LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

自分も一緒に旅している気分になれること請け合い!『グランドツアー』

月2回連載

第173回

撮影:源賀津己

監督自身がグランドツアーしてロケハン~撮影した気持ちをシェアしましょう!

一気に秋の雰囲気……とは言い難い残暑。いつまで続くの、コノ湿気! 私の髪が言うこと聞かないから、早く秋らしい秋来て! そして秋といえば文化の秋ですもの。カラッと爽やかに映画館に足を運んでほしいのです。ということで、今回は2本紹介します。

まずは文化の秋にぴったりな『グランドツアー』。ポルトガルのミゲル・ゴメス監督の新作です。

1918年のビルマ(現・ミャンマー)ラングーン。大英帝国の公務員として働くエドワードは、ロンドンから婚約者モリーを招いて結婚をする……はずでした。がしかし、彼は結婚にまだまだ迷いがあって、モリーが乗った船を待っている間も逃げたくてウズウズ。彼女の到着直前に目にしたシンガポール行きの船に飛び乗ってしまいます。逃げるエドワード、追いかけるモリーは、ぐるっとアジアの長旅をする羽目に……。

『グランドツアー』

グランドツアーというタイトルは、この作品が描いている時代に欧米人の間で流行したアジア旅行のことを指すそうです。イギリス領インドから北上して日本などの極東をめぐる、という旅。なので、この作品には一部日本の描写もあります。

が! ちょっとご注意。このストーリーを読んで「ふむふむ、追っかけっこなのね」と思って劇場に行くとびっくりしちゃうかも。というのも、出てくる映像は時代を超越しちゃってるんですよ。ネタバレになるのでどこで現代が出てくるのかは伏せておきますが、巡る国々はミャンマー、シンガポールをはじめ、タイ、ベトナム、フィリピン、日本、中国の7カ国。しかも全部ロケ! 

『グランドツアー』

流麗なカメラワークとその国々独自の文化を映し出していて、ストーリーが吹っ飛んで「えっと……今何を観ているんだろう」ってことになる人もいるかと(映画通の方なら、「あぁ、ミゲル・ゴメス監督だものね」となるでしょうけど)。なんせこの作品、昨年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されて、見事監督賞を受賞したアートな作品。

『グランドツアー』

私は子どもの頃に「カンヌで賞を獲る作品はもっと映画を見る目がないとダメなのかな」と思っていたんですが、そのときの気持ちを思い出してしまいました。が、現代のパートと物語のパートを直感的に受け止めたら、自分も一緒に旅している気分になれること請け合い。監督自身がグランドツアーしてロケハン~撮影した気持ちをシェアしましょう。

『グランドツアー』
10月10日(金)公開

(C)2024 - Uma Pedra No Sapato - Vivo film - Shellac Sud - Cinema Defacto

いま自分が置かれたパートナーとの関係によって感じ方が違う1本

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

さて、もうひとつは分かりやすいハリウッド……いえ、イギリスのブラックコメディ『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』です。ウォーレン・アドラーの原作小説を映画化した1989年の『ローズ家の戦争』のリメイク……ではなく、原作から再構築した新作です。

ロンドンで活躍する建築家テオは、仕事の打ち上げで訪れたレストランで出会った調理人アイヴィと恋に落ち結婚。彼らはアメリカ西海岸北部に移り住み、幸せに暮らしていました。テオがアメリカで名を挙げる大仕事に取り組むなか、アイヴィは子育て。そんなアイヴィを気遣い、テオは彼女がやりたかった小さなレストラン物件をプレゼントします。

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

と、ここまでは順風満帆。ところが、テオの大仕事は大失敗に変わり、閑古鳥が鳴いていたアイヴィのレストランはグルメ批評家の絶賛をきっかけに大繁盛。立場が逆転して、アイヴィは主婦から経営者に、テオは建築家から主夫になってしまいます。それでもうまくやっていこうとしていたふたりでしたが、じわじわと彼らの不満は蓄積し、次第に競争心をむき出しに。一歩も引くことがない彼らは、離婚どころか命がけの戦争へ……。

離婚を巡っての大戦争というプロットは89年版と同じですが、本作はもっとシニカルでブラック。89年版を知らない人ほど観てもらいたい傑作!

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

なにせベネディクト・カンバーバッチとオリヴィア・コールマンというオスカー級の名優ふたり! そんな彼らがまさかのドタバタコメディですよ。設定もキャスティングもありえない、と思いながらも、これ、かなりリアルです。女性が成功すると、男性は嫉妬する、っていう構図。今でもあると思うんです。

でも、成功する女性は、男性が知らないうちに何かを犠牲にして成功を手にしてるんですよ。そこがキチンと描かれていて共感しちゃいました。観た人の感想で「子どもが親を見る視点がドライ」っていう人いるんですけど、あんなもんだと思いますよ(笑)。

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

とはいえ、これはいま自分が置かれたパートナーとの関係によって感じ方が違う1本。幸せなおふたりなら笑えて、ギクシャクしてるふたりなら……(笑)。でもパートナーを大切にしたくなる作品です。それに、衝撃的なエンディングで「ファッ!?」っとなるはず。私もいろいろな映画を観て来ましたが、こういうラストは観たことがない!

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』
10月24日(金)公開

(C)2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。