LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!
グレン・パウエルの“殺し屋七変化”を楽しめます! 『ヒットマン』
月2回連載
第147回
とても実際の話とは思えないほどの大興奮です
今回は駆け足で洋画から3作品紹介しますね。まずは公開中でそろそろ観ることができる劇場が減ってきてしまっている『ヒットマン』。お近くの劇場でタイトルをみかけたら迷わず観て!
ニューオリンズの大学で心理学の教鞭をとるゲイリーは、ひょんなことから警察の捜査に協力することに。じつはおとり捜査で殺し屋役となるはずだった警察官がキャンセルされてしまい、心理学を教える彼ならなりきりができるだろう、ということで白羽の矢が。それがまさかの大的中。彼が務めた代役は大成功し、次々とおとり捜査の依頼が舞い込みます。
そんなある日、彼のもとにマディソンという女性からの依頼が。彼女は夫のDVに苦しめられており、ゲイリーを殺し屋ロンと思い込んで依頼してきたのです。彼女の事情を聞くうちに同情してしまったゲイリーは、それまで越えなかった領域に足を踏み込んでしまい……。
なんとこれ、実話がベースとなっているクライムサスペンスです。なんといっても主演のグレン・パウエルがいい! 彼がブレイクするきっかけとなった『トップガン マーヴェリック』のハングマン役をお好きな方だったら、きっとハマるだろうと思いますし、私が今年のベストの1本に入れている『恋するプリテンダー』で彼にハマった人にもおすすめ。というのも、彼、ハングマン役と“恋プリ”では全く違う役どころを見事に演じているでしょ。
今回のゲイリー役は、まさに彼の芝居のお披露目ショーケースみたいなもので、さまざまななりきり演技をみせてくれるんですよ。すっとぼけた雰囲気も、殺気に満ちた雰囲気も、この作品の中でさらっと演じ分け、“殺し屋七変化”を楽しめます。
そもそもこの作品の企画は、ある地方紙に載っていた記事から着想を得たことから始まっています。その記事、じつはグレンも読んでいて、映画にせねば! と動き出したそうです。とても実際の話とは思えないほどの大興奮ですよ。
無駄なことを全て削ぎ落とした人生から学ぶことが多いというのを思い知らされました
2作目は、北欧の山岳地帯を舞台にした『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』というドキュメンタリー映画です。ノルウェー西部の山岳地帯で暮らしている老夫妻の暮らしを、彼らの娘である監督が収めています。
84歳のヨルゲンとマグンヒルドは、美しい山岳地帯の渓谷でひっそりと暮らしている夫婦。娘のマルグレート・オリン監督はそんな両親の暮らしと、その土地にまつわる歴史を収めるべく、彼らに密着して話を聞いていきます。
それとともに、雄大な大自然の映像は、ドローンなどを使った最新技術を駆使。シンプル・イズ・ザ・ベストの精神で生きる監督の両親の暮らし、生き方、大自然との共生などから、人生の意味を問いただすドキュメンタリーとなっています。
本当に美しい映像の連続ですし、お父さんの言葉のひとつひとつがこれまた素晴らしいんですよ。何もなくて静か。大事なのは言葉だけ。無駄なことを全て削ぎ落とした人生から学ぶことが多いというのを思い知らされました。
いわゆるネイチャードキュメンタリーとはちょっと違うのもこの作品の特色。自然の美しさや人間によって破壊されるものごとにも着目はしていますが、あくまで監督のご両親が営む自然との共生にスポットを当てていて、ネイチャードキュメンタリーを見慣れた方でも新鮮に映るはず。癒やし、の一言では片付けられない骨太なドキュメンタリー映画です。
いくつになっても、きっかけさえあれば変わることができ、再出発できるということも理解できる作品になっています
さて最後に紹介するのは、公開中のドキュメンタリー映画。『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』。現在、メゾン マルジェラのチーフデザイナーを務めているジョン・ガリアーノが、自身の失言で失脚した前後に起きたことを自分の言葉で語るというドキュメンタリーです。
ロンドンのセントマーチンでの卒業制作から「天才現る」と評判だったジョン・ガリアーノは、ジバンシィやクリスチャン ディオールのデザイナーに抜擢され、一気にファッション界の革命児と呼ばれるように。ところが、2011年に一般の人に対して差別発言をしている動画が拡散され、それは有罪判決に。ブランドからは解雇され、もはやファッション界に戻ることは不可能とされてきました。その時期に彼の身に何が起き、背景には何があったか。自身の言葉で語り尽くします。
彼の功績は大量にありますが、なんせ全盛期のアーカイブの華やかさ、デザインにはうっとり。本当に素晴らしいんですよ。彼の才能に惚れ込んだのは、証言で出演するケイト・モスやナオミ・キャンベルだけでなく、ファッション界の守護神、『VOGUE』誌の名物編集長アナ・ウィンターなど。彼らもガリアーノの才能や人柄を語るんですが、大事なのはあのときに起きたことを俯瞰でみていたガリアーノ直近の人たち。世間一般の評判とは違った側面を語ります。
そこに本人自身の証言が加わることで、当時彼が持っていた影響力やキャラクターが浮き彫りに。要は彼、殺人的な仕事量をこなすために、アルコール依存に陥っていたんですよね。それゆえに、事件当時のことは詳細には覚えていないんです。
こりゃいかん!とはいえ、人は変わるもの。いくつになっても、きっかけさえあれば変わることができ、再出発できるということも理解できる作品になっています。そして、ファッションが好きな人なら垂涎のお宝映像ももりだくさん。だって、ケイト・モスのデビュー当時の話なんて、初めて聞きましたよ!
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取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己
プロフィール
LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。
夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。
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