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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

まさかオスカー候補がエンタメで、こんなに面白いとは思っていなかったのでびっくり『ANORA アノーラ』

月2回連載

第157回

アカデミー賞助演男優賞候補になったユーリー・ボリソフがすっごい!

いよいよアカデミー賞の結果発表が間近。そんなオスカー関連作で、私が観た瞬間に「これは!」と思った作品が公開されます……が、これがほっといたら埋もれちゃいそう。ということで、その作品ともうひとつ、心動かされたアジア映画を紹介します。まずは『ANORA アノーラ』。アカデミー賞では作品賞、監督賞のほか6部門にノミネートされているブラックコメディです。

ニューヨークのストリップクラブで、客と直接交渉しながら体で稼いでいるアニーことアノーラは、ある日指名を受けて接客をします。その相手は、ロシアから来た若者イヴァン。アニーは祖母がロシア人だったことから、第二言語としてロシア語を理解できるため指名されました。

『ANORA アノーラ』

イヴァンはオリガルヒの御曹司でめちゃくちゃお金持ち、その夜を満足させたことから、後日家に招かれます。そこで彼がロシアに帰国するまでの1週間だけ、1万5千ドルの契約で恋人になってくれと懇願され、彼女はそれを引き受けます。遊んで暮らす夢のような日々。自家用ジェットでラスベガスにやってきた彼らは、勢いで結婚式をあげてしまいます。

『ANORA アノーラ』

一気にプリティ・ウーマン化したアニーですが、ニューヨークでは大騒ぎが。その結婚がロシアにいるイヴァンの両親にバレ、ニューヨークにいる彼のお目付け役が動き、なんとか結婚を破棄させようと彼の家を急襲。イヴァンは脱走し、お目付け役たちとアニーの4人が取り残され、彼を探すことに……。

むちゃくちゃ面白くて、最後はホロッとさせる完璧なエンタメ。笑いあり、涙あり、ドキドキハラハラもあり、キャットファイトもあり(笑)。いやー、まさかオスカー候補がエンタメで、こんなに面白いとは思っていなかったのでびっくりしました。

『ANORA アノーラ』

前半は『プリティ・ウーマン』よろしく、アニーのサクセスストーリーなんですが、後半は全く違う話。セックスワーカーの人たちは、性のサービスをすることで生活の糧を得ていますが、アニーはそれだけじゃない。ちゃんとサービス業としてのお勤めを果たしているんですね。このコミュニティを描いた映画はいくつかあるけど、その中でもピカイチによく描けていると思います。

『ANORA アノーラ』

それは、サービス上の性と本当の愛の表現の違いが分からない、戸惑ってしまう、という人たちの気持ちのリアル。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』にも似たこのテーマですが、あの映画が好きだったらこの作品は絶対に気に入ってもらえるはずです。いや、むしろあれよりも人間を掘り下げた傑作だとも思っています。

あとね、俳優としてオスカー候補に入ったアニーを演じたマイキー・マディソンはもちろん素晴らしいんだけど、イヴァンのお目付け役のイゴールを演じて助演男優賞候補になったユーリー・ボリソフがすっごい。ぜひ彼に注目していてください!

『ANORA アノーラ』

スポーツ好きはもちろん、社会問題に関心のある方は絶対観るべき

さて、もうひとつは、同日に公開される『TATAMI』。アメリカ・ジョージア合作で、イランの柔道家を描いた異色作。一昨年の東京国際映画祭で審査員特別賞と最優秀女優賞を獲得しています。

ジョージアの首都トビリシで行われる女子柔道世界選手権。イラン代表選手のレイラは順調に勝ち進んで、金メダル候補のひとりとされていました。ところが、金メダル目前というところで、政府が介入。敵対国イスラエルの選手との対戦を避けるために棄権しろという命令が下ります。

『TATAMI』

その命令に従わない場合、彼女とコーチはもちろんのこと、国にいる彼女らの家族も無事ではいられません。政府の指示どおり、怪我を偽装して棄権するか、それともアスリートとしてのプライドを守り戦い続けるか、最大の決断を迫られます。

ポリティカル・スポーツ・エンターテイメント……なかなか聞かないジャンルですよね。これを描いたことによって製作に参加したイラン出身の人々は全員亡命し、イランでは上映禁止となっているほど、かなり物騒な物語。とんでもない不平等に心が痛みます。でも実話に基づいているからこそ知るべきことがたくさん詰まっている衝撃作です。

『TATAMI』

タイトルは柔道場の畳からとられていますが、日本生まれのスポーツが世界を興奮させたといっていいでしょう。太鼓の音が心臓に響いて畳の音が伝わってきます。モノクロだからこそドキュメンタリーっぽくも見え、カメラワークも斬新。まるで現場で事の成り行きを見せられているかのような感覚になってしまいます。

『TATAMI』

スポーツ好きはもちろん、社会問題に関心のある方は絶対観るべきですし、自分ならどうする?と考えるべきでしょう。私はそんな余裕もなかったほど、のめり込んじゃいましたが(笑)。

(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.  (C)Universal Pictures
(C)2023 Judo Production LLC. All Rights Reserved

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。