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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

これは若い人こそ観るべき! 『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』

月2回連載

第148回

息長く落ち着いて、自分を信じた活動をすることの大切さが学びとれると思います

文化の秋、映画館に行きましょう。今回ご紹介するのは、劇場でタイトルを見かけたら即座に観ないと、次のときは上映終了しちゃってるかもしれない小品。まずは、10月18日から公開される『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』。日本でも人気の高かったピアニスト、フジコ・ヘミングさんを2020年から他界するまでの4年間追いかけたドキュメンタリーです。

母親が弾いていたショパンの「ノクターン」に魅せられ、子どもの頃から音楽の道を歩んできたフジコさんですが、ご存じのとおり世界的な注目を集めるようになったのは60代後半。それまでの半生があまりにもドラマチックだったことや、遅咲きのピアニストということなど、世間での話題はピアノよりも彼女のバイオグラフィでしたよね? 

それでも彼女は活動を止めることなく、世界中で精力的に公演を続けてきました。その原動力となったのは、彼女の家族である猫や犬に囲まれた生活。東京、サンタモニカ、パリに自宅を持っていた彼女のプライベート空間にもカメラが入ったばかりか、第二次世界大戦中を過ごしたという岡山にも足を運び、当時のピアノとの再会や家族との思い出も振り返ります。

2018年にロングランヒットを記録したドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』の続編ともいえる作品です。あれから6年。前作よりもさらに彼女のパーソナルに踏み込んだ内容になっています。やはり前作での関係性があったからでしょうね。監督とフジコさんの関係の近さがよく分かります。

2020年から始まる本作は、みなさんも経験したとおり、コロナ禍での活動に迫っています。驚くのは、配信によるコンサート活動にも精力的に取り組み、自分の考えがはっきりしていること。90代になってもまったくスピード感を落とさずに活動をしていたことや、魂が突き動かす音楽に対する情熱など、数多いるピアニストの中でも本当に珍しいタイプのベテランでした。

そんなフジコさんが各国に持っている家にもカメラが入るんですが……ものが多い(笑)。昔のものを捨てられなかったんでしょうね、分かります! これは若い人こそ観るべき。なぜなら、今って先を急いで焦りまくる人が多いじゃないですか? 

フジコさん、ブレイクが60代というのもありえないんですが、そこから約30年トップですよ。なんせフジコさんのことはお茶の間レベルで知られているじゃないですか。うちの小田井も前作を観ていると聞いてびっくりしたんです……あんなにマーベルか『スター・ウォーズ』くらいしか観ない人が(笑)。

息長く落ち着いて、自分を信じた活動をすることの大切さが学びとれると思います。残念だったのは直接お会いできなかったこと。チケットとれなかったんですよねー。スウェーデンにルーツをお持ちということでも、他人とは思えなかったのに……。ご冥福をお祈りします。

直球で批判を投げかけてますし、それが非常に気持ちいい!

さて、もうひとつも同日から公開が始まる『まつりのあとのあとのまつり「まぜこぜ一座殺人事件」』。俳優のみならずマルチに活動している東ちづるさんが、企画・構成・プロデュース・主演を務めた社会派コメディです。

東さんが主宰する「まぜこぜ一座」の公演終了後、打ち上げの席で事件が起きます。なんと東さんが絞殺死体で発見されるんです。エレベーターが使えなくなり、携帯電話の電波も遮断。その場にいた人すべてが容疑者でした。一座の面々の他にいたのは、公演に招待されていた芸能事務所、テレビ局、広告代理店の関係者のみ。犯人探しが始まるのですが……。

本作での登場人物の大半が本人役ですし、一座の公演があったのも本当。なので、ドキュメンタリーのようなタッチで、多様性の受容に対して一般の人たちが持っている問題意識と当事者が抱えているリアルな苦悩のギャップを描き出します。

重く描こうとすればいくらでもシリアスにできる題材ですが、これはコメディーでエンタメ。だからこそ観て感じ取ってもらいたいんですよね。最終的なゴールは、こういう映画、東さんが主宰する団体のように常日頃から訴え続ける人々の活動がなくなることだと思うんですよ。だって、問題があるから存在するんだもの。

映画の中でも語られているように、メディアが変わらないといけないってことが重要。障がいを持つ人やセクシュアル・マイノリティの人、ありとあらゆる「少数派」と呼ばれる人たちを、個性として見ることができないメディア関係者の意識が変わらないといけません。そこはさすが長年芸能活動を続ける東さん。直球で批判を投げかけてますし、それが非常に気持ちいい! ゴールに向かうためには、まずは映画を観ましょうね。






(C)2024 「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」フィルムパートナーズ (C)2024 一般社団法人 Get in touch

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。

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