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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

ペットを飼ったことがある人や動物が好きな人にはたまらないドキュメンタリーです『ねこしま』

月2回連載

第154回

猫の可愛さはもちろんだけど、マルタの美しさにはため息が出ちゃいます

みなさん、ちょっと遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。今年もたくさんの「埋もれちゃダメ!」な良作を紹介していきますので、よろしくお願いしますね。早速ですが、新年1発目は2作品。まずはドキュメンタリー映画『ねこしま』から。

地中海の島国・マルタ共和国。ここには実はたくさんのノラネコが暮らしており、人との共生がうまくいっています。とはいえ、それが一朝一夕になされたわけではなく、猫に心を奪われた住民たちが育んできた文化があるからこそ成立しているんですね。

『ねこしま』

たとえば、開発業者は風光明媚なマルタをもっと観光地化させようとしますが、それを阻止したのは住民ですし、猫だらけの島に魅せられて移住してきた人がいたり、子どもでも猫の保護活動に熱心だったり……、猫を中心に考える人々が作ってきた文化があるからこそ成り立っているわけです。そんな人々、そして猫たちにカメラを向けて、マルタの魅力を伝えようとしているのが本作です。

なんといっても、猫の可愛さはもちろんだけど、マルタの美しさにはため息が出ちゃいますねー。とにかくきれいな風景の連続。猫の話だけど街の風景やインタビューのときの背景が綺麗なんです。女性監督が撮っているせいか、美的センスが私にはしっくりくるんですよね。

『ねこしま』

至るところに猫がいるんですが、なんと人間の数より猫が多いんだそうですよ。マルタでは猫も風景のうちってこと。そもそもなぜマルタがこのように猫島になったのかも描かれていますし、猫をとりまく現状の問題も出てきます。

悪意のある人によって毒殺される猫がいたり、あまりにも猫の数が多いので交通事故は日常茶飯事だったりとか。そこで人間が立ち上がるわけですが、たしかに猫を守らないといけないけど、それをしつこく押しつけがましい感じでは全くないのもいいところ。ある意味、ちょいゆるい。それがいいんですよ。

『ねこしま』

保護活動の一環で、日本にしか存在しないと思っていた猫カフェがあることにも驚きました。ここの取り組みがしっかりしてるんです。スタッフは里親に猫を預けても、その後をちゃんと見守っていますし、やばいことがあったら警察の協力もお願いして取り戻したこともあるんだとか。ペットを飼ったことがある人や動物が好きな人にはたまらないドキュメンタリーです。

愛する人と向き合った人生を本質的に考えさせてくれる作品です

そしてもう1作品は、『アンデッド/愛しき者の不在』。ノルウェー、スウェーデン、ギリシャの合作ですが、原作はスウェーデンのベストセラー作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説です。彼の小説はいくつも映画化されていて、知られたところでは『ぼくのエリ 200歳の少女』や『ボーダー 二つの世界』などがあります。

舞台は現代のノルウェー・オスロ。息子を亡くしたばかりのアナと彼女の父マーラーは落ち込む毎日を過ごしていました。そんなある日、墓地でかすかな音を聞いたマーラーは、孫の墓を掘り起こして遺体を連れて帰ります。

『アンデッド/愛しき者の不在』

その一方、オスロでは各地で異変が。交通事故で死んだはずの女性が奇跡的に蘇生したり、教会で葬儀を終えたはずの死者が家に帰ってきたりしていたのです。遺族は戻ってきてくれた愛する人を大歓迎し喜びますが、彼らはどこか生前とは違っており……。原作者自身が脚本も手掛けた北欧ホラーです。

北欧を舞台にした、または北欧出身の原作者によるホラーは行間たっぷりで読み解くのが楽しいんですよ。分かりやすい映画もいいとは思うんですが、自分で一生懸命読み解こうとするからこそ、記憶に深く刻み込まれるんですよね。この作品はなんせセリフが少ない! だけど、その行間には叫びが聞こえるよう。怖い……けど美しい物語です。

『アンデッド/愛しき者の不在』

あらすじを読んだだけだと、アナの亡くなった息子が戻ってくるエピソードがメインのように感じられると思いますが、それ以外の登場人物やエピソードも素晴らしいんです。それぞれがどう関係していくか、多くは語られないんですが、亡くなった大切な方がもし戻ってくるとこうなるのね……と複雑な気持ちになります。そして、ラストはかなり衝撃的。でもハリウッド映画のような派手さはゼロで、とっても静かな幕引きなのもじんわりと心に染み入るようでいいですね。

『アンデッド/愛しき者の不在』

ホラーだけではなく様々な要素が入り混じっていて、北欧ホラーの代名詞にもなってしまった『ミッドサマー』とは違って“なにを見せられたんだ?”と思う方もいるかも。怖さ、切なさだけでなく、「人生とは?」「愛し方とは?」など、愛する人と向き合った人生を本質的に考えさせてくれる作品です。






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取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。

『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』

講談社 1400円(税別)
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