演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

笑福亭茶光さん、柳家わか馬さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第50回

(左より)笑福亭茶光、柳家わか馬 撮影:橘蓮二

どんなジャンルに於いても、とかく“才能”の有無を問われるが、果たしてそれだけが未来への道を切り開くものなのか。もちろん否。持てるポテンシャルを十全に表現するには“才能”を開花させるための“努力する才能”が不可欠なのである。先月、日々怠ることなく真摯に落語に取り組む姿勢が滲み出たとても印象に残ったふたつの会をご紹介したい。

「柳家ひろ馬 改メ 柳家わか馬 二ツ目昇進お祝い落語会」

1月23日日本橋社会教育会館で行われた「柳家ひろ馬 改メ 柳家わか馬 二ツ目昇進お祝い落語会」の空間には、昨年秋に昇進を果たした新二ツ目の揺らぐことのない落語への誠実な想いが満ちていた。

入門時、見習い期間が長く(入門希望者が多数で寄席に入るまで時間がかかった為)その後のコロナ禍による活動停止も重なり、前座修業は通常の倍を超える6年半にも及んだ。

(右より)橘家文蔵、柳家小せん、柳家わか馬、古今亭文菊、柳家あお馬

わか馬さんの師匠である柳家小せん師匠はじめ口上に並んだ橘家文蔵師匠、古今亭文菊師匠の皆さんが、口を揃えて生真面目に頑張ってきたその直向きな姿と将来への大いなる期待を言葉にしていたことからも分かるように、先行きの見えない前座時代にあっても、数多の師匠から授かった「若い頃覚えた噺は忘れない」の言葉を胸に刻み決して腐ることなく稽古に励み、身に付けた持ち根多は目を見張る約60席。

これから始まる約10年にわたる二ツ目としての活動期間も前半は、笛と踊りの勉強を同時進行しながら不得手な噺にも敢えて挑戦し、とにかく足し算に次ぐ足し算で手間と時間を費やし、後半からはインプットした落語を濾して自身の個性を抽出してゆきたいと、昇進を経ても浮かれる間も無く確りと自分をコントロールし未来像を明確に描く。

終わりなき表現活動に身を置いていれば、いつしか“回り道が一番の近道”だったと腑に落ちる。そのことをいち早く直感しているわか馬さんは、言うまでもなく既に“才能”の塊なのである。

「笑福亭茶光大独演会ゴールデンドロップ2026」

もうお一方、古典・新作共に圧倒的な根多数を誇り、いつでも第一線に躍り出る“準備力”を有している人気若手落語家の笑福亭茶光さん。毎年1月恒例となった独演会「笑福亭茶光大独演会ゴールデンドロップ2026」が今年も新宿シアターモリエールにて落語家10周年公演として開催された。

一席目は『崇徳院』。古典落語の面白さを崩さず独自のくすぐりを的確に配置した満足感一杯の高座を披露。仲入りを挟み後半は『想い出の一貫』『その後の世界』と茶光さんの面目躍如と言うべきセンス抜群の新作で観客の気持ちを手中に納めた。

『想い出の一貫』は、一方からは美談と語られがちな話も、受け手からしたら真逆のこともあるという誰にも思い当たる感覚を想起させる双方向の視点が絡み合う人間模様が楽しい。

更にこの日三席目にあたるトリ根多は、人類が滅亡した後に繰り広げられるヒューマノイドと幽霊の交流を描いた新作落語。ギャグを随所にちりばめながら、地縛霊とロボットという肉体を持たない同士が、お互いを想い合い心を通わせようとする切ない物語が琴線に触れた。

茶光さんは上方の人気漫才師から東京の落語界に転身した。活動拠点も業界も変わり当初は何処にいてもアウェー感が付き纏っていたことは想像に難くない。だからこそ“どちらでもないからどちらの気持ちも理解できる”優しさが茶光さん演じる落語作品の世界観には通底している。毎月根多おろしの会を続け、昨年だけで31席を根多おろし(うち古典12席)これまでに古典・新作合わせて120席に迫る根多を持っている。闇雲に数が多ければ良いと言う訳ではないが、それでも名人上手が限られた演目を繰り返し演じるのとは意味合いが違う。“出来るがやらない”と“やれる事しか出来ない”は別物。

以前、人間国宝 五街道雲助師匠も「若い時には、稽古ハイになるくらいやっていた」と語っていたように、無意識に噺が溢れるほど徹底的に落語を研磨する時期は必ず必要で、身に付いた噺は何れ自分自身を救ってくれる大きな財産となる。“稽古は裏切らない”を高座で体現できる落語家は、お客さまの期待も決して裏切ることはない。笑福亭茶光さん、柳家わか馬さんは裏切らない、故に応援せずにはいられない。

文・撮影=橘蓮二

笑福亭茶光 今後の公演予定

■三ツ矢らくご
2026年2月23日(月・祝) 東京・三ツ矢酒店
開場 13:10 開演 13:30

■アナム落語会 VOL.13 七茶の会
2026年3月4日(日) 東京・BAR ANAM
開場 18:30 開演 19:00

■弁橋・茶光二人会
1部:開場 10:30 開演 11:00
2部:開場 13:30 開演 14:00
会場:宮城・魅知国定席 花座

■モーニングルート9
2026年3月14日(土) 東京・minaikeZa
開場 11:15 開演 11:30

■ルート9FES.2026
2026年3月15日(日) 東京・南大塚ホール
開場 13:30 開演 14:00

柳家わか馬 今後の公演予定

■わか馬のパドック
2026年3月8日(日) 東京・ばばん場
開場 10:30 開演 11:00

■わか馬の足跡 第1回
2026年3月19日(木) 神奈川・こまむ亭
開場 18:00 開演 19:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。