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兵庫慎司の『思い出話を始めたらおしまい』

第十話:2024年10月に日本武道館で観たサンボマスターと、その14年前に小さなライブハウスで観たサンボマスター(前編)

月2回連載

第19回

illustration:ハロルド作石

2024年10月25日金曜日、日本武道館で行われた、「サンボマスター ワンマンツアー2024『ラブ&ピース! マスターピース!』」のファイナル公演。ライブレポの仕事ありで行ったので、その記事にリンクを貼りたいところだが、力いっぱい競合他社のウェブなので、自粛します。

この日はとにかくもう、観ながらしみじみとした。というか、なんとも言えない気分になった。

サンボマスターの3人のパフォーマンスが特別よかったから、というわけではない。サンボのライブは、いつの時代もどの会場でも最高なので、基本的に。サンボは変わらないが、世の中の方が大きく変わったことを、このライブの場が示していたことに、しみじみしたのだった。

まず、このツアー、2024年の2月からこの日までの32本、ライブハウスもホールも大阪城ホールと日本武道館も含めて、全公演のチケットがソールドアウトしている。サンボの24年間の活動史において、あきらかに最大動員数である。

で、その武道館を満員にしたお客さんたち。男女比、見たところ、半々ぐらい。家族連れがいる。カップルがいる。中高生がいる。大学生ぐらいもいる。30代も40代も50代も60代もいるし、多くはないが、たぶんもっと上の世代もいる。

ライブハウスに通い詰めていそうなコアなロックファンもいるし、バンドやっていそうな子もいる。Zeppくらいは行ったことありそうな人もいるし、武道館やアリーナやドームしか行ったことありません、みたいな人もいるし、ライブというものに初めて来たんだろうな、という人もいる。地方から来たと思しき人も、東京圏に住んでいそうな人もいる。

つまり、あたりまえに、みんないたのだ。普通だったのだ。普段の街の光景が、そのまんま武道館にスライドしてきたような、そんな客席だったのだ。

「コアなファン」という特殊な人種だけを大量に集める、だから知らない人は全然知らないけど、実はすごい動員力、みたいなバンドが、ダメなわけではない。むしろ、とてもいいと思う。ファンではない、つまり自分たちの活動には関係ない人たちにまで、顔や名前を知られていることって、いろんなストレスの原因になるし。

ただ、現在のサンボのお客さんは、そうではない。「自分たちの活動には関係ない人」ではない、こうしてチケットを買って集まっているんだから。その人たちの、言わば「普通さ」を見て、ああ、サンボって、本当に世の中に受け入れられたんだなあ、ということが、よくわかった気がしたのだった。

オナニーマシーンのイノマーにフックアップされて、彼らとのスプリット作品がメジャーから出た流れで、自分たちのアルバムも1枚作れることになった。

というわけでデビューして、そしたらわりとすぐドカンと売れて、でもその後いろいろあって、人気や動員が右肩上がりとはいかなくなったりして、レーベル兼事務所との契約が終わった。

で、今の事務所とレコード会社と組んで再出発して、そこから13年。ずっと順風満帆ではなかっただろうし、やはり動員やセールス等が思うようにいかない時期もあっただろうが、その結果として、「今がいちばん動員あります」「今がいちばん幅広い人たちから愛されています」という、現在のこの状況に至っているという事実。

TBS『ラヴィット!』の主題歌として毎朝「ヒューマニティ」が流れていたり (2021年3月〜)、映画『クレヨンしんちゃん』の主題歌を担当したり(Future is Yours/2023年)、Netflixの『トークサバイバー』の主題歌を手掛けたり(稲妻/2024年)等のチャンスはあったし、どの曲もよく知られている。が、大ヒットしたり、鬼バズりしたわけでは、別にない。なのに、こんなに支持が広がっていたのか。

そういえば、普通、サンボマスターくらいのキャリアになると、毎年各地のフェスに出続けているうちに、ある時期を境に、徐々に集客が下がっていくものだ。ワンマンライブではすごい人気のバンドでも、ベテランになると、そうなる。あたりまえだが、自分たちのファン層の年齢と、フェスの客層の年齢がずれていくからだ。

ドームクラスの、つまり「フェスに出ること自体が特別」みたいな人気アーティストは別だが、それ以外のバンドは、ほぼ例外なくそうなる。たとえば「パンクばっかり集まる」みたいに、ジャンルで区切られているやつだとその限りではないが、雑多なジャンルが集まるフェスだと、もうそれは避けようがないというか、しょうがない。だって、生きていれば歳をとるし、活動を続けていればベテランになるんだから。

しかし。なぜか、サンボはそうならない。ROCK IN JAPAN FESTIVALみたいな、ドーム級のバンドもアイドルも出るようなバラエティに富んだ巨大フェスで観ても、大阪のOTODAMAや香川のMonster baSHのような地方のフェスで観ても、いつもすごい動員力で、いつもみんなすごい熱狂ぶりなのだ。

なんでなんだろう。なんでサンボにだけそういうことが起きるんだろう。と、以前から不思議だったが、それに関しても、この日の武道館を観て、「だって、そういうバンドだから。そういう音楽を作っているし、そういうパフォーマンスをやっているから」という、単純、かつ、もっとも強い理由しかないんだな。ということが、この日、わかった気がしたのだった。

そんなサンボマスターのそばに、僕はずっといたわけではない。単行本を作るくらい近しい時期もあったが、自分がフリーのライターになってからは、確かインタビューは一回もしてないんじゃなかったっけ、ライブレポは何度か書いているけど。という程度である。

が、それなりには追って来たので、今回の日本武道館のような、バンドにとって重要な節目であったライブは、だいたい観ていると思う。

たとえば、今回の武道館は二回目だったが、一回目の日本武道館も観ている(2017年12月3日)。初めての日比谷野音ワンマンも観た(2006年6月18日)。3時間半以上も尺があった、1年前の横浜アリーナも観た(2023年11月19日)。

これまでリリースした曲を全部やる、というコンセプトで、3部構成・6時間以上にわたって全部で55曲を演奏した、初の大会場ワンマン、2007年9月1日の両国国技館も観ている。

終演後の楽屋挨拶の時、メンバー3人に「俺はちゃんと全部観たからね! 頭から最後までいたからね!」と言ったのを憶えている。なんでそんなこと言うのよ。あまりにも長い、ということで、途中で帰ったり、途中から来たりする関係者が多くて、客席でそれにムカついていた、でも正直、自分も「いくらなんでも6時間はちょっと。2日に分けるとかしてよ」とは思った、だから「俺は全部観たから!」とアピールしたかったんだと思います。本当に、しなくていい、するべきでないアピールである。

あと、これはスタッフとして、でもあるけど、COUNTDOWN JAPANで初めて年越しアクトの役目を担った、2004年12月31日のGALAXY STAGEも、観ている。

リハーサルから立ち会って、うまくいくかどうかすんごいドキドキして、本番でカウントダウンがきれいに決まったその瞬間、「やった! よかった!」とあたりを見回したら、遠くにいた当時のマネージャーのMさんと目が合って、思わずお互いに駆け寄ってハグし合ったことを憶えている。周囲からすると相当気持ち悪かっただろうな、36歳のおっさんふたり(同い歳なんです)がお互いに駆け寄って、強く抱きしめ合っている光景。

そうだ、もうひとつ思い出した。サンボマスターがGRASS STAGEのトップだったから、その翌年の2005年のROCK IN JAPAN FESTIVALの3日目、8月7日だったと思う。

ベースの近藤洋一(以下コンちゃん)が、この日より前の別のライブで肋骨を骨折し、その状態でステージに上がったのだ。医者からは「極力動かないで弾くように」と釘を刺されていたにもかかわらず、中盤からつい大暴れしてしまった彼は、出番が終わると同時に激痛で立ち上がれなくなり、そのままバックステージに運ばれた。

心配したフェスの総合プロデューサー、渋谷陽一が様子を見に行くと、機材の片付け等があったらしきスタッフたちは「あ、渋谷さん、ちょっと近藤を見ていていただけます?」と、みんな散り散りにどっかに行ってしまった。

芝生に転がっているコンちゃんとふたりきりになった渋谷。「何もここまでやらなくてもさあ」と言ったところ、彼はこう答えたという。

「渋谷さん、年に一回じゃないですか」

という話を鮮明に憶えているのは、フェスが終わったあとの社内の全体会議で、渋谷陽一がこの話をしたからです。出演者はそこまでの思いでステージに上がっているんだから、我々もそういう覚悟を持ってフェスを作らなきゃいけないんだ、という内容だったと思う。

ちなみに、そのあとコンちゃんが医務室に行く時は、僕が付き添いました。「とにかく動かないように安静にして2週間。それができない場合は、一生治りません!」と、医者にめちゃめちゃ怒られていた。

という、数々の歴史的なライブの中で、今回の武道館みたいに、特に記憶に残っているやつ、強く心を揺さぶられたやつ、どれかな。

と、考えてみたら、「どれでもない」という結論が出た。もちろんどれも良くなかったわけではない。もっと強烈に記憶に残っているライブが、あったからだ。

しかもそれ、今回の武道館と同じように、バンドのパフォーマンス以上に、集まったオーディエンスが強烈だったので、憶えているのだった。

日にちとかはきれいに忘れていたが、検索してみたら、当時、自分がロッキング・オン社のウェブサイトで持たされていたブログを、その日の開演前と終演後にアップしたのが、残っていました。

2010年7月20日、中野MOONSTEP。「きみのためにつよくなりたいツアー」が終了した3日後に行われた番外編、ファンクラブ会員限定ライブである。

次回に続く。

プロフィール

兵庫慎司
1968年広島生まれ東京在住、音楽などのフリーライター。この『思い出話を始めたらおしまい』以外の連載=プロレス雑誌KAMIOGEで『プロレスとはまったく関係なくはない話』(月一回)、ウェブサイトDI:GA ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』(月二〜三回)。著書=フラワーカンパニーズの本「消えぞこない」、ユニコーンの本「ユニコーン『服部』ザ・インサイド・ストーリー」(どちらもご本人たちやスタッフ等との共著、どちらもリットーミュージック刊)。