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稲葉友の「話はかわるけど」

恋い×焦れ×歌え【前編】

毎週連載

第172回

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2022年5月27日から、稲葉さんの初主演長編映画『恋い焦れ歌え』(監督/熊坂出)が公開されます。全身全霊で衝撃的な役に挑んだ稲葉さんの、現在の心境を聞きました。

改めて今、皆さんにお知らせしたい。2022年5月27日から映画『恋い焦れ歌え』という、僕が主演の映画が公開される。公開を間近に控え宣伝活動も始まり作品や役柄について話す機会があるのだが、今回は新しい壁にぶつかっている。あまり難しいとは言いたくないのだが、今回に関しては自分の中で思考をパッケージするのが本当に難しい。

この『恋い焦れ歌え』という作品を改めて言葉で伝えるということに向き合っている。限られた時間の中で質問に答えるにあたり、普段なら伝えたい作品のことやエピソードを頭の中でまとめてインタビューに応えていくのだが、今回は言葉に詰まることが多々ある。こういう質問してもらったのでこう返答すると伝わるかなとかここはたくさん話したい、ここはコンパクトにまとめようとか今まではスムーズに出来ていた。無意識レベルで客観視して対応してきたことが、とても難しくなっているという状態。

何故難しくなってしまったのかを考えた。ずっと現場にいて、作品の世界にずぶずぶ入っていったので、僕自身も作品の内側にいた。どの作品も毎回そうではあるんだけど、今回は内側のさらに中核へ潜り込んでいたという感覚。撮影当時のことを思い返す中で稲葉友個人の思い出よりも役の記憶がフラッシュバックしてしまい話し方が分からなくなってしまう。

作品について言葉を尽くしたいのだけど、その尽くす言葉たちが言っていいものなのかどうなのか瞬間的に分からなくなったりもする。精神的にも肉体的にも崩壊してしまったところから、立ち上がり這い上がり進んでいく物語なので、そんなことを含めて説明したいのだが体験したことを話すのが怖くなってしまう。あくまで役が体験したことであって、実際体験したことではないのだが自分を深く根付かせていたから上手く分けられなくなっているのだと思う。作品の中で問題に向き合って、解消していく過程もあったからそれを含めて思い出せば落ち着いて対応できるのだけども。

インタビューでは順を追って話していく。そうなるとどうしても序盤に僕の役の身も心も崩壊させられるところに触れることになるからそこで一気に苦しい部分を思い出してしまうのだ。よく「役が抜けない」という話も聞くが、そういうことではないとも思う。他人が言う分には「そうなんだ」と思うが僕自身役が抜けなくなることはなくて。常に「終われば終わる」という感覚でいる。だから今回の状態は、自分的にはとても珍しい。

『恋い焦れ歌え』は、何も守らず線もひかずに挑んだ作品でその世界に飛び込むことが必要だった。だから今の振り返って話すことが怖くなり客観視できない状態はその代償なのかもしれない。日常生活に支障をきたしているとかじゃないんだけどね。健康だし元気だし、本当に良い作品に参加出来たっていう思いが強い。でもその作品について語る上で避けられない部分でノッキングを起こしてしまう。役として体験したことだからわかる感覚があるんだけど、人に話すのが苦しいことだったり恥ずかしいことだったり人に知られたくないという思いも同時に思い起こされてしまうからだろう。

演技じゃないかと言われてしまえばそれまでなんだけど、それが割り切れていないから自分としても驚いているわけで。人間、生きていくうえで秘密にしておきたいこと、とてもじゃないけど人に言えないことが誰しもあると思う。インタビューを受けている僕はそんな秘密を仕事で喋らなければいけない気分に瞬間的になる。頭では映画の話、役の話、作品の話と割り切れているのにその時だけ心が乖離してしまう。頭ではしゃべりたいと思っているのだけど、心が止まるというか。スッと出そうとしたものが喉の辺りでグッと止まってしまう。

例えるなら、気管に入ってしまうというか。水飲んでて「ちょっと変なところに入っちゃった」と咳き込むことあると思うが、アレに近いのかもしれない。自分というパイプと役というパイプの2本があるとすると、この役のパイプの中に流れていかなければいけないものが自分の方にも流れてきちゃってむせてしまうというか。だから普段の生活では困らないけど、その話をしようとしたとき急に変なところに入ってうまく伝えられなくなる。

上手く話せないというこの説明が上手くできているのかも正直曖昧で。でも上手く話せる必要もないと思い始めている部分もあって、それこそが現状だから。話せないという話が長くなりましたが次回も映画の話は続く。

次回の更新は4月27日(水)です。お楽しみに!

プロフィール

稲葉友(いなばゆう)

1993年1月12日生まれ、神奈川県出身。
2010年、ドラマ『クローン ベイビー』(TBS)で俳優デビュー後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。
主な出演作に、ドラマ『仮面ライダードライブ』(‘14~’15 EX)、『MARS~ただ、君を愛してる~』(’16 NTV)、『ひぐらしのなく頃に』(’16 BSスカパー!)、『レンタル救世主』(’16 NTV)、『将棋めし』(’17 CX)、映画『ワンダフルワールドエンド』(’15)、『HiGH&LOW』シリーズ、『N.Y.マックスマン』(’18)、『私の人生なのに』(’18)、舞台『すべての四月のために』(’17)、映画『春待つ僕ら』(’19)『この道』(’19)など。
J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金曜11:30~16:00生放送)ではレギュラーパーソナリティ―を務める。

撮影/古川義高、取材/藤坂美樹、構成/中尾巴、ヘアメイク/速水昭仁、スタイリング/添田和宏、衣装協力/カーディガン¥17,600/シャリーフ
パンツ¥6,930/キャスパージョン(ともにシアン PR TEL: 03-6662-5525)
カットソー¥10,450/トロフィークロージング(トロフィージェネラルストア TEL:03-6805-1348)
ボーダーシャツ¥21,780/ジェラード(ジェラード フラッグシップストア TEL:03-3464-0557)
ストライプシャツ¥25,300/キクス ドキュメント
シューズ¥27,500/ヨーク(ともにHEMT PR TEL:03-6721-0882)