演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜
『第一回 古典・新作 落語会』春風亭昇輔さん、三遊亭花金さん ごひいき願います!
毎月21日連載
第52回
(左より)春風亭昇輔、三遊亭花金 撮影:橘蓮二
そこには、古典と新作が絶妙に融合した濃密な落語空間が拡がっていた。
3月26日鈴座Lisa caféで開催された『古典・新作 落語会』の記念すべき第一回は、落語芸術協会期待の俊英・春風亭昇輔さんと三遊亭花金さんが登場。各々が独自の持ち味を遺憾なく発揮したハイレベルな高座の応酬に心が躍った。

先陣は、三遊亭花金さんの『開帳の雪隠』。殊更物語に大きな展開はないが、市井に生きる人々の微笑ましい日常のひとコマを活写する古典落語のエッセンスが凝縮された演目を、的確且つ柔らかな間(ま)で客席に馴染ませていった。

落語の裁き方だけではなく、次の高座が長めの新作であり、当日は四席が予定されていたことなど全体の流れと強弱を俯瞰した緻密な状況判断も頭に入れた見事な導入だった。

続いては毎月ネタおろしの会を開催し100席を超える持ちネタを有する新作落語の逸材、春風亭昇輔さんの魅力が炸裂した『ミステリアス・ルイ』。

1日警察署長の代演でやむなくアイドル活動をすることになった相撲部出身のオジサン警官が巻き起こす奇想天外なストーリーを、ダイナミックな所作を織り混ぜながらハイテンションで演じた。まるで上質なスラップスティックコメディ映画を観るような熱気と爆笑が、会場を一気に駆け抜けていった。


仲入りを挟み三席目は『投票キャッチ』。繁華街で頻繁に遭遇するキャッチ(客引き)の姿から着想、まだ記憶に新しい選挙に纏わる世相を絡めて設えた新作。

作り上げてからひと月余りで日も浅く、これから様々な発見と試行錯誤で練度を上げ、さらに磨きをかけてゆきたいと謙虚に語る。今後どのように深化してゆくのか非常に楽しみな作品に仕上がっている。

昇輔さんが生み出す数多の新作がオリジナリティに溢れ、物語性に優れているのは、観客の意表を突くことばかりに気を取られた単なるドタバタ劇ではなく、リズム感のある台詞回しや効果的なくすぐり、そして作品を立体的に見せる所作が分離せずに連動できる確りとした構成力があるからだ。

加えて時にはパンチラインとなるオチをつかみ(導入部)に持ってくる工夫や大喜利的な作り(○○はイヤだといった定型)とドラマ的な作り(サゲを中心に肉付けしていく方法)の差異を分析して創作にあたるなど極めて理知的だ。

トリは将来の名人候補のひとりに数えられる花金さんの実力を、隅々まで余すことなく魅せた『締め込み』。

大ネタではないが、登場人物の演じ分けや緩急をつけた言い立てなど、演者の技量が表出するシンプルでありながら誤魔化しが効かない噺ゆえに、奥が深く実力が試される。

翻って花金さん演じる『締め込み』は台詞がしなやかに粒立ち、奥行きを感じさせるひとつひとつの言葉が空間に溶け込み、気付けば目の前には古典落語の原風景が明瞭に映し出されていた。昇輔さんの落語が“映像的”ならば花金さんの落語は“文学的”だ。

言葉を丁寧に扱い、行間を行き交いながら語りかける繊細で端正な高座は、聴き手にとってはイメージを限定されない、自由で親和性が高い世界を脳内に描ける心地よさがある。

最後は二人揃っての『ちゃぶ台トーク』。
「新作は、様々な手が加わることで成熟してゆけるので、他の演者にも自分が作った作品をどんどんやってもらいたい」(昇輔さん)
「普段はその場の空気を考え過ぎるところがあるが、今日は自分の空気にしてやろうと初めて思った」(花金さん)
と、高座後のリラックスした雰囲気の中、普段は聞くことができない落語への真摯な想いを知ることが出来た貴重な時間となった。

春風亭昇輔さんの新作に於ける“発想力”と三遊亭花金さんの古典を届ける“浸透力”がせめぎ合いながらも共鳴した春の宵に相応しい彩り豊かな二人会だった。

文・撮影=橘蓮二
春風亭昇輔 公演予定
■柳家蝠よし・春風亭昇輔落語会
2026年4月22日(水) 大阪・動楽亭
開場 18:30 開演 19:00
■札幌福北寄席
2026年4月24日(金) 北海道・時計台ホール
開場 18:30 開演 19:00
■春風亭昇輔勉強会「みちくさサーカス」第60夜
2026年5月18日(月) 東京・フリースペース無何有
開場 19:00 開演 19:30
三遊亭花金 公演予定
■ルート9 花座定期公演 弁橋・花金二人会
2026年4月25日(土) 宮城・花座
第一部:開場 10:30 開演 11:00
第二部:開場 13:30 開演 14:00
■桑都テラス落語 ルート9 定期公演
2026年5月16日(土) 東京・八王子 桑都テラス
開場 13:30 開演 14:00
■十条カレー寄席
2026年5月30日(土) 東京・北区 十条肉骨茶
開場 14:40 開演 15:00
■ネタおろしの会
2026年6月5日(金) 東京・国分寺 cocobunjiプラザ セミナールーム
開場 19:00 開演 19:30
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。
