演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

東家千春さん、東家志乃ぶさん ごひいき願います!

毎月21日連載

第45回

左より)東家千春、東家志乃ぶ 撮影:橘蓮二

「東家千春・東家志乃ぶ 姉妹会」

ここ数年、年を追う毎に勢いづく浪曲界に於いて、活躍が期待される新鋭、東家千春さん(2018年8月入門)と東家志乃ぶさん(2019年2月入門)。修業期間も重なり、年明け(ねんあけ)も同時と、苦楽を共にしてきた二人が、8月16日に梶原いろは亭で開催された「東家千春・東家志乃ぶ 姉妹会」で高座に描いた浪曲には、それぞれの想いのコントラストが色鮮やかに映し出されていた。

東家千春さんが演じたのは『フルーツ家族』と『太刀山と清香』。当日の観客をひとつの家族と見立て物語に巻き込みながら展開する独自の新作から一転、二席目はガッチリと古典を聴かせる手腕は見事だった。

その振り幅の大きさには驚かされると同時に、対応力の高さと懐の深さを目の当たりにした。新作20席、古典20席を持ち、状況に応じて自在に演じ分ける実力者。そして何よりお客さまと曲師との一体感を重視し、自身も高座を楽しめる意識づけを常に怠らない姿勢から生み出される浪曲は、聴き手の気持ちが明快になる得難い浪曲師である。

東家千春さんがポップな魅力だとするなら、東家志乃ぶさんはクールな存在感で魅了する。生涯をかけて“浪曲の王道”を追求したいと語るように、この日も『与茂七しぐれ』と『借金奉行』の古典を、丁寧且つ魂を込めて語る姿に惹き付けられた。

気持ちが跳ねる箇所は人それぞれだが、志乃ぶさんの高座は、ちょっとした仕草のそこかしこがとても“カッコいい”。例えば語り出す直前、真っ直ぐ正面からではなく、少し斜めから入っていく形にグッとくる。さらにクライマックスに向かい声を張るところでシャウトするのにも痺れる。そして何よりも、志乃ぶさんの世界観には、人間が生まれ持ってしまった滑稽で哀しい決して抗えない感情を見つめ続ける優しさがある。“裏道”も“脇道”も知り尽くしてこその“王道”なのである。

高座でのアプローチの仕方やタイプは違っても“観客”と“表現”に対しての“絶体的な誠実”さは二人に共通している。千春さんは演劇、志乃ぶさんは音楽、別のジャンルで活動していた時代からその信念は微動だにしない。二人の熱演を観ればわかるはず。表現は理屈で説明するのではなく、通底する情動をどう感じるかだと。

そう言えば、志乃ぶさんが言っていた。浪曲には欠かせないテーブル掛けを畳む時

「千春姉さんと一緒だと、キチンと手早く畳めるんです」

先日の「姉妹会」が何故心地よくしっくり来たのか謎が解けた。ポップでクール、そして嘘が無い。何とも素敵な“浪曲姉妹”。

文・撮影=橘蓮二

<公演情報>
「東家千春・東家志乃ぶ 姉妹会」

2025年8月16日(土) 東京・梶原いろは亭
開場 12:30 開演13:00

東家千春 今後の公演予定

■第四回東家千春の会
2025年9月23日(火・祝) 東京・墨亭
開場 12:40 開演 13:00

■ワンコイン寄席
2025年9月26日(金)
会場:東京・神田連雀亭
開場 11:00 開演 11:30

■愛宕地蔵尊まつり 出張梶原いろは亭
2025年10月4日(土) 東京・船堀ふれあいセンタービル
開場 17:30 開演 18:00

■浪曲定席木馬亭
2025年10月5日(日)・6日(月) 東京・浅草木馬亭
開演 12:15

■本の長屋浪曲会vol.14
2025年10月12日(日) 東京・高円寺本の長屋
開場 17:45 開演 18:00

■浪曲新宿亭
2025年10月15日(水) 東京・新宿Fu-
開演 13:00

■靖国神社秋季例大祭
2025年10月18日(土) 東京・靖国神社
開演 11:30

■ストレンジナイト~なぜかくりかえされる奇妙な時間~
2025年10月18日(土) 東京・キネマ酒場なにもない場所
開演 19:00

■こばぜ浪曲の会 第3回伊丹秀勇勉強会
2025年10月19日(日) 東京・こはぜ珈琲
開場 10:15 開演 10:30

東家志乃ぶ 今後の公演予定

■浪曲定席木馬亭
2025年10月3日(金) 東京・木馬亭
開演 12:15
当日のみ:2,500円(25歳以下半額)※ご予約制度なし

■連雀亭ワンコイン寄席
2025年10月10日(金) 東京・神田連雀亭
開演 11:30
木戸銭:500円 ※ご予約制度なし
https://ameblo.jp/renjaku-tei/

■スペース・ゼロ B1寄席 Vol.74
2025年10月21日(火) 東京・こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ B1展示室
開演 18:30
前売:1,500円/当日:1,800円
出演(敬称略):桂竹千代、立川寸志、東家志乃ぶ(曲師 沢村道世)
https://www.spacezero.co.jp/information/147691

■毎週通うは浪曲火曜亭!
2025年10月28日(火) 東京・浪曲協会広間
開演 19:00
木戸銭:2,000円 ※ご予約制度なし

■新鋭女流花便り寄席
2025年10月31日(金) 東京・お江戸上野広小路亭
当日:2,500円/予約:2,000円/子供:1,500円(中学生まで)
予約:お江戸上野広小路亭 03-3833-1789

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。