演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

立川笑王丸さん ごひいき願います!

毎月21日連載

第57回

立川笑王丸 撮影:橘蓮二

ひとりひとりが独自の世界観を持つ精鋭揃いの立川談笑一門に於いて、昨年8月の二ツ目精進から約1年で、早くも逸材の呼び声が高い立川笑王丸さんが、9月9日に開催した勉強会『立川笑王丸の道をひらく(第7回)』(ゲスト 立川志の太郎さん)で見せた二席は、未来の看板に成り得るハイレベルな表現力を十二分に示した高座であった。

特筆すべき何とも心地良い柔らかな語り口としなやかで安定感のある所作が融合した落語からは、彩り豊かな空気感が感じられ、聴き手の気持ちをスッと物語に誘ってくれる。

一席目『牛ほめ(普請ほめ)』の与太郎と父親・叔父とのやり取りも、会話にほどよい緩急が付き、演じ分けのバランスが綺麗に取れているので、無理なく落語に没入できシンプルに噺の愉しさが伝わってくる。

最も聴く機会が多いと言ってもいい前座噺は、やり様によっては印象に残らないことも珍しくないが、笑王丸さんは確りと意識の軸に重心を乗せてリズミカルに演じるゆえに登場人物の鮮度が高く説得力がある。

そして二席目は、人間の業が織り成す哀しく滑稽な世界を骨太に描く大ネタ『黄金餅』。場面転換が多く、中盤には、主人公の金兵衛が守銭奴の僧侶西念の遺体を背負いながら下谷山崎町から浅草を通り麻布絶口釜無村の木蓮寺までの道行きを情景描写を織り交ぜながら一気に語る道中付け(どうちゅうづけ)といった大きな見せ場があり、全編を通じ演者の力量が試されるダークでありながら絶妙なコミカルさが散りばめられた非常にハードルの高い噺である。

その難しい演目をかけるにあたり、日頃の稽古量もさることながら、道中付けの感覚を刻むために、下谷から麻布までの道のりを実際に歩くなどの準備をして高座に臨んだ。そこには単に距離感を身体に覚えさせるだけではなく、時代は変わり風景は一変しても、視覚的に空間を取り込むことで、イメージと紐付けされた言葉が喚起される流れを自分の中に作り、高座中、万が一台詞が飛んだ場合でも、即座に対応できる周到な用意がなされていた。

思考力と実践力、加えて太鼓など鳴り物の上手さにも定評があり、高座からは溢れんばかりの落語愛を感じる。

入門5年、二ツ目になって1年、身を置くのは強者(つわもの)ひしめく談笑一門。誉め言葉のひとつに欠点が見当たらないという言い方があるが、笑王丸さんの場合は、最早長所しか見当たらないほどのポテンシャルを持っている。

この先、いったいどこまで成長曲線を伸ばしてゆくのか期待は膨らむばかりだ。名は体を表す。いずれ間違いなく立川流きっての“笑(落語)の王”になる男である。

文・撮影=橘蓮二

立川笑王丸 公演予定

■梶原いろは亭「若手の会」
2026年9月23日(水)東京・梶原いろは亭
開場 10:30 開演 11:00

■谷根もりばぁ前座勉強会
2026年9月26日(土) 東京・谷根もりばぁ
開場 12:30 開演 13:00

■立川談笑一門会
2026年9月28日(月) 東京・文京シビック小ホール
開場 18:30 開演 19:00

■立川笑王丸ひとり会 4
2026年9月30日(水) 東京・アーリーバードアクロス
開場 18:30 開演 19:00

■立川流いろは亭
2026年10月8日(木) 東京・梶原いろは亭
開場 12:30 開演 13:00

■第9回「立川笑王丸勉強会」
2026年10月15日(木) 東京・アートスペース兜座
開場 18:30 開演 19:00

■立川流みないけ座夜席
2026年10月21日(水) 東京・minaikeZa
開場 18:00 開演 18:30

■谷根もりばぁ前座勉強会
2026年10月24日(土) 東京・谷根もりばぁ
開場 12:30 開演 13:00

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。