演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

「立川志の太郎 落語会~二ツ目最終章~15年の轍」ごひいき願います!

毎月21日連載

第47回

立川志の太郎 撮影:橘蓮二

「立川志の太郎 落語会~二ツ目最終章~15年の轍 怪談 真景累ヶ淵」

一門の中でも、ひときわ“志の輔イズム”を色濃く受け継いでいることを証明する見事な高座だった。

10月28日 座・高円寺2で行われた「立川志の太郎 落語会~二ツ目最終章~15年の轍 怪談 真景累ヶ淵」に於ける緻密な構成力と緩急を織り混ぜた表現力は、近未来の真打ち昇進は元より、落語立川流を代表する若手のひとりに名乗りを上げることを予感させる訴求力があった。

前半は人物相関図を映し出し、所々に登場人物の会話を挟みながら物語の大まかな説明とポイントを提示しながらストーリー展開を頭に浸透させつつ、中入り後半は最も重要且つ観客に認知されている話(豊志賀の死)をじっくりと落語で聴かせ壮大なドラマを完結させる落語ファンにはお馴染み、毎夏恒例の下北沢本多劇場で開催される“志の輔らくご”の手法である。

「皆さん、お気づきだと思いますが、師匠の丸パクリです」とおどけるが差にあらず。

大長編の全体像を最短距離で届ける他には類を見ない強みは最大限に活かしながら、高座の隅々に至るまで周到に考え抜かれ、確りと準備されていることが十全に感じられた。

三遊亭圓朝の代表作のひとつ「真景累ヶ淵」を高座にかけるのは今回が三度目。元々人間のダークサイドを描く噺に興味があったことから演じはじめたが、再々演にあたり改めて速記本を読み解きながら今回はある発見があった。

それは年齢を重ねた自身の中に、思いもよらない登場人物に対する感情の変化があったこと。これまでは恋仲になった師匠を献身的に支える弟子である新吉の心情にシンパシーを感じていた。しかし読み進むうちに、新吉への愛しさが募るほど気持ちと相反するように醜くなってゆく容姿に、次第に心まで崩れ、やがては嫉妬と憎しみの化身となって果てる豊志賀の切ない想いと抗うことが出来ない因縁に纏わる哀しみを描くことが重要なテーマとなった。

今公演では、照明、音響も全て志の太郎さんが自前で手配した。最適な“表現の場”を作るためには手間も予算も惜しまない立川流の心意気を感じると共に“神は細部に宿る”が如く非常にきめ細やかな工夫が随所になされていた。

落語の冒頭にかかる曲も、豊志賀が冨本節(浄瑠璃の一流派)の師匠であることから、自ら探し出した音源を然り気無く流すことでサブリミナルな作用を働きかけ、また雨のシーンを雪に置き変えることで色彩を伴った想像力を喚起させた。

もちろん演出力のみに秀でているわけではない。前半のトークでの淀みの無い爽やかな語り口から一転、高座に於ける美しい所作と奥行きある声音で聴かせる落語はとても重層的な魅力がある。

オリジナルであるということは、全くの無の状態から生み出すだけと限らない。優れた雛型の長所を様々な角度から検証し、独自の解釈の上に再構築することで、単なる模倣とは異なるフェーズの表現が創造される。この日高座に立ち現れたのは、紛うことなき個性溢れる“志の太郎らくご”と呼ぶべき新たな世界観であった。

文・撮影=橘蓮二

<公演情報>
「立川志の太郎 落語会~二ツ目最終章~15年の轍 怪談 真景累ヶ淵」

2025年10月28日(火) 東京・座・高円寺
開場 18:00 開演18:30

立川志の太郎 今後の公演予定

■立川志の太郎 落語会~二ツ目最終章~15年の轍
2025年12月2日(火) 東京・座・高円寺
開場 18:00 開演 18:30

■ニ、三が六で九劇〜落語と笑いの方程式vol.17
2026年1月4日(日) 東京・浅草九劇
開場 13:30 開演 14:00

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2539749&rlsCd=001&lotRlsCd=

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。