兵庫慎司の『思い出話を始めたらおしまい』

第二十四話:2010年夏のMOROHAと2025年暮のアフロ(後編)

月2回連載

第48回

illustration:ハロルド作石

2025年12月の『M-1グランプリ』で準優勝したドンデコルテによって、2010年の8月に初めてMOROHAのライブを観た時のことや、その時に考えたことを思い出した。

その後、2018年6月にMOROHAがメジャーデビューする時、そのことと、そのことの続きみたいな記事を書いたことも、思い出した。(こちら)

ということを、この連載の前編で書いた。

そして。MOROHA活動休止から1年後の2025年12月27日に行われた、アフロの自主企画『再就職』を観ることができた。

その日のアフロのパフォーマンスは──ということを、ここから書こうと思っていたのだが。急遽、その前に、書いておきたい事態が起きた。

2026年3月21日に行われた『R-1グランプリ』で優勝した、今井らいぱちの2本目が、「MOROHAのフォーマットで絵描き歌を歌う」というネタだったのだ。

このネタが大ウケし、優勝をかっさらうところを目の当たりにして、なんとも言えない気持ちになったので、これは何か書いておかなくては、と思った次第です。

まず、この今井らいぱちのネタを観て、過去にお笑い芸人がこれに近いことをやった例がふたつあることを思い出した人は、僕だけではないと思う。

ひとつは、2022年10月から2024年3月までテレビ朝日で放送されていた深夜番組『ランジャタイのがんばれ地上波!』の中の企画『2代目MOROHA選手権』だ。UKがギターを弾き、アフロが見守る中、芸人たちが自作のリリックでラップする、というもの。ザ・マミィの酒井やネコニスズのヤマゲンが、「笑える」と「切実」を両立させるラップを披露していた。

というこれは、別にいいのだが、問題はもうひとつの方だ。

2020年12月5日にテレビ東京『ゴッドタン』の『芸人マジ歌選手権』の『マジ歌ルーキーオーディション』で、蛙亭イワクラが歌った「ごめんなさい」である。

彼女の同期の芸人、トニーフランクがアコースティック・ギターを弾き、イワクラが怒りや悔しさややるせなさを言葉にして吐き出すという、完全にMOROHAフォーマットのパフォーマンスだった。

とてもすばらしくて、番組MCの劇団ひとり&おぎやはぎも絶賛だったのだが、ただし。

彼らは3人とも、元ネタのMOROHAのことを知らなかったのだ。イワクラに劇団ひとりが言った言葉は、「竹原ピストルみたいな感じだね」。彼にイワクラは、MOROHAのことを説明していた。

後日、エンタメサイト「SPICE」で持っている対談連載『逢いたい、相対。』にイワクラを招聘したアフロは、「あれを観て俺はめちゃくちゃ悔しかったんです」。イワクラが最高の熱量でネタにしてくれたのに、MC陣はMOROHAのことを知らなかった。もし知っていたら、もうひとつ笑いの展開があったんじゃないか──。

要は、「知られていない」己がふがいなかった、悔しかった、という話だったのだが。

それから5年後に、今井らいぱちが、同じMOROHAフォーマットのネタで、『R-1』で優勝。

どうでしょう。もちろん、MOROHAを知らないけどあれを観ておもしろかった、という人もいるだろうけど、それ以上に、知っているからこそあれの本当のおもしろさがわかった(逆に言うと知らないと本当のおもしろさはわからない)、という人の方が、圧倒的に多かったのではないだろうか。

もしくは、詳しくは知らないけど、ラッパーの中にああいうスタイルで音楽をやっている人がいることは知っている、ぐらいの人も、「だからこそ」あれを観て笑えたのだろうと思う。

少なくとも、7人の審査員のうち、今井らいぱちに票を入れた5人=佐久間一行・野田クリスタル・小籔千豊・友近・陣内智則は、MOROHAを知らなかったとは思えない。知っているからこそ評価したのは、間違いないと思う。

ああ、MOROHA、「売れた」とは言わないけど、ここまで「知られた」んだなあ、というか、「知っているのが普通」になったんだなあ。

という事実に、何か、改めてしみじみしたのでした。

さて。2025年12月27日土曜日、17時30分。MOROHA活動休止から1年後に初めて行われた、アフロとしてのライブ『アフロ自主企画「再就職」』。

3部構成になっていて、1部はバック・トラック&VJによる映像と共に、アフロがひとりでラップする。ゲスト=ドラムのビートさとし、ボーカルの永原真夏(SEBASTIAN X)が、参加する曲もあり。

2部は、アフロ・又吉直樹・黒川隆介(詩人)の3人で、一行詩を順番に朗読していく企画。

朗読というより、一声発して次の人へ、みたいにテンポよく進んでいく感じで、だんだん大喜利っぽくなっていって、何度も笑いが起きる。

そして3部は、天々高々のライブ。ラップのアフロ、ピアノと歌のヒグチアイに、途中から8人編成のストリングス・チームが加わってのパフォーマンスだった。で、アンコールは、再びアフロひとり。

3部+アンコール、全部合わせて2時間半弱。今アフロがやりたいこと、できることをすべて舞台上に乗せたような、超濃密な時間だった。

MOROHAが(今のところ)なくなったことによって、あれもできる、これもできる、という自由さに満ちているのが今のアフロ、というふうにも見えたが、MOROHAが(今のところ)なくなったことによって、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、と必死なのが今のアフロ、というふうにも見えた。その両方が感じられるのがいい、とも思った。

終演後、アフロは会場の出口に回り、チケット完売で超満員のオーディエンス全員をグータッチで見送る、ということをやった。退場していく人波の中、僕も普通にグータッチしながら出たら、一応気がついてくれた。

それからもうひとつ。この日、アフロは、来場した関係者全員に、手書きのメッセージカードを用意し、受付で渡すように段取りしていた。

「フフフ…まさか休止するなんてね!

MOROHAが売れたらどうなるか見たい!と言ってたのに!

見せられなくて、スンマセン!

でも、俺、ここからだよ!」

僕が受け取ったそれには、こう書かれていた。

そうよね。ここからよね。と、素直に思った。で、最初にライブを観てから15年以上経っているのに、素直にそう思わせてくれるアーティストって、稀有だよなあ、とも思った。

プロフィール

兵庫慎司
1968年広島生まれ東京在住、音楽などのフリーライター。この『思い出話を始めたらおしまい』以外の連載=プロレス雑誌KAMINOGEで『プロレスとはまったく関係なくはない話』(季刊)、ウェブサイトDI:GA ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』(月二回)。著書=フラワーカンパニーズの本「消えぞこない」、ユニコーンの本「ユニコーン『服部』ザ・インサイド・ストーリー」に続いて、2026年3月19日に「ウルフルズ『バンザイ』ザ・インサイド・ストーリー」が発売になりました!(3冊ともご本人たちやスタッフ等との共著で、リットーミュージック刊)。
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