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大槻ケンヂ「今のことしか書かないで」

彼女の登場

ぴあ

隔週連載

第23回

illustration:せきやよい

「推しの子分〜転生したら氣志團だった件〜」とタイトルのついた氣志團のツアーファイナルを観てきた。

驚いた。氣志團のファンが事故で死んで、生まれ変わって氣志團のメンバーのひとりとなってライブに参加する、という、音楽劇仕立てのコンサート演出になっていたからだ。

「え!? へ〜、こういうことをしているんだ」と思わず観ながら声が出てしまった。

氣志團と筋肉少女帯とはフェス・氣志團万博などで数回一緒にやっているし、彼らのツーマンライブも、神聖かまってちゃんとゴールデンボンバーとの時に観に行っている。けれどフェスでは彼らを観る余裕がなかったし、かまってちゃんとの時は、持ち時間終了になってもパソコン抱えて舞台を去らないの子君が、伐採された木のようにスタッフに横抱きにされて連れ戻された光景があまりにインパクトあり過ぎて、申し訳ないが氣志團ライブを覚えていない。

その後に行われたゴールデンボンバーとの時のは、早速の子君をオマージュした綾小路翔やんが、パソコン抱えて「俺はツイキャスをやるんだ〜!」と叫んで舞台から去らず、スタッフに三段逆スライド方式の魚のように横抱きにされて連れ戻された光景のみが印象に残っている。「天才だな〜」と感心しました。

だから今回ワンマンを観て、『こういうドラマ仕立ても有りか』と知ってビックリしたのだ。

転生したメンバーが3人に増殖したり、さまざま展開があった上でライブはダイ・ハードばりに伏線を回収して大団円を迎える。もちろんその中で楽曲もたっぷり演奏。小沢健二さんの「強い気持ち・強い愛」のカバーなども聴かせてくれた。素敵なコンサートであった。

場内の興奮に包まれながら僕は『ああ、こういうの、一度やってみたいな』と思ったものだ。すぐ影響を受けてしまう。

『こういうの』とは、演劇的というかドラマ的というか、曲演奏以外に寸劇などが差し込まれる、そんなライブを筋肉少女帯でもやってみたい、ということだ。

どんなのがいいだろう? 筋少に役者はいないし、何より僕が過去にVシネで忍者役までやりながら自他共に認める芝居下手なのだから、あまり手の込んだものはダメだろう。

かなりユルく、設定だけ決めて、そこにゲストさんなりが登場しての、演劇でたまにある遊びのコーナーみたいなコーナーにしたら、あるいはできるのかもしれない。たとえば「筋肉少女帯二代目ボーカリスト選抜大会」たとえばそんなものを曲間に始めたならバカバカしくてよいのではないだろうか。

「オーケンがもう体力なくてバンドきついっていうので、あとアラ還になってまだ『あったかもしれない別の人生と出会いたい』とか言ってるので、もう新たに二代目ボーカリストを今夜決定して引き継いでもらっちゃいまーす! 司会はオーケン、審査員は筋肉少女帯の橘高、本城、内田とサポートメンバーのエディーとコージー。じゃあ、まず最初の方どーぞー!」

と言って舞台そでからエントリーナンバー1番の小沢健二さんがさわやかに登場。すかさず全員に「そりゃオーケンじゃなくてオザケンだよっ」とつっ込まれて枯れ木のようにスタッフ役のスチャダラパーに横抱きにされてオザケンさん退場。と、いうのをやりたいのだけど、やってくれないだろうなぁオザケンさん(スチャさんもやらないよ)。

ちなみに僕の密かな夢は、フジロックやロッキンジャパンなどの夏フェスで登場したスチャダラパーが「今日は特別ゲストがあります!」と叫んで「今夜はブギーバック」が流れ出して客席がどよめきに包まれたところで満を持して大槻ケンヂが登場して「♪ダンスフロア〜に」と唄い出して2万人3万人に「オ、オザケンじゃなくてオーケンかいっ」オイオイとつっ込んでもらうことなんだけれど……マジでこの出落ち一度でいいからやりたいんだけれど……あきらめますすいませんすいません。

「は〜いエントリーナンバー1番の方ありがとうございましたぁ。いや〜強い愛がありましたねぇ! じゃ、続いてエントリーナンバー2番の方です。はりきってどうぞーっ」

「わはははははははっ!! お前を初代にしてやろうかあっ!」

2番はデーモン閣下である。やってくれるわけがない。オファーの段階で「オーケン、お前ちょっとなぁ」と言って二時間くらい説教されるであろう。あのやさしい悪魔のデーモンさんに何てことを。ごめんネ。

「素顔で登場して下さいましたねぇ〜、じゃ、続いてエントリーナンバー3番はこの方、ヘヴィメタルバンド・LOUDNESSの二井原実さんでーすっ」

「イエーッ!!って……これワンチャンホンマにあるかも思われるかもしれんやないかい。アカンで橘高君、言うといてやぁ、まずなんで先輩が二代目やるの、あかんやろホンマに」

す、すいません二井原さん。二井原さんは僕がエレキギターを買った時「まず『スモーク・オン・ザ・ウォーター』を弾いてみたい」と言ったら世界的メタル・ボーカリストなのにわざわざ僕のイベントに来てくださって歌ってくださった本当に気さくでやさしい方。その勢いでおふざけコーナーにも実際に出てくれそうで心配です。二井原さん、出ちゃダメですよ。

「ドンドン行きましょ〜。次はダイアモンド☆ユカイさん!」

「ロックンロール!日本を印度に〜!! ……あ、オレこの後知らねぇや」

本当に言いそう。ごめんなさいユカイさん。いつ会っても「お、OK。いいよ」と言ってくださる親切な方に無茶ぶりをしちゃいけません。だから先輩だっての。

「じゃあ次は思いっきり若い方に出てもらいましょう! この方です。それ! 飛び出せ! Vaundy君!!」

かろうじて聞いたことあるヤングの名前出すんじゃないよ! 見たこともないだろお前。

「続いて藤井風さーん!」

縁もゆかりもねえし!

「漫才コンビ『馬鹿よ貴方は』のファラオさーん!」

他業種だよ! てか、どこから出たそのお名前!?

「大谷翔……」

やめろーっ!

「……の奥さーん」

180センチくらいあるとても綺麗な方なんだってね、おめでとうございます。お祝い言うとこじゃねぇぞ。

「じゃ、次は、おや、これは驚いた。次の方は……女性ですねぇ。女の子だ、では、登場していただきましょう」

ステージのそでからひとりの少女が歩いてくる。姫カット、パッツンの金髪、ゴスロリ、ニーソックス、ロッキン・ホース・バレリーナ。マイクを握り、彼女が名乗った。

「町子……七曲町子です」

未完

※この連載はエッセイと小説の入り混じったものであり、場合によってはほとんど作者の妄想です

※次回の公開は4月10日(水)予定です

プロフィール

大槻ケンヂ(おおつき けんぢ)
1966年2月6日生まれ。1982年、ロックバンド「筋肉少年少女隊」結成。その後「筋肉少女帯」に改名。インディーズで活動した後、1988年6月21日「筋肉少女帯」でメジャーデビュー。バンド活動と共に、エッセイ、小説、作詞、テレビ、ラジオ、映画等多方面で活躍中。「特撮」、「大槻ケンヂと絶望少女達」、「オケミス」他、多数のユニットや引き語りでもLIVE活動を行っている。

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