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大槻ケンヂ「今のことしか書かないで」

できるまでずっと

隔週連載

第17回

illustration:せきやよい

40代から弾き語りを始めて最近はさまざまなミュージシャンとツーマンライブをやっている。先日は茂原でROLLYさんと共演した。

茂原駅にはロッテリアしか食べるところがなかった。でもそのロッテリアではなんとラーメンを出していたのだ。嘘じゃない! 本当だって。僕はそのラーメンを食べた。何味だったっけかな? きっと今後、全国のロッテリアでラーメンをメニューに入れる計画があるのだろう。それで実験的に茂原でまずはこっそり出していたのではないか……。

そう思いひとり納得した。ライブのMCでそのことを話したら誰も信じてくれなかった「嘘じゃない! 本当だって」お客さんからは「えー??」と言う反応しか返ってこなかった。

「大槻さん、それはロッテリアとラーメン屋さんがふたつ並んだフードコートだったのじゃないですか?」と後でエゴサしたらそういったことを書いているポストがあった。

「うーん、あ、そうかも。そうだね、ですよね」迂闊に「茂原秘密実験・ロッテリア・ラーメン屋化計画」とでも呼ぶべき都市伝説のようなものをステージ上で発信してしまったかな。

数日後は吉祥寺で原マスミさんと弾き語りのツーマンライブがあった。

会場へ向かう中央線の中でXを開くと"KISSの3Dアバター化"のニュースが目に飛び込んできた。

白塗りメイクで有名なロックバンドのKISSが今後、リアルの世界ではライブを引退し、代わりに、デジタルアバターのロックバンドとしてライブ活動を行っていくというのだ。

「ネタかな?」とも思った。でもアバター映像をジョージ・ルーカスのILMが制作したというから何やら本格的なのだ。

メンバーが体にモーションキャプチャーをつけて撮影する様子や、出来上がったアバターも公式の動画に上がっている。よくできていた。

リアルからデジタルへの変身とはさすが驚かせバンドKISSらしい実験的な試み……と感心するより前に僕は「それって『根本凪』だよなぁ」とまず思ったものだ。「根本凪」とは元でんぱ組.incと元虹のコンキスタドールに在籍していたアイドルの根本凪さんのことだ。彼女はでんぱ、虹コン卒業後の2022年突如Vチューバに転身しアバターでの活動を始めて多くの人々を驚嘆させた。リアルからデジタルへの活動の移行ということで言えばKISSより根本さんの方が先輩だということだ。なのでKISSは根本パイセンに敬意を払って今後は自分たちを「虹のコンKISSタドール」と呼ぶように。呼ばないだろうが。ただただこのダジャレを書きたかっただけだ(根本さんはその後リアルでもメディアに登場。リアルとアバターの二刀流となっている)。

……ロックバンドの解散とプロレスラーの引退だけは信用してはいけないと昔から思っている。きっと数年後にはKISSはちゃっかりアバターKISS &復活リアルKISSのツーマン(と言うのかな?)ライブを行うであろうと僕は予想する。

いやでも、高齢化がどんどん進んでいるロック界において、バンドの存在をデジタルに託すと言う発想には「その手があったか」と膝を打った。

「ロックバンド高齢化問題」は深刻だ。

最近毎日のようにまだ若いミュージシャンが天に召されている。当然いろんなバンドの活動も存続自体が難しくなっていく。「ロックなんてその時限りのものだろ?時代が過ぎたら風に吹かれて忘れ去られればそれでいいんだぜ」という考え方もあるだろうが、どうも実際にはそうはいかないのだ。

なぜならロッカーも人間であり、人間は自分たちの作り上げてきたものを次世代に残したいと願う生き物だからだ。人間と人間とのつながりであるロックバンドならばそれはなおのことだ。たいがいのロックバンドはロックバンドを次世代に残したいと意識無意識どちらにせよ願っている。

ロックバンドを次世代に残す……とは具体的にどういう意味か?

ロックバンドとはひとつのブランドである。バンド名、楽曲、メンバー、この3つで構成されている。

3つの内でどれを残すことがバンドにとって最も重要なのかと言えば、それはまずバンド名なのであると僕は思う。

バンド名さえあればぶっちゃけ「…そんな人いたっけ?」と言うメンバーで構成されていても、彼らがそのバンド名の人気曲を演奏すれば「あ、まぁ…じゃぁ、それでいいのかもな」となんとなく納得させられてしまうという光景を僕もリアルで何度も目撃してきた。特にメタル、プログレ系では何度となくそれはあった。

まずはバンド名が最優先なのだ。そしてメンバーは知らない人でもいいということであれば、2番目に重要なのは楽曲だということになるだろう。

となれば、結果的に最下位となってしまうメンバー・人間について「でもあの人の代わりはいないでしょう!?」といったスター、カリスマの場合はどうなのか? とも思うが、これもリアルな現実として、代わりは案外に出てくる。そして別物とは言え意外にうまいことやってのける。

例えば「ジョン・ボーナムの代わりなんてありえない!」と誰もが思ったレッド・ツエッペリンのドラムを、ジョンの息子のジェイソン・ボーナムが叩いてヤンヤの喝采を受浴びたのは有名なところだ。

僕はこれを”ロック2代目世襲制”の成功例と呼んでいる。

“世襲制”は他のメンバーとしてもリスナーにしてもバンド存続の落としどころとして相性が良いように感じる。息子ならしょうがない、子供ならそれは継ぐだろう、という血縁重視の納め方だ。”ロック犬神家の一族”みたいな。今後、子供たちや若い親戚が引き継いでその後も長く続いていくロックバンドがいくつか現れるかもしれない。

では"世襲制"に対して、"襲名制"はどうか?

「ぜひアナタの2代目をやりたい」という若者を募って、年齢や病気その他の理由でバンドを退くことになったメンバーが、後任の、次世代の自分の役どころを演じる2代目を選出すると言うバンド・サバイブの1方法だ。

僕はてっきりKISSこそがこの襲名制を近い将来最初に取り入れるだろうと予想していた。

世界中から希望者を募って、大オーディション番組を作り、2代目KISSのメンバーたちを選抜するのだ。それはバズるだろうし、KISSならやりそうだ。ジーン・シモンズがJ・Y・Parkのポジションだ。ドハマりだ。絵が浮かぶ。

そして背格好の似た若者を4人選んでメイクを施してしまえばもう誰が誰だかわからない。
こうして2代目KISSが爆誕、バンドは次世代に受け継がれ……と思っていた。それがよもやのデジタルアバター化とは、変な言い方になるけれど、なんだか出し抜かれたような気分だ。

「……デジタル化ねぇ。バンド全員世襲は難しいし、やっぱり、襲名性ではリスナーが受け入れがたいと思ったのかもなぁ」

ラーメンをすすりながら言うと2代目大槻ケンヂ候補の若者が「どうですかね」と対面で笑った。

「どうですかね。『今のメンバーしか認めない、アナタのの代わりなんていない』とリスナーは言いますよね」

「うん、言うね、ありがたい言葉だよ。でもロックバンドは次世代にも自分らの作ったブランドを残したいと願うものだからね。そのためには、反対意見があっても生きているうちにいろいろ保険をかけとかないとね。10年20年先を見越してね。永遠に生きる人間なんていないからね」

「ですよね。つまり大槻さん、ロックバンドの願う『バンドを残したい』って言葉は、今現在のリスナーに対してではなくて、その次の世代、そのまた次の新しい世代のリスナーたちのために言っている、ということですかね?」

「え? あぁ、うーん…で、どうなの君? 本当に2代目大槻ケンヂをやる気はあるの?こんな遠くまで来てくれたってのは本気ってことかな。ごめんねラーメンしか奢れなくて。こっそり話せる場所とタイミングを探したら今日はここしかなくてねぇ。今度会う時は叙々苑とか奢るよ」

「いえ、おいしいですよラーメン。あ、で奢っていただいてアレですが、考えたんですが、やっぱ断ります。そのお話。2代目……2代目大槻ケンヂ襲名の話」

「え……あ、そうなの?」

「断ります。一カ月前の秘密オーディション合格からちょっとお待たせしてしまったんで申し訳なくて今日はここまで来ました。でも2代目のお話、ありがたいですが、キッパリ、お断りします」

「えぇ、な、なんで? なんでなのかな?」

「俺、筋肉少女帯が好きだし、まずアナタのファンだったんで、2代目大槻ケンヂ、やってみようかなと1度は思いましたけど、あの……俺は俺のオリジナルの表現で戦ってみたいんです。2代目や他のそういった人を見下げる気は全然ないです。ただ俺はタイプが違うというか……俺は俺として誰の2代目でもなく最初からの俺で未来を切り開いていきたいと思ったんです。」

「あぁ、そうなんだぁ」

「だって、だってアナタがそうだったわけでしょ?」

「ん?」

「アナタがそうだった。アナタは、誰の芸やキャラクターを引き継ぐわけでもなく、まっサラなゼロの状態からその後の大槻ケンヂを作り上げていった。そうでしょ?それなら、そのことを継ぐ行動こそが、ゼロから自分を作りあげていくことこそが、実質アナタの2代目になることなんだと思い直したんですよ。1度はオーディションまで受けておいてすいません。でもお断りします。俺は俺でやっていきます」

「……あの、ま、確かに『大槻ケンヂ』はそんな君みたいちゃんとしたことを言う人間では無いからな……確かに、タイプが違うよなぁ。立派だね、皮肉じゃないよ、立派だよ。なんというか見習いました」

「恐縮です」

「いやー……でもあれだぜ、橋幸夫だって2代目オーディションやって今2代目橋幸夫が4人いるんだぜ」

「それ、ひとり抜けて今3人です」

「え、そうなんだ! 知らなかった。あー、まぁ、橋幸夫さんはいいけどさ、そうか、だめか、2代目オーケン襲名……」

「あの」

「何?」

「いえ」

「何よ?」

「大槻さん……大丈夫ですよ。あなたはまだまだやれます。2代目なんてまだまだ考えなくていいんです。弱気さを見せないで。ファイト!」

「…あ、励まされた」

「どうせ2代目を見つけるなら、いっそ金髪姫カットの美少女とかにしてみんなを驚かせてさいよ。メイドちゃんみたいなさぁ。あはははは、あはははは」

「……それ……」

「じゃあ俺もう失礼します。ありがとうございました。ラーメンごちそうさまでした。ライブ頑張ってくださいね。今日も、次も、その次も、ずっと、あなたが、できるまでずっと」

ペコリと頭を下げて若者は去っていった。それっきり彼の消息はわからない。連絡も取れない。都市伝説のような話だ。今年はミュージシャンがたくさん天国へ召された。僕はまだ生きている。生きていて、そう、今日もライブだ。

※この連載はエッセイと小説の入り混じったものであり、場合によってはほとんど作者の妄想です

プロフィール

大槻ケンヂ(おおつき けんぢ)
1966年2月6日生まれ。1982年、ロックバンド「筋肉少年少女隊」結成。その後「筋肉少女帯」に改名。インディーズで活動した後、1988年6月21日「筋肉少女帯」でメジャーデビュー。バンド活動と共に、エッセイ、小説、作詞、テレビ、ラジオ、映画等多方面で活躍中。「特撮」、「大槻ケンヂと絶望少女達」、「オケミス」他、多数のユニットや引き語りでもLIVE活動を行っている。

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