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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

今年見たアジア映画では私的暫定一位です『ビニールハウス』

月2回連載

第135回

ラストなんて本当にびっくりで、私は腰が抜けました

今月は春休みの大作映画がいくつも公開されるので、埋もれてしまいそうな素晴らしい作品をふたつ紹介します。まずは3月15日から公開されている韓国映画『ビニールハウス』。キャッチコピーにある「半地下はまだマシ」という言葉に違わず、とてつもない負のスパイラルがキモのサスペンスです。

貧しさゆえに農耕用のビニールハウスで暮らしているムンジョンは、少年院に服役している息子といずれ一緒に暮らすことを夢見て、その資金を稼ぐ毎日。盲目の老人テガンとその妻で重度の認知症を患っているファオクの訪問看護師として働いています。

『ビニールハウス』

ある日、ファオクがお風呂場で暴れ出してしまい、ムンジョンともみあっている最中、運悪く頭を打って他界。このままでは夢はおろか、自分も刑務所行き。そこで彼女はファオクと同じく認知症を患っている自分の母親を身代わりにするのですが……。本当に『パラサイト 半地下の家族』が生っちょろく見えてしまうドン底映画。今年見たアジア映画では私的暫定1位です。

『ビニールハウス』

独特のウェットな質感、出てくるキャラクター全員が問題を抱えている、俳優の芝居のうまさ……韓国映画のおいしいところを全部つめこんでいるんですよ。とにかく脚本が練りに練られていて素晴らしく、全く無駄なエピソードがない。詳しいことはネタバレになってしまうので避けますが、たとえば目の不自由なテガンには別の才能があったり……。

『ビニールハウス』

いや、これは観た人同士で分かち合いたくなるはず。むしろ観てしまったら、友だちに「『ビニールハウス』観た!?」ってすぐに確認したくなるほど。怖さはあるけどホラーテイストはゼロのサスペンスなので、恐怖映画が苦手な人でも絶対に気に入るはず。

『ビニールハウス』

ラストなんて本当にびっくりで、私は腰が抜けました。それも最高に気持ちがいい腰の抜け方。いちはやく、劇場でご覧ください。

仲間と映画館に行って、さまざまな“仮エンディング”を作ると大盛り上がりすると思いますよ

そして4月5日公開になる『パスト ライブス/再会』もご紹介します。今年のアカデミー賞で脚本賞にノミネートされた、24年間に渡るラブロマンスです。

韓国ソウルで12歳まで一緒に過ごした幼馴染のノラとヘソン。ノラが北米に移住したことをきっかけに疎遠になり12年、24歳になった彼らはSNSを通じて再会を果たします。お互いにちょっとした懐かしさと少年少女時代の恋心を思い出しつつも、またすれ違い。

『パスト ライブス/再会』

その12年後、36歳になったノラはアーサーと結婚して、互いを尊重し合う夫婦になっていました。ところが、ヘソンはそれを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークへ。24年の歳月を経て再会を果たしたふたりはどうなるのか!? というお話。

『パスト ライブス/再会』

冒頭のシーンは、とても意味深です。バーにいるあの3人はどんな関係か……っていうちょっぴりミステリーな感じもあるスタート。私個人的にそういうのを見るのも好きなんですよね。あの空間だと色気も感じます。

『パスト ライブス/再会』

小学校くらいの頃、友だち以上恋人未満な仲良しの人っていると思うんですよ。たまに思い出すような人、絶対いるでしょ? そう考えると、この物語は共感しやすいはず。生まれて出会った場所は一緒だけど、多感な思春期以降を過ごした場所がアジアと北米で全く違うカルチャーになってしまう。これは、きっと日本の人でも身に覚えがある人がいるんじゃないかな。

『パスト ライブス/再会』

それに、時間の流れが本当にリアル。だって、24年もあったら、子どもの頃のままじゃないし、なんならノラのように結婚してることだって当たり前ですからね。また、ノラの描写は今の時代を映してますよね。女性が海外でなにかを成し遂げたいって気持ちがガンガン感じられるキャラクターってところもポイントです。

あと現代劇なので、疎遠な幼馴染だってネットですぐに見つかるってところもリアル。テレビ電話で会話するシーンは、会話の前と後でちょっとひとりで笑顔になっちゃったりして。その気持ち分かる~! だって、会えないときが一番わくわくして楽しいんだもん。その気持ちをノラがアーサーに話しちゃうのも、自分の気持ちを落ち着かせるためにやってる“あるある”な話で共感しちゃいました。

『パスト ライブス/再会』

やんわりした三角関係の映画はこれまでもたくさんありましたが、だいたいグッと感情を押し殺す役がいますよね。それがこの作品ではアーサーにあたるんですが、彼が全然そういうキャラじゃないのが物語を面白くするんです。彼は“俺は邪魔な白人”と言っちゃうんですが、それによってこのふたりの行方が分からなくなっちゃう。あのとき“好き”と言っていたら? 何かを後悔する辛さ。内向的な方は考えさせられるかも。

『パスト ライブス/再会』

これを観た人はみんな結末について考えると思うんですよ。この結末でよかったのか、それともどうなったらよかったのか。これは仲間と映画館に行って、さまざまな“仮エンディング”を作ると大盛り上がりすると思いますよ。






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取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、2019年9月に講談社より発売中。