまに楽しんでもらいたい”という何物にも代えがたい強い想いがある。ロビーに設えた幟やスタッフお揃いのTシャツ(志の彦さんの似顔絵入り)など細かい雰囲気作りにもその気持ちが表れている。

さらにマクラを含めた落語の自由度を増してゆくための稽古の重要性を大切に、これまで数多の名人上手が古典落語に磨きをかけ、各々の得意根多が不朽の名作として生き続けてきたように、将来は自分を介して演目に新たな生命を吹き込める落語家になりたいという。

9月1日待望の真打ち昇進。いよいよ生涯をかけた落語家としての本格的なスタートラインに立つ姿に期待を込める。

見せてくれ!唯一無二の“志の彦らくご”を。

文・撮影=橘蓮二

<公演情報>
「立川志の彦 紀尾井町LIVE」

2025年6月2日(月) 東京・日本製鉄紀尾井小ホール
開場 18:30 開演 19:00

立川志の彦 今後の公演予定

公式サイト:
http://shinohiko.com/

■立川志の彦落語会 in 高崎
2025年7月5日(土) 群馬・高崎市総合福祉センター
開場 14:00 開演 14:30

■すがも巣ごもり寄席
2025年7月9日(水) 東京・スタジオフォー
開場 12:30 開演 13:00

■第3回 もうすぐ真打!養源寺で三人会
2025年7月22日(火) 東京・養源寺
開場 18:45 開演 19:00

■立川流いろは亭
2025年7月25日(金) 東京・梶原いろは亭
開場 12:00 開演 13:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。