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兵庫慎司の『思い出話を始めたらおしまい』

第七話:2024年のフラワーカンパニーズの発表と、2005年のYO-KINGの発表 (前編)

月2回連載

第13回

illustration:ハロルド作石

この連載に関して、最近気づいたことが、ふたつある。

ひとつめは、自分が、失敗した、ということ。何が。連載のタイトルが、である。

「昔話を始めたらおしまい」ではなかった。「思い出話を始めたらおしまい」にするべきだった。だって「昔話」って、「自分の昔の話」というよりも、「桃太郎」とか「花咲かじいさん」とかのような、「まんが日本昔ばなし」的な方向のやつを、指す言葉じゃないですか。

ミスったあ。しまったあ。開始から半年、六話分の前後編=12回連載を書いてから言うのはあまりにも遅すぎるが、これ、今からでもタイトルを変えられないでしょうか、中尾編集長。

ダメか。雑誌ならただ変えればすむけど、ウェブだと、検索にまつわるあれこれやら、過去の記事の修正やら、なんやかんやとややこしそうだから。

ええと、では中尾さん、これ、もし変えられる範疇のものだったら、変えていただけませんでしょうか。無理ならあきらめます。私は、今回のこの回がアップされたのを見て、「ああ、やっぱりダメだったか」もしくは「え、変えられたのか!」と、知ることにします。

そして、最近気づいたこと、ふたつめは、前回のこの連載、『2024年の綾小路翔と、2006年のDJ OZMA』を書いて、気がついたことである。

この連載は、とにかく昔のことを書く、20年前とか30年前とか40年前とかに、自分が観たライブの記憶を文章にする、という趣旨で、始めたつもりだったのだが。

前回のやつは、今の自分が観たライブが「事件」の要素を孕んだものだったがゆえに、過去に観た「事件系」のライブを思い出して、前編で現在のやつ、後編で過去のやつを書く、という内容になった。

今年2024年8月25日の『MONSTER baSH』の2日目の最後の「暴風雨と雷で途中終了、SMA50周年企画のステージに出演するボーカリストたちの中で綾小路翔だけが歌えなかった」という事件の現場を、たまたま自分が観たことで、そのような構成にして書こうと思いつき、書き終わってから、「そうか、こういう書き方もあるのか」ということを、自覚したのだった。

で、自覚した矢先に、またもや「事件系ライブ」に遭遇して、それによって過去の「事件系ライブ」を思い出したもんで、今回もそのような構成で書きたいな、と思ったのでした。

ただし、前回のやつは、現在が綾小路翔で過去がDJ OZMA、つまり同じアーティストの現在のライブと過去のライブだったが、今回は現在と過去で、アーティストが異なります。

2024年9月14日土曜日、京都MUSEにて、CAPITAL RADIO ONE(以下CRO)の25周年イベントが行われた。さまざまなバンドのTシャツや、『京都大作戦』などのフェスやイベントのTシャツのデザインを手掛けているCROは、2008年からほぼ年イチペースで、自身のイベントも行ってきた。が、2017年の開催を最後に止まっていて、今回は7年ぶり。

2本あって、1本目は9月5日(木)KBSホール、10-FEET・ROTTENGRAFFT・四星球が出演。2本目がこの日で、ピーズ、フラワーカンパニーズ、怒髪天、あと「ウェルカム・アクト」として、開場時間中にSKYが出演した。

で、僕はCRO代表梶健治に依頼を受け、オフィシャルのレポを書くため、現場へ行ったのだが。

そのステージで、フラワーカンパニーズが発表したのだ。2025年9月20日土曜日に、日本武道館でワンマンライブを行うことを。10年ぶり、二度目である。

SKYが3曲やって、ピーズが10曲やって、次がフラワーカンパニーズ。「白眼充血絶叫楽団」「NUDE CORE ROCK’N’ ROLL」「右脳と左脳」「ハートのレース」「ロックンロール」「ハイエース」「真冬の盆踊り」という全7曲のセットリストは、鈴木圭介曰く「キャピタルの梶くんにリクエストされたセットリスト、そのままやってます」。

そのうちの6曲まで終わったところではさんだMCで、グレートマエカワ、いくつか告知や宣伝をしてから「もう一個だけ言わしてもらいたいことがあるから。これ、わりとおもしろいニュースなんで」。

で、「みなさんにも広めてほしいから、動画撮ってもいいよ」と告げ、圭介とふたりで、その日本武道館の開催を告げる巨大フラッグの両端を持ち、広げながら発表したのだった。

「2025年9月20日、フラカン、日本武道館やります!」

オーディエンス、驚きのあまり、悲鳴のような大歓声を上げる。オーディエンスだけじゃない、僕もめちゃくちゃ驚いた。10年前の初の日本武道館の時は、やるかやらないか決まる前から、僕のような周辺の関係者も、そういう話があることはきいていた。が、今回はフラカン、この日まで、一切外に情報を漏らさなかったのだ。

「決まっちゃったから、もう。やるしかないからね」と圭介。グレートは、「ごめんね、関西で言うことじゃないんだけどさ、今日、怒髪天とピーズとの現場だったからさ。ここで発表するのがいいなと思って」と言う。

なるほど。あの時期の「ベテランバンドが初の日本武道館ワンマンに挑む」というアクションの中で、フラカンの前にやったのが怒髪天、フラカンの次の次にやったのがピーズだったですもんね(ちなみに次はTHE COLLECTORS)。

グレート、「もちろん対バンのみなさんも知りませんからね」圭介「肉親にも言ってないんだから」グレート「みなさんが一番です! びっくりしたでしょ? この情報、21時に解禁になるから、21時を過ぎたらSNSとかに投稿していいからね」。

で、21時になったら、音楽ナタリーとぴあとSPICEに、ニュースとしてアップされたので、その3つだけには情報を送ってたんですね。と、ぴあ音楽中尾編集長にきいたら、「でもほんとに直前だった、その話が来たの」だそうです。

で、フラカンのステージは、「真冬の盆踊り」で盛り上がって終了。次はトリの怒髪天。この日のサポートベースは、グレートマエカワである。

頭の2曲=「ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イェー!」「ホトトギス」を経ての最初のMCで、増子直純、「今日もライブができるのは、グレートさんのおかげです」と感謝を伝えてから、「なんでここで発表すんだよ!」と抗議。

「びっくりした俺、さっきモニターで観て『えーっ!?』ってなったもん。もう(CROの)25周年、めっちゃ薄くなっちゃったじゃん」

まったくだ。と、僕も思ったし、オーディエンスみんなも、爆笑で増子さんに同感を示す。

しかし、グレート、怒髪天やピーズはともかく、梶さんには許可を取ったのかな、「ここで発表していい?」と。そりゃ取るか。だって「そんな、うちの25周年を超えるインパクトの発表をしないでください」って言われてもおかしくない案件だし。

言わなそうだけど、梶さん。むしろ喜びそうだけど。現に、この日彼は、全アクトの前説を務めたのだが、フラカン終わり・怒髪天前の時、「どこで発表してもよかったと思うんですけど、今日、発表の場に選んでいただいてありがとうございます」と言っていたし。

なお、グレートにさんざんつっこんだ増子さん、「でも梶くん、その武道館のTシャツを作る予約はしてたから」とフォロー。みんな、また笑って拍手、でした。

かようにですね。何かを最初に発表するのはライブの場で、そしてその直後(この時間には確実にライブが終わっている、という21時とか22時とか)に、ウェブで全方位的に情報解禁、というのが、今はどのバンドも、セオリーになっている。

解散とか活動休止とか脱退とかの重たいニュースは、ほとんどの場合は先にウェブで発表するが、次のツアーとか大きなワンマンとか、新しい作品のリリースとかの、うれしい方面のニュースは、だいたいライブが先だ、みんな。

昔、インターネットが普及していなかった頃は、解散とかもライブで発表されることがあったが。たとえば1987年12月24日の、BOØWYの渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)とか。特に情報は漏れていなかったのに、当時のバンドの空気感からか、多くのファンが解散の発表があるのでは、と読んでおり、チケットを取れなかった人たちが詰めかけて、ホールのドアのガラスを割るなど、暴動寸前みたいな状態になった。という話を、当時イベンターだった方から、うかがったことがあります。

あ、でも、ユニコーンは、ラジオで『ユニコーンのオールナイトニッポン』という特番を組んで、その生放送で解散を発表しましたよね(1993年9月21日)。『スプリングマン』のツアーの最終日とかじゃなくて、それが終わってしばらく経ってから、ラジオで特番を組んで発表、というのが、ユニコーンらしい。

その後、ソロデビュー・アルバム『29』の時のインタビューで、奥田民生は「解散コンサートはやりたくなかった。客前で涙でやる曲なんか持ってないじゃん、俺ら」という発言をしていた、と記憶している。自分がしたインタビューではありませんが。当時の上司がしたやつですが。

というわけで。フラワーカンパニーズの、びっくりでめでたいニュースを受けて、「あ、そういえば昔の、あの、びっくりでめでたいニュース……」というやつを、思い出したのだった。

しかもそれ、今回と違って、自分もスタッフ側で、ちょっと関わっていた。たまたまそのタイミングにそこにいたので、ちょっと関わることになっただけだけど。

2005年5月8日、日曜日。当時、YO-KINGが行っていた「TODAY」と、ロッキング・オン社が行っていた「JAPAN CIRCUIT」のコラボイベントという形で開催された「YO-KING PRESENTS TODAY SPECIAL」で、発表された件である。

次回に続く。

プロフィール

兵庫慎司
1968年広島生まれ東京在住、音楽などのフリーライター。この『思い出話を始めたらおしまい』以外の連載=プロレス雑誌KAMIOGEで『プロレスとはまったく関係なくはない話』(月一回)、ウェブサイトDI:GA ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』(月二〜三回)。著書=フラワーカンパニーズの本「消えぞこない」、ユニコーンの本「ユニコーン『服部』ザ・インサイド・ストーリー」(どちらもご本人たちやスタッフ等との共著、どちらもリットーミュージック刊)。