兵庫慎司の『思い出話を始めたらおしまい』

第二十五話:「ガッツだぜ!!」以前のウルフルズ(後編)

月2回連載

第50回

illustration:ハロルド作石

メジャー・デビューの時のウルフルズの東名阪ツアーの東京公演、日清パワーステーションが、自分が初めて観たウルフルズのライブだったが、その時は、正直、そんなにピンとこなかった。ということを、前編で書いたが、その数カ月後。

今度は渋谷eggmanで、ウルフルズのライブを観ることになった。「観ることになった」というのは、ウルフルズ目当てで行ったのではなかったからです。当時eggmanでよくライブを行っていたHARRY JANEという女性ボーカルのバンドを観に行った時、その対バンゲストとして、ウルフルズが出ていたのだ。

なんで観に行ったんだっけ……思い出した。HARRY JANE、レコード会社はアルファで事務所はSMAだったんだけど(今は普通だけど、当時は、事務所がSMAなのにレコード会社はソニー・グループじゃないのって、めずらしかった気がする)、そのSMAのマネージャーに声をかけられたからだ。なんで。彼は、当時僕が追っかけていたロッテンハッツというバンドのマネージャーでもあって、それで知り合って、HARRY JANEの方も観に来てよ、というようなことだったのだと思う。

話がそれるが、ロッテンハッツ、6人のバンドだったが、解散後にGREAT3とヒックスヴィルに分かれました。前者は片寄明人と高桑圭(現Curly Giraffe)と白根賢一、後者は真城めぐみと中森泰弘と木暮晋也。あれから30年以上経つ現在でも、自分があちこちのライブで観ている人たちばかり。とんでもないバンドだったんですね、今考えると。

話を戻します。というわけで、HARRY JANEとウルフルズの対バンを観に行ったのだった。HARRY JANE、確か大阪出身だったし、後攻の彼女たちのライブにトータスが出て一緒に歌っていたのを観た記憶があるので、大阪時代からの付き合いだったのかもしれない。

まあとにかく、そのようなわけで、先に出たウルフルズのステージを観た。

そしたら、気がついたら、泣いていた。涙をダーダー流して。

「全米が泣いた」とか「とにかく泣ける」みたいなのは好きじゃない、「泣けりゃいいのかよ」とか思ってしまう、己はそういう奴である、と自覚していたので、この時の涙には、自分でもびっくりした。

それまで、「全米が泣いた」とか好きじゃないと言いつつも、たとえば映画を観て泣いたり、マンガを読んで泣いたりしたことはあったが(結構簡単に泣くのね)、そういうのは理由がはっきりしているというか、なんで今自分が泣いているのかが、わかるじゃないですか。

そうではなくて、ライブの場で、音楽を生で浴びて、気がついたら泣いている、つまり、なんで今自分が泣いているのかわからない、という経験は、この時が初めてだったのだ、僕は。歌詞が感動的で、それに自分を重ねて泣いたのなら、まだわかるが、そういうことでもなかったし。

すごく驚いたし、うろたえた。ウルフルズに、というよりも、自分がそうなったことに。で、動揺しながら家に帰って、ウルフルズのファースト・アルバム『爆発オンパレード』を聴き直したら、もう抜け出せなくなってしまった。

で、何度も何度も聴いているうちに、なんで自分がこんなにハマっているのか、どこが好きなのか、などが、脳内でだんだん整理されてきた。

●歌とギターとベースとドラム、という編成で、ソウルやブルース等のブラック・ミュージックが根底にある音楽をやっている。という点で、自分が好きだったボ・ガンボスに通じるものがある(ボ・ガンボスはピアノも入っているけど)。

●シャープで破天荒なギター・サウンドの感じは、そのボ・ガンボスのどんとと永井利充が、ボ・ガンボスの前にやっていたバンドで、僕がボ・ガンボス以上に大好きだったローザ・ルクセンブルグに近い感じもある。「レコードまわすよ」という曲なんかは、モロにそうだ。

なお、ウルフルケイスケが、どんと&永井と親交があり、ウルフルズの結成にはその影響もあったことを、後に知った。『ウルフルズ『バンザイ』ザ・インサイド・ストーリー』にも、そのあたりの話が出てきます。

●いわゆる男前バンドではない、むしろ「そういうのはかっこ悪い」と思っているフシがある。要は、ルックス良くないんだけど、「残念ながら」良くない感じではなく、「堂々と」「むしろそうありたくて」良くない感じ。ボーカルの人などは、むしろ男前なのでは、と思うが、仮装みたいなとんでもない衣装を着たりすることで、男前とは逆の方向に、己を全振りしているようにすら感じる。

●難しい言葉を一切使わない、誰がどう聴いても(読んでも)意味がわかる歌詞が、いい。これも、抽象的だったり詩的だったりして、かっこよさげに見えるロックの歌詞とは、逆の方向へ振ったがゆえなのではないか。

というようなあたりが、自分の好みのどまんなかだったのだ。それより前から好きだった、Theピーズや真心ブラザーズと同じジャンルにいるバンドだ、とも思った(で、実際にそれらのバンドとウルフルズが交流があることを、あとで知った)。

で。何度も何度もアルバムも聴きながら、ライブに通いながら、そんなふうに、好きな理由を考えていくと、始めて観た時になんで自分が泣いたのかに関しても、わかってきた。

端的に言うとですね。

シンプルに生きたい。

という願いの実体化。それがウルフルズだ、と、感じたのだと思う。

さっき、ウルフルズの歌詞に関して(当時はウルフルケイスケとトータス松本がそれぞれ書いていた)、「難しい言葉を一切使わない、誰がどう聴いても(読んでも)意味がわかる」と書いたが、そこで描かれているのはどれも、「悲しい」「悔しい」「楽しい」「寂しい」というふうに、シンプルに言い切れる感情ばかりである。

彼らがルーツにしているソウル・ミュージックやブルースの歌詞がそういうものだから、自分たちもそうしているのかな、と最初は思ったが、それもあるけど、それだけではない。

ちゃんと笑って、ちゃんと悲しんで、ちゃんと怒って、ちゃんとへこんで、ちゃんと人を好きになって、というふうに、シンプルに生きたいのだ。それこそ未就学児のように。

なぜそう願うのか。現実はそんなわけにいかないからだ。ややこしさや微妙さや曖昧さや複雑さだらけで、逡巡や妥協や保留やあきらめなどを常に抱えて、生きていかなければいけないからだ。

それはイヤだ。そんな現実に慣れたくない。認めたくない。たとえ自分が無力でも、何も持っていなくても。という人間が、最後に手にした武器としてのロックンロール。

僕はそんなふうに、当時のウルフルズを捉えたのだと思うし、だから泣いたのだと思う。自分が社会人2年目で、社会のそのような「シンプルでいられなさ」にぶち当たっていたところだったので、それがめちゃくちゃ刺さったのだと思う。

楽器の数、アレンジのしかた、音の選び方などのシンプルさも、そのような意志の表れだと、僕は受け取った。

というわけで、このバンドを応援しなくては、と、編集の担当になり、ライターは前編に書いた小林くん、という体制で、記事を作っていこうとするが、なんだかどうも、あんまりバンドが動かない。ポツリポツリとライブをやっているぐらいで、基本、ヒマらしい。トータスなどは、その小林くんと遊んだりしていたぐらいだ。

というのは、東芝EMI内の所属レーベルであるプラネット・アースが消滅してしまい、当時のウルフルズは宙ぶらりんな状態になっていたからなのだ。つまり僕は、よりによってなんで今推す? というタイミングで、ウルフルズに飛びついたのだった。

それ以降の……いや、それ以前も含めての詳しい話は、『ウルフルズ『バンザイ』ザ・インサイド・ストーリー』において、メンバーやスタッフの発言をたっぷり入れつつ詳しく書いているので、よろしければぜひ。版元のリットーミュージックのサイトや、Amazon等の通販サイトや、全国の書店やレコード店などで、絶賛発売中です。

よく知られていることだが、ウルフルズご本人たちは、このファースト・アルバム『爆発オンパレード』を、気に入っていない。

この時は自分たちがまだ何もわかっていなかったし、プロデューサー等の舵取りをする人もいないに等しかった、だからデモ音源みたいな仕上がりになってしまった。本来の意味でのファースト・アルバムは、伊藤銀次プロデュースの一作目であるセカンド・アルバム『すっとばす』だ──というのが、メンバーの一致した考え方である。

が、それでも僕は『爆発オンパレード』が大好きだし、インタビュー等でもご本人たちにそう言ってきた。だからなのかどうかは知らないが、2012年にこのアルバムがデジタル・リマスタリング&紙ジャケットで再々発された時、ライナーノーツ(解説文)の依頼があった。もちろん、書きました。

このアルバムは、トータスが強硬に主張して、彼の全身真っ赤&逆さ吊りのどアップがジャケットになった。そして、矢のような速さで廃盤になったあと、2年後に再発されたのだが、その時は、「このジャケットはあんまりだ」というスタッフの判断で、トータスの鉛筆描きのイラストに差し替えられた。

でも、その2012年の再々発盤では、なんでかは知らないけど、元のジャケットに戻ったのだった。

今でも大好きなアルバムです。

プロフィール

兵庫慎司
1968年広島生まれ東京在住、音楽などのフリーライター。この『思い出話を始めたらおしまい』以外の連載=プロレス雑誌KAMINOGEで『プロレスとはまったく関係なくはない話』(季刊)、ウェブサイトDI:GA ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』(月二回)。くどいですが、「ウルフルズ『バンザイ』ザ・インサイド・ストーリー」、リットーミュージックより発売中。全320ページ、2,500円+税です。みなさまぜひ。
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