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和田彩花のパリ・アートダイアリー

【特別編】2023年の上半期を振り返って

毎月5日連載

第15回

東京での仕事の関係で、6月に日本に一時帰国していた和田さんに半年ぶりにインタビュー。
2年目を迎えたパリでの生活で体験したことや、今回の一時帰国で感じたこと、これからのアーティスト活動についても語って頂きました。

集中して語学学習に取り組んだ半年間

前回、こうして直接お話をしたのは半年前なんですね。この半年、どんな風に過ごしていたかというと……、まず、とにかくフランス語をもっとブラッシュアップさせようと思って、集中して勉強をがんばりました。語学の上達のためには、目標を設定するのが手っ取り早いはずと思い、フランス語の語学検定も受験しました。英語だとTOEICやTOEFLのような語学レベルを測る試験がありますが、フランス語ではDELF、DALFという試験がそれにあたります。ペーパーの試験だけでなく、ヒアリングや面接試験もあるので全方位の勉強をする必要があるんです。語学の検定試験を受けるのは初めてだったのですが、とてもいい経験になりました。

この半年で、うれしいことに友人もさらに増えました。中国語圏の友達が多いのですが、一人友達ができると、その友達の友達とも仲良くなり、そしてその友達とも仲良くなって……。という感じで友達がどんどん増えていきます(笑)。同じアジア系とはいえ、みんなやっぱり私たちとは異なる視点を持っていて、そのことに刺激を受け、自分の視野も広がった気がします。

中国語圏の人たちって助け合いの精神がすごいんですよ。だれかが困っていると、みんなが一斉にその人を助けてくれる。なぜかわたしもその助け合いの一員に入れてもらえて、困ったことがあるとみんなにケアしてもらって、それがとても嬉しかったです。

パリで知り合った日本人の友人も、みんなそれぞれのバックボーンがあって、ものの見え方は違うけれど気が合う人たち。いつか日本でまた集まれたらいいなって思います。そういえば、連載でも書きましたがオーヴェル=シュル=オワーズへ友人たちと旅行にいきました。実は、友だちと旅行に行くという経験をそんなに持っていません。大人数の旅行だったんですが、すごく楽しかったな。

オルセー美術館で大好きなマネとドガの企画展を見る

展覧会もいろいろ見ました。個人的にとても嬉しかったのが、オルセー美術館で7月23日まで開催中の『Manet/Degas(マネ/ドガ)』展。マネとドガという、19世紀後半のフランスで活躍した画家2人にフォーカスした展覧会です。マネ好きの自分にとってはどれも本当に素晴らしいものでした。初期に描いていた宗教画や、筆記体でまったく読めなかったんですけれども直筆の手紙、版画の版の部分など、普段なかなか見ることのできないマネの作品や資料がたくさん展示されていました。日本からも北九州市立美術館が所蔵する作品が展示されていて、はるばるフランスまで来てくれたんだって思うと、それだけで嬉しくなりました。

そんな大好きなマネのゆかりの地めぐりをしたい!と、昨年末に2023年の豊富としてお話していたのですが……。実は、マネの資料を日本に再びおいてきてしまいまして。バティニョールというマネが暮らし、アトリエを構えていたエリアぐらいしか行けてないんです。バティニョールは、パリの北西、17区にあって下町の雰囲気が残る本当にのんびりした地区です。列車の車両基地があるので、大きな建物がなく、空がとても広く感じます。パリって、バティニョールに限らず空が本当に広いんですよね、東京はビルで空が全然見えないからなおさら強く感じます。

「小さな路地というか、パッサージュのような通りに入ったときの写真!賑やかな国旗!」 撮影:和田彩花

日本とフランスでの美術鑑賞について思うこと

前回帰国した際もお話しましたが、パリの美術館は、特定の日や曜日、時間帯が入場無料になったり、割引になったりするので、積極的に利用しています。なので、今回久々に帰国して、日本は文化を楽しむのに特に金銭面のハードルが高いなあと感じました。具体的に、フランスの文化・芸術へどのような補助金や政策が行われているかはわからないのですが、音楽イベントのチケットが10ユーロ前後で購入できたり、映画は回数券を利用すると8ユーロくらいで見ることができます。美術館や博物館に行かないにしても、週末はどこかで蚤の市が開催されていて、それらを利用したりすれば日本で暮らしていたときよりもお金を使わずに、文化的にも充実した暮らしができると感じました。

だから、日本でももう少し若い人たちが気軽に文化にアクセスできるようになるといいなと思います。お得に美術館や博物館を利用できる方法もあるとは思いますが、検索したり手続きを踏んだりと自ら動かないといけないことがたくさんあるし、届いてほしい人に情報がなかなか届いていない気がします。

でも、嬉しく感じたこともありました。国立新美術館で開催されていた『ルーヴル美術館展 愛を描く』に行ったのですが、会場に若い女性の方がすごく多かったんです。展示作品は、バロックやロココという、日本ではそれほど人気があるとはいえない時代の絵画が多かったですし、宗教画や神話画などは内容的にも難しいですよね。でも、それらの絵に人だかりができていて、みなさんとても楽しそうに見ていました。

王や貴族から革命によって権利を勝ち取った歴史のあるフランスでは、絶対王政の時代の美術作品を、素直に好きだという人はあまり見かけないんですよ。でも、日本では作品の造形や美をまずそのまま受け入れて鑑賞し、そして後から歴史を学ぼうとする人が多い気がします。こういった西洋絵画と先入観なしに対峙できるのは日本のいいところなんだなと気づきました。

あと、ミュージアムグッズが充実しているのは、日本の展覧会ならではですよね。パリの美術館は、Tシャツやペンに作品が雑な感じでプリントされているだけのものが多いから、日本のミュージアムグッズを見習ってほしいなって思ったりもしました(笑)。

パリでの生活も残り少なくなってきました。語学の学習は必死に頑張って自分なりに締めくくったので、残りのパリ生活では、音楽活動のために時間を使おうと思っています。作曲以外のことは自分の好きにできるようになったので、音楽にあわせて映像を作ったりしたいですね。帰国後、自分の次の段階に発表できるようにしていきたいと思っています。マネの資料も忘れずにパリに持っていかなくては! 忙しくなりそうです。

構成・文:浦島茂世 撮影:源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。2015年よりグループ名をアンジュルムと改める。グループ及びハロー!プロジェクト全体のリーダーを務めたのち、2019年にアンジュルム及びハロー!プロジェクトを卒業。ソロアイドルとして音楽活動や執筆活動、コメンテーターなど、卒業後ますます活動の幅を広げている。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。現在、フランス滞在中。