LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!
美しくてミステリアスで、ブラックユーモアを感じさせるフランソワ・オゾンの世界観が帰ってきました『秋が来るとき』
月2回連載
第164回
タイトルからは到底想像もつかないようなサスペンスフルなドラマです
じめじめした梅雨がやってきてしまいました……が、こんな季節こそ、出かけたついでに映画館でおこもりすべき! ということで、大作がひしめく中で埋もれてしまいそうな作品をふたつ紹介します。まずは『秋が来るとき』。『スイミング・プール』や『8人の女たち』で知られるフランスの名匠フランソワ・オゾンの最新作です。
パリに長年暮らしていた80歳のミシェルは、自然豊かでのんびりしたブルゴーニュの田舎でひとり暮らしをしています。家庭菜園で野菜を育てつつ、お料理や友人との散歩を楽しむゆったりした日々を送り、たまにやってくる娘と孫との再会を楽しみにしていました。

秋の休暇でお楽しみの孫・ルカちゃんと対面!となりましたが、そこで大事件。ミシェルが振る舞ったきのこ料理で食中毒を起こしてしまいます。それをきっかけに、家族の過去が浮き彫りになっていく……という、タイトルからは到底想像もつかないような、サスペンスフルなドラマです。
この物語が転がるきっかけになるお料理に注目。ブルゴーニュの自然と町並みの美しさや家の中にあるインテリアのおしゃれ感はそもそもオゾン監督らしいんですが、フランスの家庭において食卓が重要な位置にあることがよく分かるんですよね。食卓を囲むことで物語が思いもよらぬ方向に転がっていくこの作品は、フランスのライフスタイルが具現化されているようで、すごく勉強になります。

フランソワ・オゾン監督の作品はどれも好きなタイプではあるんですが、彼の作風で好きなのはこの作品のようなサスペンス色があるミステリアスな作品! 美しくてミステリアスで、どこかブラックユーモアを感じさせる彼の世界観が帰ってきました。
一見、すごく幸せな家族に見える序盤だけど、“きのこ事件”からどんどん出てくる家族の澱み。ミシェルが思い描いていた幸せは、いろいろな悲しい出来事を経てのことだということが次第に分かっていくストーリーで、人生の終盤を迎えた彼女にとっての試練がめちゃくちゃ刺さります。

ミシェルと親友のクロードの関係性が素敵ですし、ミシェルが出所したクロードの息子に仕事を与える優しさがすごくよく分かる! このくだりは観てからのお楽しみですが、美しくてちょっと怖い話。優しい嘘は存在するのか? 観終わってからずっと考えてしまうと思いますよ。

『秋が来るとき』
上映中
マリリン・モンローを知るために最高の教科書になると思います
さて、もうひとつは『マリリン・モンロー 私の愛しかた』。50~60年代を駆け抜けたセックスシンボルとしてのマリリン・モンローはご存じの方も多いでしょうけど、そんな彼女の素顔に迫るドキュメンタリーです。
トップスターに躍り出たマリリンは、大スターならではの苦悩にさいなまれ、私生活がスキャンダラスに騒がれる日々。でも、そもそも彼女は親の愛には恵まれず、自分のキャリアを磨くことでアイデンティティを確立しようともがいていました。

そんな時代を知る元恋人やバックダンサー、共演者はもちろん、近親者や伝記作家、心理学専門家などの証言を基にに、孤独でつらい経験をした少女が時代を動かすスターになるまでの軌跡をたどります。
セックスシンボルとして世界中から注目され、今も愛されているマリリンは、私にとっては悲しい存在。私が10歳のとき、スウェーデンでマリリンのことが書かれた分厚い本を一生懸命読んだ記憶が鮮明に残っています。

あの時代に、しかもそもそも美しいのに、彼女自身がいろいろ工夫、美容整形手術もして、あのキャラクターを作り上げたんですよ。セルフプロデュースの成功例でもあり、真のプロフェッショナルでもあります。このドキュメンタリーを観ると、メディアに出るときの振る舞いや、映画に出るときにあくまでもしっかりした演技と役作りをしてるのがすごく分かります。

恋愛には恵まれなかったことも有名ですが、彼女の生きた時代には早すぎるライフスタイルだったからでしょうね……。もはや伝説となっているヌード撮影など、秘蔵エピソードも取り上げて充実した内容。なぜこの作品がもっと早く発表されなかったのか不思議なほど。

衝撃だったのは、彼女のお母さんへの電話。母親は「産んだ覚えがない」って言うんですよ。この家族環境がマリリンの奥にある切なさに繋がるでしょう。この作品を観ると、作中で取り上げられている彼女の出演映画を再度観たいと思ってしまうはず。魅力的なプロの俳優、マリリン・モンローを知るために最高の教科書になると思います。
『マリリン・モンロー 私の愛しかた』
上映中
(C)2024 –FOZ –FRANCE 2 CINEMA –PLAYTIME
(C)2023-FRENCH CONNECTION FILMS
取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己
プロフィール
LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。
夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。
