LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

ラブロマンスかと思いきや、とんでもないラストが待っています『愛はステロイド』

月2回連載

第169回

撮影:源賀津己

ケイティ・オブライアンは素でこの役を演じてるのでは? と思ってしまうくらいハマり役

お盆が終わりましたが、暑い日が続きますね。そんなときだからこそ、涼しい劇場で埋もれちゃいけない映画をたっぷり堪能していただきたい! ということで、今回も2作品紹介します。まずは『愛はステロイド』。クリステン・スチュワート主演の異色スリラーです。

1989年のアメリカ。ジムで働くルーは、熱心に鍛えるボディビルダーのジャッキーと出会います。ジャッキーはラスベガスで行われるボディビル大会で優勝を目指している流れ者。自由に生きる彼女と、家族の問題を抱えるルーは一気に恋に落ちます。

『愛はステロイド』

実はルーの父親は街の裏社会を仕切るヤバい犯罪者で、姉も夫からDVを受けており、切っても切れない縁に悩んでいました。そんなルーをかばおうとするジャッキーですが、ひょんなことから彼女らは犯罪に巻き込まれていき……。問題を抱えた女性を助けようとするラブロマンスかと思いきや、とんでもないラストが待っています。

『愛はステロイド』

いやこれ、物語が始まったときの印象と観終わってからが全く違うんですよ。いったい何を見せられたんだ……と思う人が大半のはず。例えて言うなら、クエンティン・タランティーノ監督のノリと勢いに三池崇史監督のグロッグロのサスペンスホラーを足して煮詰めた感じ。中盤以降、ストーリーが疾走してどこに向かうのか分からなくなるあたりからは、ネタバレ厳禁ですので観てからのお楽しみ。

『愛はステロイド』

最高なのはジャッキーを演じたケイティ・オブライアン。もちろんクリステンの芝居があってこその彼女ではありますが、ケイティは元ボディビル選手だけにムッキムキなんですよ。役作りというよりも、素でこの役を演じてるのでは?と思ってしまうところもあるくらいハマり役。そんな彼女らの愛は熱烈であり退廃的でもあり。彼女らが置かれた状況も含めて、見応えのあるラブサスペンスになっています。

『愛はステロイド』
8月29日(金)公開

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哲学的でもあって、生きることについて考えさせられます

『僕の中に咲く花火』

もう1作品は日本映画。『僕の中に咲く花火』です。『太秦ライムライト』の監督・落合賢がプロデュースを手がけたこの作品は、短編映画『The Soloist』で注目された清水友翔が、自身の経験を基に脚本を執筆し、長編監督デビュー作となります。

岐阜の田舎町に暮らす18歳の稔は、小学生のときに母を亡くしてから家にはほとんど帰ってこない父、そして不登校で引きこもっている妹との関係に悩んでいました。そんなとき、彼は東京から帰省してきた女性・朱里と出会い、心のスキマを埋めるように彼女と交流を重ねていきます。ところが、彼には不幸な事件が降りかかり……。

『僕の中に咲く花火』

岐阜の風景と悲しい記憶にノスタルジーを感じる、ひと夏の出来事を描いた青春物語。清水監督が初長編監督作品にして、主人公の心情を丁寧に描いています。

母を亡くした悲しみを抱き続けている主人公・稔の心の動きは複雑。引きこもりの妹を思って勇気づけようとしてもなかなかうまくいかず、たまに帰宅する父親から不在の理由を聞いて、肉親への愛情と心配が憎しみに変わったり……。

『僕の中に咲く花火』

そんな悩みのタネのひとつ、父親を演じる加藤雅也さんが圧巻。息子の稔とコミュニケーションを持とうとしながらも、自身のわがままが勝ってしまう。家族のことを考えていないわけではないはずなのに、自分の幸せを追求してしまう残酷さ。それを見事に表現しています。

『僕の中に咲く花火』

哲学的でもあって、生きることについて考えさせられます。苦しい時期ほど明るくてあっけらかんとしている人に出会うことの大切さが分かります。たとえ、悩みを打ち明けるとかでなくても、世間話だけでも力になりますから。悩んだり、苦しんだりするときは誰でもありますよ。そういうときは思いっきり悩んで、そのあとはケロッと生きるんだ!

『僕の中に咲く花火』
8月30日(土)公開

(C)ファイアワークスLLP

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。