LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

着ぐるみのチンパンジーの安っぽさがかえってコワさに転じている好例『おさるのベン』

月2回連載

第181回

撮影:源賀津己

応援上映とか好きな方なら、絶対にハマっていただけると思います

2月は埋もれさせられない映画の豊作。だから、みなさん映画館に行きましょう。こういう作品が豊作のときほど、それらはあっという間に映画館から消えちゃう可能性大! ということで、まずは『おさるのベン』。タイトルからするとファミリー向け作品のようですが、違います。ちゃんと怖いホラーです。

大学生のルーシーは友人たちと一緒にハワイの実家に帰ります。森の高級別荘地にある彼女の実家には、妹と聴覚に障がいを持つ作家の父、それに幼い頃から一緒に暮らしてきたチンパンジーのベンがおり、彼女はベンとの再会で大喜び。ベンは言語学者だった亡き母が研究のために連れてきて、一緒に育てていた思い出のペットです。

『おさるのベン』

ルーシーにとってはたまの帰省だもの。プールで遊び、パーティで騒ぎ、という休暇を満喫。ベンとも楽しく……と思っていたところ、普段は賢くて可愛いベンの様子が何か違う。これはいったい……? という、なんと上映時間が90分を切っているホラー。この手のホラーではお約束になっている「水着の美女とアホな男が出てくると殺人鬼が襲いかかる!」というのがそのまま展開される、いわばド典型のスラッシャー映画でもあります。

『おさるのベン』

これね、配給会社にも確認したうえで言います。チンパンジー、人間です(笑)。着ぐるみなのよ! もー、これには驚かされたのと、笑えるの。しかもさほど可愛くもないというのがポイント。美女~バカ男~殺人鬼ってのも、まるでドリフのコントで「志村うしろ!」っていう分かりやすさだし、おまけに着ぐるみのチンパンジーの安っぽさで、怖くないと思うでしょ? ちゃんと怖いところは怖いんですよ。

『おさるのベン』

やろうと思えばチンパンジーをフルCGでキャラクター化することなんて今やたやすいことだけど、あえて着ぐるみのスーツアクターが演じることで、安っぽさがかえってコワさに転じている好例。実はそれほど期待もせずに観に行って、ドハマリしてしまいました。これは映画をイベントとして楽しめる方々……そうね、応援上映とか好きな方なら、絶対にハマっていただけると思います。応援上映……やってくれないかな?(笑)

『おさるのベン』
上映中

父娘関係がうまくいっていないなーと感じている人は絶対に観るべきです

撮影:源賀津己

さてもうひとつは、昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、3月に行われる米アカデミー賞で作品賞をはじめ8部門9ノミネートされている、ノルウェー・オスロを舞台にした『センチメンタル・バリュー』です。

オスロで俳優をしているノーラと家族と平穏に暮らす彼女の妹アグネスは、幼い頃に父との別離を経験しています。その父、映画監督のグスタヴが突然帰郷し、彼女らの前に。家族を捨てて音信不通だったグスタヴは、15年ぶりの新作を撮ろうとしていて、ノーラにその映画への出演を打診します。

『センチメンタル・バリュー』

当然のことながらノーラは断固として拒否し、厚顔無恥な父に対して呆然&激怒。一方、新作を諦めないグスタヴは、ノーラが断った役をハリウッドの人気若手俳優レイチェルに決めて、撮影の準備を着々と進めます。その撮影現場は、ノーラが家族で暮らしていた実家。それを知ったノーラには複雑な感情が芽生え……。

『センチメンタル・バリュー』

グスタヴは過去の栄光と娘ノーラのキャリアを頼りに、ノーラはグスタヴに捨てられたトラウマを、それぞれにすれ違う心の動きをとらえた傑作です。監督のヨアキム・トリアーが前作『わたしは最悪。』で主演に起用したレナーテ・レインスヴェが再び主演を務めている本作。彼女の芝居はすごくて、確実に引き込まれるんですが……やはり注目は父親役のステラン・スカルスガルド! もはや私の国の国宝ですが、もっと皆さんに知ってもらいたい~! 

『センチメンタル・バリュー』

彼、オスカーの助演男優賞に初ノミネートされているんですが、外国語映画での助演男優賞候補入りは史上初の大快挙。しかもですね、この父娘関係がすごく私に似ていて、ひとごととは思えなかったんですよね。いや、うちの場合は、大人になってから父と仲良くなりましたけど、どこの父娘も似たようなことが起きてるのね……と感じましたし、仲良くなりたいはずの父子はたくさんいるんだとあらためて感じました。

父親と話をしにくいなー、と感じている方、または子どもとうまくいっていないなーと感じているお父さん。この映画は絶対に観るべきです。

『センチメンタル・バリュー』
上映中

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が講談社より発売中。