LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

『LOTR』をまだ観たことも読んだこともない、という人でも大丈夫!『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』

月2回連載

第153回

初心者がこれ以上入りやすい作品もないんじゃないかな

2024年もたくさんの作品を紹介してきましたが、今回で今年の公開作のおすすめはラスト。年末年始に楽しんでいただきたいけど、どうにも埋もれちゃいそうな作品を2つご紹介します。まずは、『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』。

J・R・R・トールキンの名作小説をピーター・ジャクソン監督が実写化した『ロード・オブ・ザ・リング』(LOTR)名作3部作の約200年前を描く前日譚。これ、全くのオリジナルエピソードではなくて、原作の『指輪物語 追補編』に記されていた、いわば『LOTR』シリーズのはじまりの物語です。なんとアニメですよ。

中つ国にある騎士の国ローハンでは、ヘルム王に護られて平和が長年保たれてきました。が、突然の攻撃を受けて王国は崩壊の危機を迎えます。そこで立ち上がったのは、若き王女のヘラ。彼女が民の運命を一手に引き受けて、敵を打倒するために戦いに乗り出します。が、その敵とは、彼女がかつて一緒に育った幼なじみでもあるウルフ。宿敵同士となったヘラとウルフは……。

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』

ハリウッドで製作された洋画ですが、制作陣は日本。『東のエデン』や『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズを手がけた神山健治さんが監督を務め、『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』のStudio Sola Entertainmentがアニメーション制作を担当しました。アニメーション作品ですが、実写3部作を手がけたピーター・ジャクソンはもちろん、フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエンがプロデューサーとして参加しているので、世界観は確実にキープされていますよ。

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』

『LOTR』は文学でも映画でも名作中の名作として知られていますが、まだ観たことも読んだこともない、という人でも大丈夫。なんせはじまりの物語ですから、ここから入っていただいて、お正月に『LOTR』シリーズ関連作を一気見するというのもいいと思います。

それに、ハリウッドのアニメーション映画らしく、とてつもないスケールの物語と描写を、日本人にはなじみの深い日本のアニメのキャラクターアニメーションで表現しているので、とにかく見やすいはず。登場人物が多く、世界観も独特な『LOTR』ですが、初心者がこれ以上入りやすい作品もないんじゃないかな。

日本の上映の多くは、日本語吹き替え版になりますので、これまた『LOTR』の世界に入るには楽々。ヘルム王は市村正親さん、ヘラは小芝風花さん、宿敵ウルフは津田健次郎さんが担当しています。

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』 ヘルム王(声:市村正親)
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』 ウルフ(声:津田健次郎)

ご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、この作品のいくつかのキャラクターで、私も声の出演をしているんですよ。しかも、男女両方のキャラクター。どのキャラクターの声を担当しているか探してみてくださいね(きっと分からないと思いますけど)。

大人の男たちがしっかりと真面目に面白いことをやる、というのが、この作品のいいところ

もう1作品は『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』。ヘヴィメタル大国でも知られるフィンランドから来たヘヴィメタ映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』の続編です。

ライブの直後に逮捕され服役中のバンド、インペイルド・レクタムのメンバーたち。彼らは金儲け主義のプロデューサーから、ドイツで話題のメタルフェスへの出演をオファーされます。獄中にいることはもちろん、それゆえに練習ができないことや、プロデューサーが自分たちの話題優先で金儲けしか考えていないことから固辞します。

『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』

ところが、ギター担当のロットヴォネンのお父さんが急病で倒れてしまい、実家にあるスタジオが消滅の危機に。彼らは脱獄してスタジオをなんとかキープし、フェスへの参加を決めます。うまくいくと思っていた矢先、音楽業界の闇に飲み込まれ、メンバーの間には軋轢が……。

日本でフィンランド映画が観られる! フィンランドといえばアキ・カウリスマキ監督作のイメージが強いですが、それだけじゃない。こういうエンタメ作、なかなか日本に来ないから、嬉しいですね。

ヘヴィメタとフィンランドが結びつかない、という方もいらっしゃると思いますが、実はフィンランドではめちゃポピュラー。エアギターのコンテストがフィンランドの名物行事になっているほどですから。しかも、BABYMETALもあるシーンで出演しますが、彼女たちのパフォーマンスが世界のメタルファンの間でウケている理由も分かると思います。

『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』

そもそもの話がとんでもないんですよね。とはいえ、前作を観ていなくても大丈夫。この作品だけで十分楽しめますから。彼らが目指すフェスは憧れのイベントだし、出演できるのは最高なんだけど、確かにフェスにはいろいろあるんですよね……(笑)。商業的にもアート的にもバランスのいいフェスもあれば、どっちかに偏っているものも。そこで北欧らしい皮肉が効いています。

『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』

大人の男たちがしっかりと真面目に面白いことをやる、というのが、この作品のいいところ。音楽好きだからこそ、音楽に向かう熱意ひとつで動く大人たちを描くとハートフルな物語になるんですよ。小手先勝負のギャグではなく、大人の友情やアイデンティティへの対峙を描いているので、ハードロックがあまり得意ではないという人でもスッと物語に入れると思いますよ。

『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』

ちなみに、主人公トゥロがちょっぴりオトボケ、面白い表情を見せてくれるハードロッカーだけど、本人は超ハンサムガイでした。劇中でもよく見ると分かりますよ! 来年もたくさんの作品を紹介しますので、楽しみにしていてください。よきホリデーシーズンを!






LOTR TM MEE lic NLC. (C) 2024 WBEI
(C)Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。

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