演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

『ルート9 Fes 2026』 ごひいき願います!

毎月21日連載

第51回

『ルート9 Fes 2026』より 撮影:橘蓮二

人気演芸ユニットルート9が年に1度、全メンバーが集い協会の枠を越えた大物ゲストを迎えておくる『ルート9 Fes 2026』が、本格的な春の訪れを告げる温もる陽気の3月15(日)南大塚ホールで開催された。

今回のゲストは落語協会会長でもある大看板・柳家さん喬師匠が登場。開演前から楽屋には程よい緊張感とワクワクするような期待感が満ちていた。前説の春風亭昇りんさんからトリをつとめた春風亭弁橋さんまでひとりの持ち時間が8分という制約の中、お客さまを飽きさせない多種多彩な工夫が凝らされ、結成から5年が経ち個々のレベルアップと共に大いなるチーム力を印象付けた一体感ある会だった。

昔昔亭昇
(左より)笑福亭茶光、三遊亭花金、春雨や晴太

高座を組む作業から照明、音響のチェック、受付までメンバー各々が手分けしながら的確に準備を進めていった。

神田桜子
三遊亭仁馬

前説は春風亭昇りんさん。お馴染みのお客さまと初見のお客さま、そして年齢性別問わず会場全体を綺麗に温める手腕は素晴らしかった。

春風亭昇りん

トップバッターは春風亭昇咲さん『寿限無が始まらない』。最も知られた落語『寿限無』に入ると見せかけてスッとお客さまを巻き込む。予め受付で手渡された封筒と高座回りに仕込んだ音量を測るデシベルメーターを駆使し、最後は観客全員で声を揃え「ジュゲム、ジュゲム…」一気に会への期待が高まった。

春風亭昇咲

続いて三遊亭仁馬さんが演じたのは『普段の袴』。安定した語り口と丁寧な所作で確りと描かれた高座は、会場全体がグッと没入してゆく様が感じられた。仁馬さんの声は耳心地良い濃淡があり、気持ちが落ち着く。まさに古典落語仕様の得難い声。

三遊亭仁馬

三番手は講談師 神田桜子さんの新作講談を春風亭昇りんさんと二人で交互に語る変則俥読みによる『ときめき☆注意報 転校生のアイツ』。少女漫画の世界観を役柄をスイッチしながら進める斬新な見せ方が印象的。是非このスタイルで続きが聴いてみたい。

春風亭昇りん
神田桜子

柳家さん喬師匠のひとつ前というかなり緊張する局面を任されたのが、ルート9に留まらず、落語芸術協会若手二ツ目きっての実力者・三遊亭花金さん。緩急織り混ぜた語りと指の先まで神経が行き届いた高い描写力で魅せた『堪忍袋』は流石の出来映えだった。落語の捌き方が巧みで古典落語が持つ魅力を存分に伝える高い訴求力がある。

三遊亭花金

この日の特別ゲストは、落語協会会長にして現在の落語界に於ける名人のひとり柳家さん喬師匠。他協会の若手に胸を貸し、エールを送る温かい心根と同時に、高座に登場し一声した瞬間から空気の密度が変わるほどの圧倒的な落語で捩じ伏せる凄みある姿を間近に体感できたことはメンバーにとって何よりの財産になったはず。

特別ゲスト 柳家さん喬

食い付き(仲入り明け)は春雨や晴太さんの新作『石川家』。数年前に作った作品を誂え直して披露。手拭いの扱い方がビジュアル効果を高め、噺の解像度がグッと上がった。晴太さんは、新作と共に古典もハイレベルで、噺の隅々に至るまで非常に繊細。加えて根底に晴太さんが持つ優しい心情が垣間見えて物語が安らぐ。そこも大きな魅力。

春雨や晴太

古典、新作問わず笑福亭茶光さん演じる落語の展開力と構成力は、他にはちょっと見当たらないほどずば抜けている。噺の要所にちりばめられたくすぐりや会話に一切の無駄がなく一直線に物語が届く。この日高座にかけた『バタフライエフェクト』も所謂“風が吹けば桶屋が儲かる”的な話を個性豊かな登場人物達が次から次へと畳み掛けるように運んで行く。茶光さんの落語は、フォルムが綺麗で強度が高い。

笑福亭茶光

昨年末、天国に旅立った昇さんの師匠であり、落語芸術協会の重鎮であった昔昔亭桃太郎師匠に捧げる渾身の『ぜんざい公社』。最後はマイクを手に桃太郎師匠の十八番だった「ルイジアナママ」を熱唱。メンバー総出でバックダンサーをつとめた。昇さんは常にお客さまの喜びのために全身全霊で高座に臨む。比類なきサービス精神の塊。

昔昔亭昇

今年の『ルート9 Fes 2026』のトリを飾ったのは春風亭弁橋さん。自分の中では、弁橋さんは底知れぬ落語愛に溢れた人。ゆえに一途に高尾太夫への愛を貫く『紺屋高尾』は、より強く主人公の純真無垢な想いが伝わり心に響く。演芸写真家は“本当に落語が好きな人”を撮るのが“本当に好き”。

春風亭弁橋

2021年、神田明神で開催されたルート9の初演を撮影したことを今でも鮮明に覚えている。コロナ禍でまだ世情も落ち着かない中で、不安と期する想いが交錯する船出だった。先述したように今回の撮影では、個の実力とチームの完成度が格段に上がっていることに目を見張った。この先どれだけの成長曲線を描けるか、そして演芸ファンの期待に応えてゆけるか、今後もルート9への注目は尽きない。

文・撮影=橘蓮二

ルート9 近日公演予定

■モーニングルート9
2026年3月28日(土)
2026年4月4日(土)
2026年4月18日(土)
会場:東京・minaikeZa
開場 11:15 開演 11:30

■ルート9夜席
2026年4月9日(木) 東京・minaikeZa
開場 18:30 開演 19:00
出演:笑福亭茶光、春風亭昇咲
ゲスト:柳亭信楽

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。