演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜
「立川談笑一門会」ごひいき願います!
毎月21日連載
第46回
高座返しをする立川談笑師匠 撮影:橘蓮二
「立川談笑一門会」
精鋭が集う最強の一門会と言っても過言ではない。約10年ほど前から武蔵野公会堂で始まった「立川談笑一門会」。過去にも度々撮影に伺っていたが、9月30日の会は自分としては談笑師匠が出演しないお弟子さんのみの初めての一門会だった。毎回5人が出演するにあたり、現在は師弟合わせて6人となったために、全員出演からひとりが外れるシステムに変更された。
今回特に印象的だったのは、談笑師匠の出番がなかったことがかえってその存在の大きさが改めて浮き彫りになったことに加え、一門のハイレベルな落語を存分に堪能することができた。
落語に対するロジカルな思考と高座に於ける確かな技術に裏打ちされた表現力。知性と実践を兼ね備えた師匠の元で、総領弟子の立川吉笑師匠を筆頭に、5人の弟子各々が“談笑イズム”を深く浸透させた独自の落語世界が展開された。

この日一番手に登場したのは、ほんのふた月前の8月に二ツ目昇進したばかりの立川笑王丸さん。心地よく耳に届くリズミカルでしなやかな語り口と的確な所作で描く『ぞろぞろ』は物語の輪郭がとても明瞭でスッと物語に入っていける。巧みさも立ち居振る舞いも二ツ目成り立てにして逸材の空気を既に纏っている超新星である。

二席目を前に、何と嬉しいサプライズ! 談笑師匠の高座返しを挟み、立川笑えもんさんが高座へ。笑えもんさんは豪快さと繊細さが程よく同居している。一見スケールの大きさに目が行きがちだが、よく見れば所作や言葉を丁寧に扱っていることが良くわかる。

そして何より真っ向から全身全霊で落語に立ち向かう熱量は凄いものがある。この日演じた『青菜』で、真夏の押し入れから飛び出してくる汗だくのおかみさんの姿が、熱演する笑えもんさんに重なって何とも愉しかった。

そして前半を締め括るのは、三番弟子の立川談洲さんの『明烏』。物語を染める艶のある声音と美しい高座姿勢、古典落語を少し解体し軽く距離を取って(決して大きくではなく絶妙な塩梅に)仕立て直すセンスが癖になる。

『明烏』に登場する若旦那も、従来型の真面目一辺倒のステレオタイプではなく、少々読解力に欠けるイラッとさせる人物造型が物語を際立たせ、より立体的に映像が浮かんでくる。

中入りを挟み続いて高座をつとめたのは、まだ記憶に新しい6月、自費でホール内に寄席囲いを作り、連日豪華ゲストを招き、さらに所縁の深い高円寺の街中を巻き込んだ前代未聞の真打ち昇進披露公演を行った立川吉笑師匠の『狸の恩返し過ぎ』。

常に観客の想像の遥か上をゆく重層的な展開力で別世界に引き寄せられる。もはや貫禄すら感じる若手新作落語家の先頭に立つ唯一無二の存在だ。

そしてトリは、優しい人柄が滲み出た温かな『唐茄子屋政談』を披露した立川笑二さん。周囲との触れ合いを通じて、本来持っている誠実さを取り戻してゆく若旦那を支える人々の全編に通底する義理人情の世界に心地よく身を委ねた。

古典落語の王道をゆく笑二さん。近い将来訪れるであろう真打ち昇進の晴れ姿を撮影する日が今から待ち遠しい。

当会はチケットは事前予約無しの当日券のみ。落語心が騒いだ時、気楽にふらっと立ち寄れば、毎回個性豊かな古典・新作落語五席を二時間半、たっぷり心行くまで楽しめる。
“談笑一門”を観ることは、即ち“立川流落語”の最前線を目撃することである。
文・撮影=橘蓮二
「立川談笑一門会」今後の公演予定
11月11日(火)
12月16日(火)
■2026年
1月22日(木)
2月10日(火)
3月18日(水)
開場 18:30 開演 19:00
会場:東京・武蔵野公会堂

立川吉笑 今後の公演予定
■[京都]ソーゾーシーTOUR2025〜京都公演〜
2025年10月25日(土) 京都・ヒューリックホール京都
開場 12:30 開演 13:00

■[愛知]ソーゾーシーTOUR2025〜愛知公演〜
2025年10月26日(日) 愛知・中電ホール
開場 12:30 開演 13:00

■吉笑昼席 〜立川吉笑勉強会〜
2025年11月5日(水) 東京・らくごカフェ
開場 13:30 開演 14:00
■立川吉笑独演会 〜真打の日常#0〜
2025年12月23日(火) 東京・座・高円寺2
開場 18:45 開演 19:15

立川笑二 今後の公演予定
■有望若手応援寄席 立川笑二独演会 第17回
2025年10月26日(日) 埼玉・一丁目俱楽部
開場 14:00 開演 14:30
■第一回 南青山落語会
2025年11月9日(日) 東京・つぎわりえせっと
開場 13:30 開演 14:00
■おひつじ亭 立川笑二ひとり会 その12
2025年11月12日(水) 東京・アーリーバード・アクロス
開場 18:30 開演 19:00

■第26回花園寄席~立川笑二~沖縄独演会
2025年11月22日(土)沖縄・アべニア
開場 13:30 開演14:00

立川談洲 今後の公演予定
■立川談洲ツキイチ落語会「ふくらぎ」
第15回 10月24日(金)
第16回 11月21日(金)
第17回 12月19日(金)
開場 18:30 開演 19:00
東京・スタジオフォー

立川笑えもん 今後の公演予定
■芸歴5周年記念立川笑えもん月例独演会
2025年11月12日(水) 東京・新宿アットシアター
開場 18:30 開演 19:00
■ぬまづ de 落語会
2025年11月15日(土) 静岡・大手町会館大ホール
開場 13:30 開演 14:00
■立川笑えもん二ツ目昇進記念落語会
2026年3月29日(日) 静岡・沼津市民文化センター小ホール
ゲスト:立川談笑、立川晴の輔
開場 13:00 開演 14:00
立川笑王丸 今後の公演予定
■第534回すがも巣ごもり寄席
2025年10月22日(水) 東京・スタジオフォー
開場 12:30 開演 13:00

■第37回弟子ダケ寄席
2025年10月23日(木) 東京・千本桜ホール
開場 18:30 開演 19:00

■蒲田楽落亭『立川志ら玉・笑王丸二人会』
2025年10月24日(金) 東京・蒲田楽落亭
開場 17:30 開演 18:00

■もしもお笑いのライブシーンで普通に落語が観られる日常があるとしたら
2025年10月27日(月) 東京・高円寺ジュンジョー
開場 18:50 開演 19:00

■吉笑ロックンロール
2025年11月1日(土) 大阪・SEMBA2 プレ〜ス
開場 13:30 開演 14:00
■洛中らくご会第18回「立川吉笑真打昇進披露興行」
2025年11月2日(日) 京都・池坊短期大学こころホール
開場 12:30 開演 13:00
■立川笑王丸の「道をひらく」2
2025年11月4日(火) 東京・ばばん場
開場 18:30 開演 19:00

■梶原いろは亭・若手の会
2025年11月5日(水) 東京・梶原いろは亭
開場 11:30 開演 12:00

■谷根もりばぁ前座勉強会
2025年11月9日(日) 東京・谷根もりばぁ
開場 12:30 開演 13:00

■立川流すがも亭
2025年11月13日(木) 東京・スタジオフォー
開場 12:30 開演 13:00
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。
