子供の頃の日常のワンシーンで、いつまでも忘れられないものってありませんか? 稲葉さんが、あの瞬間の空気、匂い、小さかった友くんの感情を、思い出し語ってみました。
特別なイベントでもなく旅先で珍しい体験をしたワケでもない。それでもなぜか「妙に記憶に残っている瞬間」というものがある。第158回に書いた布団を畳みながらの話もそうだ。常にそれを覚えているというよりも、ふと頭に浮かんできて「こんなシーンがあったな」という思い出。それは何で忘れていないのかすら分からないようなものが多い。そういう瞬間が、30年近く生きてきた中でいくつもあるなと。
例えば小学4年生の時、クラス全体が怒られていたシーンを覚えている。特に覚えているのは先生がゆっくり静かにしゃべっているところからパチンと大きな声を出してキレた瞬間。みんなが驚いたところでまた落ち着いたトーンでしゃべり始めた。普段は気さくで楽しい先生が怒ったというフレッシュさも相まってなのか印象に残っていて、たまに人が怒っているのを見ると思い出す。
カルチャーショック的なものも何故だか覚えている。高校生の頃、ひと回り以上離れた家庭を持っていた東京のイトコの兄ちゃんの家によく遊びに行っていた。そこで小さい子と遊んであげつつ僕も家族に混ぜてもらって色んなところへ連れて行ってもらった。その家で夜ご飯にすき焼きが出て鍋の〆にお餅を入れていた。〆といえば米か麺かで生きてきた僕にはなんだかとても新鮮だった。
もうしんなりしていたマックのポテトを揚げ直していたのも衝撃的だったな。人生で揚げ直しマックポテトはその一度しか食べていないのだが人生で一番美味しいマックのポテトだった。「これが1番美味いんだ」とイトコの兄ちゃんも言っていた。ただポテトの揚げ直しを自分でやる機会は今のところない。いつか余分に買っちゃって余らせた時にやりたいとは思うがそんなこともまあない。近しい親戚の家でもいろいろ違うことがあるもんだなとローティーンの僕にとって衝撃だった。
友達の家でご飯を食べる際、幼いながらに目いっぱい気を遣ったという記憶もある。僕は小さい頃、仲良しの友達の家に泊りがけで遊びに行くことが多かった。ある日の泊まった翌朝、出してもらった朝食のおかずに半熟の目玉焼きがあってとても困った。僕は小さい頃、生卵を食べると口の中が痒くなるという軽めの生卵アレルギーを持っていたのだ。自分でそれを認識できるくらいの歳だったので家でもどこでも避けていたのだが、ここは友人の家。友人のお母さんが眠そうな顔しながらも作ってくれた朝食を残すのは悪いし、かといって「すみません。生卵ダメなんで、両面焼きにして完全に火を通してください」と言えるかといえば幼いながらにそれはそれは言い出しにくかった。
勇気を振り絞って生卵アレルギーなのでもう片面焼いてくださいとお願いしたら快く「もちろん、ごめんね」とすぐに焼いてくれた。「あ、言ってよかったんだ」と思いつつ、それでも頼むまでの心苦しさを強烈に覚えている。
どうでもいいけど覚えてる、エピソードトークで話す機会もない、そんな記憶を振り返りながら書いてみると強めの感情が伴っているようにも思えるな。そんな記憶がまだまだあるので次回も引き続き書いてみよう。
次回の更新は2月9日(水)です。お楽しみに!
プロフィール
稲葉友(いなばゆう)
1993年1月12日生まれ、神奈川県出身。
2010年、ドラマ『クローン ベイビー』(TBS)で俳優デビュー後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。
主な出演作に、ドラマ『仮面ライダードライブ』(‘14~’15 EX)、『MARS~ただ、君を愛してる~』(’16 NTV)、『ひぐらしのなく頃に』(’16 BSスカパー!)、『レンタル救世主』(’16 NTV)、『将棋めし』(’17 CX)、映画『ワンダフルワールドエンド』(’15)、『HiGH&LOW』シリーズ、『N.Y.マックスマン』(’18)、『私の人生なのに』(’18)、舞台『すべての四月のために』(’17)、映画『春待つ僕ら』(’19)『この道』(’19)など。
J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金曜11:30~16:00生放送)ではレギュラーパーソナリティ―を務める。
撮影/古川義高、取材/藤坂美樹、構成/中尾巴、ヘアメイク/速水昭仁、スタイリング/添田和宏、衣装協力/ダウンベスト¥39,930/クレセントダウンワークス、グローブ¥14,580/サリバングローブ(ともにセプティズ TEL:03-5481-8651) ニット¥35,200、ニットキャップ¥7,700/ともにジェラード(ジェラード フラッグシップストア TEL:03-3464-0557) パンツ¥16,500/イールプロダクツ(イールプロダクツ中目黒 TEL: 03-6303-0284) その他スタイリスト私物