兵庫慎司の『思い出話を始めたらおしまい』
第二十四話:2010年夏のMOROHAと2025年暮のアフロ(前編)
月2回連載
第47回
illustration:ハロルド作石
2026年2月15日に放送された、TBSラジオ『川島明のねごと』に、ゲストで、2025年12月のM-1グランプリで準優勝して大ブレイク中の、ドンデコルテが出演していた。
貧困層であることをテーマにして、「国も認める低所得」と宣言するネタで、大ウケした。だから、今みたいに仕事が殺到して、収入が上がって、低所得ではなくなったら、叩かれるんじゃないだろうか、と思っていた。
でも、M-1以来、いっぱい届くようになったDMは、どれも、その逆だった。「銀次、おまえだけでも!」と、押し上げてくれるようなDMばかりだった──。
という話を、渡辺銀次がしていた。
番組アシスタントの天津飯大郎、「そんな、カイジと45組みたいな」。川島明は「みんなが1本の糸を取り合わない『蜘蛛の糸』のカンダタ」。
どちらにも「確かに」と思いつつ、そういえば昔、これに近いケースに出くわして、同じようなことを考えて、書いたことがあるわ、俺。と、思い出した。
誰に対して。MOROHAに対して、である。
2010年の8月のある日。曽我部恵一が「飲みませんか?」と電話をくれた。思わず「え、どうしたの?」とリアクションしてしまったぐらい、その当時においてもめずらしいことだったのだが、それから15年以上が経つ今になると、もっとめずらしく感じる。
そもそも曽我部さん、そのあと、お酒やめたし。確か、この時も、何年かやめていたけど、また飲み始めた頃だったんじゃなかったっけ。で、そのあとまたやめて、そのままずっとやめっぱなしで現在に至る、のだと思います。だいぶ会っていないので、最近はどうなのか知らないが。
というわけで、お互いの日程をすり合わせていて、「この日の21時からなら大丈夫だけど」「あ、その日、それぐらいの時間から、ライブを観に行くんですよ。じゃあそれ一緒に行ってから飲みません?」ということになり、それで観たのが、MOROHAなのだった。
曽我部さんのレーベル、ROSE RECORDSから、ファースト・アルバム『MOROHA』をリリースする2カ月前だったが、彼はそのへんについて、何も言わなかった。なので、なんにも知らない状態で、ライブを観た。
場所は、中目黒の小さなクラブ。確かsolfaというハコじゃなかったっけ、と思って、今、調べたが、「キャパシティは150人から200人」と書いてあるので、本当にここだったかどうか、自信がない。
100人も来たらもう超満員、ぐらいの小ハコだったような気がするし。「MOROHA 中目黒solfa 2010年」等で検索をかけてみても、特にひっかからないし。
まあ、そんなような、DJブースはあるけどステージはない(そりゃそうだ) 小さなハコで、DJとDJの間の時間に、フロアの隅で、MOROHAのライブは行われた。アコースティック・ギターのUKは床にあぐらをかいて座って弾き、その前でアフロがラップする、というパフォーマンス。
さっきも書いたように、なんの前知識もないまま観たもんで、相当なインパクトだった。
その日のライブで、MOROHAは、「二文銭」や「奮い立つCDショップにて」や「恩学」といった初期の代表曲をやっていた。
この3曲ともそうだし、「俺のがヤバイ」も、「革命」も、「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」も、そうであるように、初期のMOROHAの楽曲の多くは、
音楽でうまく世に出られていない自分
が、リリックのテーマになっている。
「初期の」じゃなくて、「わりと長い間」かもしれない。もしくは「活動休止までずっと」かもしれない。あと、「多くは」じゃなくて、「ほとんど全部が」かもしれない。
というのは言い過ぎな気もするが、とにかく。
そういうユニットであるがゆえに、観て、相当な衝撃を喰らったが、そういうユニットであるがゆえに、「売れたらどうするんだろう?」と思ったのだった。その、2010年の8月に、初めてライブを観た段階で。
「空っぽのフロアにも歌い続けた 足りないのは友達? 顔出し? それは実力がない奴の言い訳だ 悔しさが嗚咽がイントロとなった 友達じゃないファンとして来てる あいつの一言にどれだけ救われたんだ あの時踏んだ地団駄がいつの間にやら地面を固めた」というリリックの「二文銭」。
「確かにすごい奴ばかり だがやはり俺のがヤバイ 自信過剰 現状負け惜しみ わかってるけど あえて言う」から「俺のがヤバイ 俺のがヤバイ 俺のがヤバイ 俺のがヤバイ 俺のがヤバイ 俺のがヤバイ 俺のがヤバイ」と連呼する「俺のがヤバイ」。
ライブにかかるチケットノルマを払うために、「『行けたら行く』とはぐらかされてつらい 腹立てる俺ですが 友達を客と見てる自分が1番罪深い」と嘆き、「客じゃない 友達から金もらってる 切り詰めた生活費の一部を こんな俺の応援に使う奴がいる」と、自分のふがいなさを晒す「イケタライクヲコエテイク」。
この先、もし売れたら、これらの曲、全部、歌えなくならない?
「俺のがヤバイ」「何言ってんの、そんなの万人が認めてることでしょ」とか、「廃棄弁当かっ喰らって 不安定な生活を勘ぐる」(これは「二文銭」)「もうそんなもんかっ喰らってないでしょ、大金持ちなのに」みたいなことにならない?
で、過去のそれらの曲が、歌いにくくなるだけではなくて、これから新しい曲を作る時に、困らない? 売れて、誰もが認める存在になって、金持ちになったら、何を歌うの?
ポップスとかなら、「歌は歌、素の自分とは別」というふうに切り分けるのもありだけど、MOROHAはそうじゃないよね。素の自分=素のアフロのそのままを描かないと、生み出しえない音楽ですよね。
なので。みなさん、MOROHAが売れるように、押し上げてみませんか? ライブに行くとか、CDを買うとかして。売れたらどうなるのか。困り果てて失速するか、それともなんらかの方法でそれを突破していくか、見たいから、
ライブを観た2カ月後、ファースト・アルバム『MOROHA』が出た時に、当時自分が、勤め先=ロッキング・オンのウェブサイトで持たされていたブログに、そんなようなことを書いた。
その後、会社をやめてフリーになった3年後=2018年の6月に、MOROHAがメジャーデビューする時も、リアルサウンドに、そのことと、そのことの続きみたいな、文章を書いた。
こちらです。
という、今の自分自身の苦しい日々・苦しい思いがテーマになっている表現の場合、その苦しい日々・苦しい思いを脱出できると、それまでの表現が(その当時は本当だったとしても、今現在においては)、嘘になってしまう。
その点において、MOROHAとドンデコルテは……というか、アフロと渡辺銀次は、同じなんだなあ。と、思ったのでした。
あと、自分が、そういう表現に強く惹かれてしまう奴である、というのも、もちろん、とても大きいです。
次回に続く。
プロフィール
兵庫慎司
1968年広島生まれ東京在住、音楽などのフリーライター。この『思い出話を始めたらおしまい』以外の連載=プロレス雑誌KAMINOGEで『プロレスとはまったく関係なくはない話』(季刊)、ウェブサイトDI:GA
ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』(月二回)。著書=フラワーカンパニーズの本「消えぞこない」、ユニコーンの本「ユニコーン『服部』ザ・インサイド・ストーリー」に続いて、2026年3月19日に「ウルフルズ『バンザイ』ザ・インサイド・ストーリー」が発売になります(3冊ともご本人たちやスタッフ等との共著で、リットーミュージック刊)。
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