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兵庫慎司の『思い出話を始めたらおしまい』

第十四話:2025年と2001年、ふたつの時代のRIP SLYME(前編)

月2回連載

第27回

2025年5月5日(月・祝)、4日間開催の最終日である、JAPAN JAM @ 千葉市蘇我スポーツ公園に、RIP SLYMEを観に行った。その日の他のラインナップ=Hump BackもSHISHAMOもTHE YELLOW MONKEYも観たかったし、もちろん観たが、行こう! と決めたのは、RIP SLYMEが理由である。

そもそも2月19日に、このフェスへのRIP SLYMEの出演がアナウンスされた段階で、「これは!」と思った。

2017年4月、SUさんがあの一件でお休みになり、すでにブッキングされていたフェス等には、サポートでWISEが入って出演したが(僕も8月のROCK IN JAPAN FESTIVALで観た)、2018年10月に活動休止。2021年11月、PESが、自分は2017年9月に脱退したことを発表する。

2021年11月に新曲「Human Nature」をリリースして以降、ILMARI・RYO-Z・FUMIYAの3人で活動を再開、新曲をリリースしつつ、サポートにWISEとおかもとえみを加えて、ライブも始めた(僕は2022年6月の『YATSUI FESTIVAL!』で観た)。

その後の、PESと現RIP SLYMEの間のあれこれを鑑みるに、再集結することはないだろうな……と、半ばあきらめていたが、2024年に入ってから、ILMARIとPESがインスタグラムで、会ってコミュニケーションを取っていることを、明らかにし始める。

「え? 何、じゃあもしかして……ってこと?」と思っていたら、さっき書いたとおり、2025年2月19日に、JAPAN JAMへの出演が発表された。

その段階では、3人のRIP SLYMEのままだったが、これ、5人で出るってことじゃないの? 追って発表されるんじゃないの? と、とにかくその日のスケジュールは空けておいたら、4月4日に発表があったのだ。

メジャーデビュー25周年の記念日である2026年3月22日までの約1年間、PESとSUが戻って5人で活動すること、それが終わったら活動休止に入ることが。

やはり! やった! 「それが終わったら活動休止に入る」というのが、気にはなるが、とにかく、『METROCK』『GREENROOM FESTIVAL』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』などなど、春〜夏〜秋の各地のフェスに、多数出演していく中での一発目が、この5月5日の『JAPAN JAM』になったのだ。

SKY STAGEに13:00から出演、40分間のパフォーマンス。翌週末以降もフェス出演が目白押しなので、セトリをバラすのは自粛するが……いや、そうだ、ロッキング・オンのフェスって出番が終わるとライブ写真とセットリストがrockin’on.comにアップされていくんだった。じゃあ書いてもいいのか。ええと、でも、知りたくない人は、この先は読まないでください。

5月4日にYouTubeで「Special Movie」が公開された「STEPPER’S DELIGHT(2025ver.)」(1分弱の短いバージョン)で始まり、「Super Shooter」「JOINT」、MCをはさんで4月16日に配信された新曲「どON」、「SLY」「FUNKASTIC」「JUMP」、MCをはさんで「楽園ベイベー」「黄昏サラウンド」、最後のMCをはさんで「熱帯夜」、の10曲だった。

最初のMCでRYO-Z、「この5人でステージに立つの、実に8年ぶりだそうです。SUくんは出番前、ガチガチでした」。SUさん、「(局部が)こんなちっちゃくなってた」と手でそのサイズを示しながら答え、間髪入れずRYO-Zに「うるせえ」と吐き捨てられる。

あっはっは。メンバー一同も「あははは」と笑い合うが、そこでPESが「あははは、笑ってんの僕たちだけ」と言って、思わず我に返りました。笑っちゃってた、俺も。オッサンだからか?

ちなみにPES、その次のMCで、RYO-Zに「Welcome back,PES!」と再加入の挨拶を振られた時は、「RIP SLYMEのライブ、疲れるぜー! こんなだったっけー!?」と叫んだ。RYO-Zはその「疲れるぜー!」と「こんなだったっけー!?」の間に「俺もだぜ!」と、合いの手を入れる。

次の曲は「楽園ベイベー」だったが、PES、イントロに乗ってステップを踏み始めてから、「ノリ方も忘れちゃってる」。

という感じが全体を象徴しているような、8年ぶりの、この5人でのステージだった。

観ていて思わず涙が、みたいな、感動的な空気ではない。復帰前を上回るような、パワーアップした状態で観る者を圧倒するステージだった、わけでもない。

ただし、かと言って、つまらなかったわけでもないし、がっかりしたわけでもないのが、またややこしいのだが。というか、RIP SLYMEらしいところなのだが。RIP SLYMEならではの素敵なところ、とすら、言ってしまっていいかもしれない。

PESだけでなく、みんなが「RIP SLYMEのライブ、こんな感じだったっけ?」「こう動いてこうラップするんだっけ?」「こういう気持ちでやるんだっけ?」と、探りながらステージに立っているように、僕は感じた。あ、RYO-Zだけは、堂々と、以前どおりのスタンスでステージに立っているように思えたが。

で、そんな「探っている感じ」に、ああ、RIP SLYMEらしいなあ、と、つくづく実感したのだった。

基本的に、ダメなライブはやらない。一定以上のクオリティのステージを、必ず見せてくれる。

ただ、そんな中で、ものすごくいい、超ど級のパフォーマンスを食らわせてくれることが、ある。が、それ、本人たちがコントロールできるものではない。もちろん本人たちは、いつだって最上のパフォーマンスをやるつもりでステージに上がっているだろうが、ノリやタイミングや状況や、場の空気や個々のマインドなどなどによって、その「最上」を達成できる時もあれば、そうでない時もある、という話だ。

だから、「8年ぶりのステージなんだから、もっといっぱいリハしてから臨めばよかったのに」とか、そういうような話でもないのだ。しっかり準備さえすればできる、というものではないので。

いや、RIP SLYMEに限らず、そもそも、バンドってそういうもんじゃん。

そのとおりです。そのとおりだけど、4MC+1DJという形態のせいか、この5人だからなのか、他にも理由があるのかわからないが、それが他のバンドよりもより顕著に、よりはっきりと出るのがRIP SLYMEだと、僕は思うのである。

たまに「今日はよかった! いいライブできた!」と、自分で思えることがある。でも、どうやったらもう一回それをできるのかが、わからない。いったい何がよかったのか、自分たちがどうやったからうまくいったのか、それを知りたくて、その日の映像を何度も観たりするんだけど、全然わからないままなんです──。

確か、メジャーデビュー直後の時期にインタビューした時、PESはそんなことを言っていた。その時は「へえ、そういうものなのか」くらいだったが、その後、何年もライブを観続けているうちに、「ああ、なるほど。確かにそうだ」と思えるようになったのだった。

なお、今、RIP SLYMEのことを「バンド」と書いたが、それもPESが言ったことだ。全員インタビューでしゃべってもらっている時に、どういう話の流れだったかは忘れたが、PESが自然に自分たちのことを「バンド」と言ったのだ。

あ、そうか、バンドだっていう意識なんだな、と印象に残ったし、腑に落ちたので、記憶に残っているのだった。ほかのヒップホップ・グループのメンバーからは、出ない発言だと思う。

ただし。そんなふうに、狙って最高点を出すことができないということは、逆に言うと、自分たちの努力や計算や目論見では成し得ない、自分たちが自分たちで把握している自分たちの力を大きく飛び越えてしまうような、とんでもない最高点が出る時がある。この5人が集まって同じステージに上がった時だけ、そんな現象が起きることがある、それがRIP SLYMEだ、という話でもある。

だから、8年ぶりのステージだった今回は、さすがにそうはならなかったが、これ以降、何本かフェス出演を重ねていくうちに、エンジンがかかってくる、という側面もあるんだろうな、という予測もできる。

メジャーデビュー以降、破竹の勢いでブレイクまで駆け上がって行った頃から数年間は、その「とんでもない最高点」が頻繁に出る時期だった、だからあんなに勝ち進んで行けたのかもしれない、とも、今になると思える。

そのメジャーデビュー以降の数年間の時期も、それ以降の時期も、RIP SLYMEがそんな「とんでもない最高点」を出しているライブ、僕は何度も観たことがある。という中でも、最初にそれを味わった時のことを、いちばん鮮明に憶えている。

2001年8月5日日曜日。RIP SLYMEが、ROCK IN JAPAN FESTIVALに初出演した時の、ステージだ。

後編に続く。

【追記】
ここまで書いた時点で(2025年5月6日の昼です)、RIP SLYMEの公式サイトを見たら、10月3日から11月15日に、7カ所・12本のツアー『RIP SLYME TOUR 2025 DANCE FLOOR MASSIVE FINAL』を行うことが、発表されていた。

『DANCE FLOOR MASSIVE』というのは、RIP SLYMEが過去に5回使っている、ツアーのタイトルである。Zeppとかのクラスのライブハウスを回る時に、このタイトルを付けていると思う(今回もそう)。2016年10月に、『DANCE FLOOR MASSIVE V』を行った時に、ライブ会場限定シングルとして、同名の曲も出している。

とても楽しみだけど、「FINAL」が付いているのが、余計だ。ああ余計だ。そのツアーが終わるまでに「1年間限定、撤回。やっぱり続けることにしました」という気持ちに5人がなっていることを望みます。ずっとパーマネントにやれとは言わん、3年に一回とかの活動でいいので。

では、改めて、後編に続く。

プロフィール

兵庫慎司
1968年広島生まれ東京在住、音楽などのフリーライター。この『思い出話を始めたらおしまい』以外の連載=プロレス雑誌KAMIOGEで『プロレスとはまったく関係なくはない話』(季刊)、ウェブサイトDI:GA ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』(月二回)。著書=フラワーカンパニーズの本「消えぞこない」、ユニコーンの本「ユニコーン『服部』ザ・インサイド・ストーリー」(どちらもご本人たちやスタッフ等との共著、どちらもリットーミュージック刊)。
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