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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

『花束』サヘル・ローズ監督とのスペシャル対談:監督未経験で挑んだ本作に込めた熱い想いとは?

月2回連載

第146回

今回は連載特別編として、映画『花束』のサヘル・ローズ監督とLiLiCoさんのスペシャル対談をお届け!

俳優・タレントとして活動するサヘル・ローズさんが初監督に挑戦した映画『花束』は、児童養護施設で育った8人の若者が実名で登場し、それぞれの過去の記憶や想いを赤裸々に語り表現する作品。ドキュメンタリーでもありフィクションでもある実験的な作品となった本作は、自身も孤児院で幼少期を過ごしたサヘルさん自身が全国各地の映画館や映画祭、喫茶店、イベントスペースなどと交渉し、作品に関するトークショーも開催しながら上映を展開している。

そんな草の根的な上映形態でありながら、一方で“エグゼクティブ・プロデューサー”として岩井俊二、“音楽”としてLUNA SEAやX JAPANなどで活躍するSUGIZO、また佐藤浩市やサラ・オレインといったビッグネームが参加していることにも驚かされる。こんな豪華なクレジットはなぜ実現したのか、どうして監督経験のないサヘルさんがメガホンを握ることになったのか、そしてそこに込められた熱く切実な想いとは? 本作のテーマに強く共鳴したLiLiCoさんとサヘルさんに、じっくり語り合っていただきました!

児童養護施設出身である当事者が自己表現を通して、自分の過去と向き合ってもらいたい

LiLiCo 初監督作の『花束』。すごい挑戦ですよね。この企画は、いつ頃始まったんですか?

サヘル・ローズ 構想を入れて7年前から始まりました。私が目指していたのは、児童養護施設出身である当事者が自己表現を通して、自分の過去と向き合ってもらいたいと思ったことが一番の理由です。そういう発想になったのは私自身の経験からだと思います。

案外、人は自分の人生を言葉にすることが少ないように思います。でも、言葉にして、一旦心を外に出してみると、自分自身を客観的にも見られるようになる。私自身は言葉にして初めて、何かが自分の中に存在している、自分のインナーチャイルドがあることを知ったんです。

もちろん、言葉にするには、苦しいことが大半です。でも、その作業のおかげで私自身が幼少期に落とした“心の部品”がどういったものか、そして今はどう感じているのか、ということを知ることができた。

また、私は幸い、表現するお仕事をさせていただいています。表現に没頭しているとき、お芝居のときだけ、他者になれる。表現するときだけは現実から逃避できる瞬間で、自分のことを考えなくていい時間が喜びです。でも、普段の生活では、やっぱり過去に引っ張られることが、いくつになってもあるんです。それが時に復讐心にも結びついてしまうことだってあった。そういった一見ネガティブに見える感情も、表現するうえでは、とても大事な躍動感になる。何か、心の置き場に変わると私は思っています。

この作品の主人公8人は児童養護施設で生活をしていたことがある若者たちです。それぞれ生い立ちは様々です。でもそれって、施設出身でなくてもそうですよね。施設出身だからどうこうということではなく、どんな人にも過去に傷ついてきた歴史があります。それを肯定できるきっかけって何かないのかな、もしくは向き合ってもらえたら、と思い続けてきました。大人になっても自分の過去を否定するのではなく、過去と向き合うことで胸を張って生きるため、できることが何かあるんじゃないか。そういうことを7年前から考えていました。

『花束』

LiLiCo そうですよね。私も本当にそう思います。

サヘル・ローズ そういった題材の映画やドラマはこれまでもたくさん作られてきていますが、当事者が関わっていたとしても当事者が出ているわけではなかったと思います。それらを当事者が観たとき、当事者だから分かることや違和感を覚えることってどうしても出てきますよね。であれば、当事者が自分たちの存在そのもので語れる、伝えられる機会を作りたい。施設出身ということや、親がいないことで、中にはいろんなことを諦めなければいけなかった人たちに、おこがましいですが、自分にできることとして何か“チャンス”の機会を与えたいと願ってきました。

でも思いついた当初、2年くらいはどうしようかと模索を続けていました。最初はプロの映画監督に撮ってもらいたくて、ある監督にお願いをしていたんです。でも、コロナ禍に入り、その監督はミニシアターを守るための活動へ。また、コロナによって世界中が停止してしまい、映画制作など、エンターテイメントが遠くにいってしまった感じがしてしまい……。これはもう映画を作るのはダメかな、と諦めていました。

LiLiCo (泣)。ごめんなさい。つらかったよね。

サヘル・ローズ (泣)。いえいえ、あのときは世界中、みんな平等につらかったですよね。でもコロナがいろんなことに気づかせてくれたんです。今まで「時間がない」と言って諦めていたり、言い訳にしていたのですが、逆に「時間ができた」。言い訳はもうできないので、「やろう!」という一択を胸に、あらためて声をかけ始めました。

一番最初に電話をかけたのが、今作のプロデュースを務めて下さった佐東亜耶さん。亜耶さんも長年、児童養護施設の支援や、施設を退所した子たちと交流しており、多くの子どもたちを支えている素敵な女性なんです。また今作に出演してくださっている佐藤浩市さんも、児童養護施設や親のいない子どもたちに向けて思いを寄せていらっしゃるんです。そういう意味では、キャストだけではなく関わっている大人にもそういう問題にコミットしていらっしゃる方々が集まってくれたんです。

そんな心強い亜耶さんに2020年5月にまず連絡をして、「当事者の子どもたちが出るこういう作品を作りたい」と。すると、すぐに「協力するよ」って言ってくれました。それと同時に、本作の脚本を務めて下さったシライケイタさんも、コロナで今は時間の余裕があるから賛同すると言って下さったんです。ですが、監督をやってくださる方がいない。

背中を押してくれた、岩井俊二さんの言葉とは

LiLiCo そこでシライさんやエグゼクティブ・プロデューサーの岩井俊二さんを監督に、とはならなかった?

サヘル・ローズ そのお話はしたんですが、ケイタさんから「サヘルは?」と言われたんですよ。なぜかっていうと、私が1番想いを強く持っているし、当事者が当事者を見つめたときに、彼らの心情を全部理解できると思うし、誰か別の人がこのテーマを勉強したばかりの状態で作れる作品ではない、と。

確かに一理あるんですが、私は表現することですらまだまだ未熟、そんな私が作ることはもっとできないし、やってはいけない、とそう思っていました。それで、岩井さんに相談したんです。そうしたら「(サヘルは)監督をやった方がいいと昔から僕は思ってた。なぜなら作り手は孤独と闇を抱えてなければいいものを作れないし、抱えているものをアウトプットするのが映画。サヘルさんはすでにそれを抱えてるし、僕は観てみたい。全力で協力するから、監督やってみたら」と、ちょっと言っていて恥ずかしいのですが、貴重なお言葉をいただいたのです。岩井さんのお言葉を信じ、自分で監督をすることを決めました。

LiLiCo だからか! 佐藤浩市さんが登場したときに声出ちゃいましたけど、浩市さんも支援活動されてたんですね。知らなかった。

サヘル・ローズ そうなんですよ。それで私が監督するからには、出演を決めてくれた8人の当事者のバックにいる同じ境遇の人たち……日本では今4万2000人近い当事者たちがいるんですが、彼らがこの映画を観ることで、当事者自身が自分のことを語ることはOKなんだ、「かわいそう」ではないことなんだ、と気づいてくれたら。「ひとりだけじゃない」と感じてほしくてね。

『花束』

また、キャスト8人が紡ぎ出す人生はとても耳を塞ぎたくなる、目を覆いたくなるような経験なんですが、気づくとみんな笑いながら話してるんですよ。その姿を見ることによって、エネルギーを与えられるんじゃないかなって思うんですよね。

LiLiCo そうなんですよね。特に「子どもは親のために生まれて、親のために死んでいくもんだと思ってた」っていうの……痛いよね。違うのに。

サヘル・ローズ そうそう。そこは当事者だけでなく、みんなに、世の中に通じるんじゃないかなと思っています。

「ひとりひとりが輝いている姿をちゃんと本人に見てほしかった」

LiLiCo そう。生きる権利はみんな同じなのに、そう思ってしまうのはなんだろう、って思いますよね。また、全てを悲しい方に持っていく人もいれば、いい方に考える人もいるわけですし。この前、障がいを持っている方と対談したんですけど、本当に彼らは強く生きてるわけ。私、ちょっと膝の骨を折ったぐらいで何言ってんだ、みたいに思うくらい。

この映画で面白いと思ったのは、ドキュメンタリーではなく、あくまでもフィクションっていうところなんですよね。それによって、観る人を選ばない作品にしている気がします。でも、芝居未経験の人たちでしょ? いったいみんな、どういう風にそれを受け止めてたのかしら?

サヘル・ローズ 最初は脚本らしい脚本がなかったんですよ。リサーチでキャストの皆さんにお話をうかがったときに、脚本家のシライケイタさんは「彼らの人生を聞けば聞くほど、書いたセリフなど、どんな言葉も偽物になっちゃうから」と。その本物の彼らの言葉を記録するためにカメラを回したんです。その映像は映画本編で使うつもりがなかったんです。記録として、後でキャストの彼らにプレゼントしたいなと思って撮影していたんですよね。

LiLiCo でもあれがあるから説得力が出てる。

サヘル・ローズ そうなんです。インタビューするときにカメラを回して、っていうのは岩井さんの助言だったんです。なぜかっていうと、「映画の中で無駄になるものは一切ないから。サヘルさんがやりたいようにまずはやってごらん」って。その助言があったからカメラを回せたし、シライケイタさんがこれ以上のものは書きようがない、とおっしゃったのも作品の中で見届けてほしいです。

そこで、彼らの話、それぞれバラバラなピースを、シライケイタさんが6つの物語の台本に落とし込んでくれました。バラバラのエピソードなので、繋げるためにはどうすればいいかを模索していました。「未来の少年が自転車で走って、みんなとすれ違っていく。それは同じ施設じゃなかったとしても、どこかでみんなすれ違って、人間って生きてるよね」ってことをシライケイタさんが考案してくださったので、“未来”が大きな意味合いを持つのです。

脚本と流れができて実際に彼らにお芝居をしてもらったんですが、想像以上でした。何か演技指導的なことをしないといけないと思っていたんですが、その必要がほんとになくて。

LiLiCo え!? すごいですね。

『花束』

サヘル・ローズ そうなんです。お琴もギターもピアノも実際にキャストが弾けていたので、劇中での演奏は実は本当に彼らなんですよ。音を被せたりしたわけでもなく、彼ら自身の魅力です。

それはやはり、みんなが望んでいたことにつながるのですが、初顔合わせのときに彼らからお願いされたのは「かわいそうと思われることがいちばん嫌、ちゃんと施設を知ってほしい。職員さんの存在が親代わりであることも、私たちも同じ人である。名前がある。だから可哀想と見られたくない」ということでした。

弱者として見られ、そこだけ切り取られたら結局傷つけて終わってしまう。彼らの魅力を伝えたい。またひとりひとりが輝いている姿をちゃんと本人に見てほしかったのです。輝くことだと思っていたんです。で、実際に撮影に入ってみたら、誰も台本を現場に持ってこない。全部暗記して、事前に全員で読み合わせしてくれていた。

LiLiCo ええええ!!!!

サヘル・ローズ 本当にびっくりでした。どのシーンも一度だけ私がワークショップを開いていたんですけど、全部素直に受け止めてくれて。この映画は自己満足ではなくて、後輩やどこかで生きている肉親や家族に届けたい、と願っている子もいました。何よりも、全部彼ら自身の中から溢れ出てくる言葉だからこそ、何度も撮影をしないよう、できる限りテイクは1回を心がけてはいました。

LiLiCo だからか。すごく、リアルだったんですよね。子どもって「親を探して生まれてくるんだよ」なんていう人いるけど、真逆じゃない。子どもは親を選べないんだから。ずっと一緒にいても仲が悪い人っていっぱいいるじゃない。

サヘル・ローズ そうなんです。彼らの中には、生きているうちに本当の親に会うことを願ってる人もいて……(泣)。

LiLiCo 涙ぐまないで……(泣)。私、つられ泣きしちゃう。ほら、私も母とは分かりあえないままだったからね……。あの中に誕生日を知らないし面白くないっていう子がいたじゃない。あのエピソードは?

サヘル・ローズ あれは私の物語なんですよ。これはシライケイタさんにお願いして作ってもらったエピソードです。私自身、本当の誕生日を知らないんですよね。キャストの彼らは、誕生日を知っているんだけど、観てくれる当事者や社会の中にはきっと分からない人もいる。自分が何者か分からない人にとって、私と同じ思いで誕生日が嫌いな人っているんだろうなと思って。それをあのふたりに全部伝えて表現していただきました。

LiLiCo お芝居が初めてだからこそ、プロの俳優が表現するものとは全然違いますよね。

人生で何が大事かって、生きてることが一番大事だと思っているんですよ。だからあのシーンがすごく好きで。だって、94歳で亡くなった私のおばあちゃんも知らなかったよ、誕生日(笑)。8人も男が生まれて、最後に生まれた女の子だったから届け出が遅くなってね。それが7月1日だったけど、ほんとは6月生まれなのよね。

結局、どんな人でも気に入らないことがありながらも、どっこい生きるのよ。実は私も、本名が嫌いだから、もっとすごい響きのいい“LiLiCo”っていう名前をつけたんだもの。それに、日本には当事者が4万2000人くらいもいるんでしょ? 日本の特別養子縁組制度はなんでこんなに遅れてるんだろうって問題意識を持ってもらいたい。だって、アメリカだったら、1年で4万人の家族が見つかるのよ。

サヘル・ローズ そうなんですよ!

LiLiCo 制度が機能していたら、1年で当事者全員の家族が見つかるはずなのよね。それを、なぜ国が動かないのかって問題。すごく裏のメッセージがあるよね。このリアルを訴える最後は説得力ありました。

サヘル・ローズ いろんな団体や制度もあるにはあるのですが、それがうまく繋がっていけば、施設だけが頑張っていく環境ではなくなりますよね。家庭を求める子どもが寄りかかれる“かぞく”と出会えたら。血が繋がっているだけが“かぞく”というわけではないですもんね。LiLiCoさんのように考えてくださる方がいて、嬉しいです。ありがとうございます。

「映画がささやかな問題提起になればいいなと思います」

LiLiCo 撮影はいつ終わったんですか?

サヘル・ローズ 2022年の7月頃だったと……。

LiLiCo では、編集に時間を?

サヘル・ローズ そうなんです。2年ほど編集していました。それで2年越しに完成品を彼らに届けたときに驚くことがあったんですよ。それまでどんな感情をも一番笑顔で表していた子が涙を流しながら「苦しい話をしてるのに、私はこんなにも笑ってるんだ。その自分を客観的に見れたことがよかった」と。そのときにやっと「これだ! 私が伝えたかったのは! これ」と思えた瞬間だったんです。

LiLiCo そうだったんですね。その点、彼女は俳優だったんですよ。だって、感情を出せたんだから。芸能界の中にもハッピーな女性っていっぱいいるけど、彼女たちも昔の傷を隠しながら、ハッピーを装っていて、それが本当のハッピーにもつながっていく。彼女がそういう風に思ってくれたっていうのは、すごくいいことですよね。

サヘル・ローズ そうだと思います。私はこの映画で施設を否定したいわけではなくて、むしろすごい大事にしたいんですよね。だって、施設のおかげで、彼らの命が救われたわけですから。

今、もしかしたら親から手を挙げられてしまっている子どもには、「あなたはあなたの人生を生きることだよ」っていうことを伝えたいのと同時に、虐待をしてしまう大人にも、子どもたちは何をされてもあなたのことをきっとこういう風に思ってくれてるかもしれない、ということを伝えられたらいい、と思っています。いろんな角度から花束を渡せたらいいな、という想いで、このタイトルを岩井さんがつけてくれました。

LiLiCo 子どもにとって、大人が笑顔でいることが大事ですもんね。それは今の社会に対して伝えたい。

サヘル・ローズ こういう問題を考えるとき、だいたい子どもを重点に置いてくれているんですけど、その一方で大人がどんどん孤立していくんですよ。大人の孤独は子どもに伝わるし、時には子どもにそれが違った形で当たってしまう。この間違った循環を止めないといけないと思っています。

もちろん、映画で全てを変えることはできません。でも映画は問題提起にはなります。日本で置き去りになっている子どもたち、そしてその親や周囲にいる大人に目を向けてほしい。ささやかな問題提起になればいいなと思います。

LiLiCo この島国に1億3000万人も住んでいるのに孤独を感じるっていうのは、物理的に考えてもとっても変なことなのよね。ちょっと歩けば人にぶつかるくらいに過密なはずなのに。

それに「ダメだよ」って否定的に育てられたら悲しい人になるし、「世界一可愛いね」って言われて育ったら「私は可愛い!」って人に育つじゃない。いろんな人がいるけど、それを表現するのは大事なことだと思う。私たちにできることって、伝えること、伝える場があることを知らせることなんだよね。

サヘル・ローズ 私もそう思います。伝えることは、傷のかさぶたを剥がすことになることもあるから、時にしんどいんですよね。

彼らもドキュメンタリーの部分でたくさんしゃべってくれましたが、カットした話もたくさんあるんですよ。私じゃない監督だったら、そのカットした部分にあるすごいインパクトのある話を使ったかもしれませんが、私はインタビューにすごく時間をかけ、考えながらそれをあえてカットしました。

なぜなら、後々「言わなければよかった」って思うことは実はあるんですよ。それは私が当事者として語ったことで、言わなければよかった、と思ったことが何度もあったからね。後悔はいつかする。若いときはいいんです。でも、年を重ねたとき、守りたいものができたときに、やっぱり伏せたい事実もある。それは私が今回は年長者だから、分かること。だから、ある程度さじ加減をして、守りたい気持ちでしたし、ちゃんとキャストである彼らにも確認しました。

LiLiCo 人っていろんな方にお世話になって生きているから、それでいいんだと思いますよ。迷惑をかけたり後悔するのは違うもの。私の経験上、サヘルさんのように気を遣える方は、なんでもホントにちゃんとしてるなと思うし、この作品に出てきた皆さんはちゃんと自分の考えを言語化できていて、自分のため、サヘルさんのために動いたってことが分かりますよ。

「この作品をきっかけに花束を送り合うような相互関係の場を生み出すことで、いろいろな化学反応が生まれると思う」

サヘル・ローズ 私はそれが一方で怖いこともあって。彼らは私のことをすごい心配してくれてるんですよ。私がどうやったら喜ぶのかってことを気にしていたんです。でも、そんな風に生きられないんですよ。18歳で施設を退所した後、自力で生きてきた彼らは一見すごく強いんだけど、その反面強くなきゃ生きてこれなかったから、社会の顔色を無意識のうちに見ちゃうんです。頑張らないでね、これ以上を伝えたくって早くキャスト全員に届けたかったのですが、間に合わなかった。

LiLiCo え?

サヘル・ローズ この映画を見せられなかったキャストがひとりいるんです。彼は誰よりこの作品の完成を待ってくれていて、最後にやりとりしたLINEには「頑張って生きます」と。

あらゆる事情を抱え、大切な幼少期に愛されることを経験できなかった子どもたちが大人になったときに、コミュニケーションがうまくいかない、恋人との関係がうまくいかないということにとても傷つきやすいと、私は個人的に感じています。そういうのは当事者の問題ではないのです。彼らが幼少期に得られなかったものだから、不安定にもなって当たり前なんです。

この映画の中で、彼は美しく生きていますし、大切にしてきた人へも届けていきたいです。本人に届けられなかったのは一番、悔いが残ってはいます。考えるだけでいつも泣いてしまいます。

LiLiCo そんなことが……。大丈夫よ。先の人に観てもらうために、映画はあるんだから。

サヘル・ローズ そうですよね。この問題はすぐに解決することではないからこそ、100年先の人にも観てもらうことができると思えばいいのかも。実験的な作品になりましたが、作ることに意味があったと思うし、この作品をきっかけに花束を送り合うような相互関係の場を生み出す“『花束』プロジェクト”にしたことによって、いろいろな化学反応が生まれると思うんです。

この作品上映には必ずトークショーとお客さんとのディスカッションが必要だから、それがパッケージでできる場を探して、丁寧に届けたい。商業的ではないからこそできることを追求しようと思っています。

LiLiCo カフェで上映会をしてるんですよね。

サヘル・ローズ そうなんです。LiLiCoさんのようにこの花束を受け止めてくれる人がいらっしゃるように、上映会に来て下さった方々がそれぞれまた広げていくのが理想ですね。

LiLiCo そうそう。そういえば音楽はLUNA SEAのSUGIZOさんですよね。

サヘル・ローズ SUGIZOさんも、施設の子どもたちを長年支援してる方なんですよ。子どもたちを自分のライブに招待したり、施設におもちゃを送っていたり。そういった活動を独自に続けてらっしゃるんです。

LiLiCo 佐藤浩市さんもそうだけど、皆さん意思のある方々だったんですね。

サヘル・ローズ 子どもたちから見た大人の印象はひとりひとり違うと思うんです。苦しいことがあった子どもたちにとって大人の存在はそれほどいいものじゃないはずなんですよ。

でも、こんなに愛のある大人がみんなのことを見てるんだよってことも伝えたかったんですよね。実はSUGIZOさんは、亡くなった彼が使っていたギターを大事に引き継いでくださっています。佐藤浩市さんも出演されるだけではなく、撮影前から彼らと事前に関わってくださったり。

『花束』

LiLiCo なんと……。やっぱり人でつながってるよね。この問題に取り組んでいる人同士でつながるものがあるんですよ。支えられてここまできた、っていう感じ。

サヘル・ローズ それはあります。でも、途中で辞めたいって投げ出したかったことも正直ありますよ。もうね、孤独の塊。編集のときも、ふと、孤独に陥ったり。できた今も、正直、孤独です。監督ってこんなに孤独なものなんだ、って実感しているところです。

対照的だったのが、この映画の編集の時期に出演した『シサㇺ』(※公開中)。アイヌのお話なんですが、監督を経験した上で表現する側になったときにすごくやりやすくなったんですよね。

LiLiCo あるある。どっちも経験した人だと、現場の気持ちが分かるから。また映画を作りたいと思う?

サヘル・ローズ はい。もっともっと伝えたいことありますから。岩井さんは、次回作はこういうドキュメンタリーじゃなく完全なるフィクションを撮りなさい、って言ってくださっていたので。そこまでの自信はないですが、やれる日を目標に、今は花束のためにみんなで全力で届けています。そのためなら、どこへでも、いくらでも走り回ります。

映画『花束』
公式HP https://hanataba-project.com/
公式X https://x.com/hanataba_pro
公式Instagram https://www.instagram.com/hanataba.pro/

■映画『花束』上映会場
※最新状況は公式㏋やSNS、各会場HPなどをご確認ください

2024年9月16日 PEACE DAY × 国際平和映像祭 2024(ヒューマントラストシネマ渋谷)
2024年9月19日~21日 喫茶 壁と卵(幡ヶ谷) 
2024年9月20日~26日 MOVIE ON やまがた
2024年9月20日~28日 深谷シネマ(埼玉)
2024年9月29日~30日 喫茶 壁と卵(幡ヶ谷)
2024年10月12日 第19回札幌国際短編映画祭
2024年11月2日~11月3日 第31回キネコ国際映画祭(二子玉川)

他にも随時、HPにもUPしてまいりますので
ぜひご覧いただけたら幸いです。

(C)2024 hanataba project

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。

『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』

講談社 1400円(税別)
発売中