和田彩花のアートさんぽ

伝説のアーティストを日本に紹介し続ける唯一無二の私設美術館──ワタリウム美術館

毎月連載

第21回

『オスジェメオス+バリー・マッギー One More展』オスジェメオスのインスタレーションで

東京・外苑前にあるワタリウム美術館へやってきました。こちらは、1990年9月に開館した私設美術館で、特徴的な建物はスイスの建築家マリオ・ボッタが設計を手掛けています。現代アートが今よりも市民権を得ていなかった80年代から、キース・ヘリングやナムジュン・パイクなどの現代アーティストを日本に紹介し続けている、数ある美術館の中でも独自のスタイルが魅力的なアートスポットです。

外苑西通り沿いに建つワタリウム美術館。御影石とコンクリートのストライプ模様の外壁が特徴的な建物は周辺のランドマーク的存在です

現在開催中の『オスジェメオス+バリー・マッギー One More展』(2026年2月8日まで)は、世界で最も注目されているグラフィティアーティストであるバリー・マッギーと、ブラジル・サンパウロ生まれの双子のアーティスト・デュオ、オスジェメオスの2組によるコラボレーションが実現したものです。

今回、お話を聞かせてくれたのはワタリウム美術館C E Oの和多利浩一さんです。

長い歴史の中でも印象的だったバリーとの出会い

改めてになりますが、ワタリウム美術館がここ東京、外苑前に開館した経緯から教えていただけますか?

「まず、僕と姉(和多利恵津子さん)が大学生の頃に、今、ワタリウム美術館に入っているミュージアムショップのオン・サンデーズを始めたんです。当時、母(和多利志津子さん)はギャラリーをやっていて、ウォーホールなどのアメリカの作家を日本に紹介していました。そこが手狭になって、プライベート美術館を作ることになったんですが、美術館運営がこんなにお金のかかる事業であるとは知らなかったんですよ(笑)」

お話を伺った和多利浩一さん。ミュージアムショップ、オン・サンデーズにて

美術館づくりはどんな風にしていったのですか?

「それまで母がやっていたギャラリーと美術館は性質の異なるものだったので、キュレーターという仕事をつくったともいわれるハラルド・ゼーマンを招聘して、第1回目の展覧会を作りました。第2回目はドクメンタのディレクターをやっていたヤン・フートを迎えた。この2人の先生たちから展覧会づくりを学んで、自分たちで美術館を運営していくようになりましたね」

ワタリウム美術館は、作家によって展示室の雰囲気がガラッと変わりますよね。

「それぞれのアーティストに他の場所ではできないことをワタリウム美術館でやってほしいので、大枠だけ美術館側で決めて、あとはアーティストに任せることが多いですね。キュレーションはしないようにしています」

面白いです。今は、どんな美術館も、キュレーションあっての展覧会づくりをされている印象なので。

「堅苦しくてね。もちろん芸術祭などの大きなスペースではコンセプトを作るけど、ワタリウム美術館の大きさだったら一つのテーマで乗り切った方が動きやすいです。できる限り、作家の思うことをやらせてあげたいですね」

これまで開催されてきた展覧会で印象的なものはありますか?

「やはりバリー(バリー・マッギー)かな。1983年、まだ母のギャラリーのときに、キース・ヘリングを招聘したんですよ。母の仕事を一緒にやったときに、若い作家が大注目されてお金がパッと集まってくるのを見てしまってから、ストリート系のアートはやらなくなってしまいました。けれど、あるきっかけでバリーに出会って、アートマーケットにも媚びないし、若い世代の面倒をみたりするし、こんないいやつがいるんだと感激して。バリーとの初めての展覧会(2007年の『バリー・マッギー展』)もとても楽しくて、また10年後に何かやろうと言ってそのときは別れました。それから10年経ったとき、バリーの方から連絡してきたんですよね(2017年にパートナーのクレア・ロハスとともに『バリー・マッギー+クレア・ロハス展』を開催)。バリーとは、だいたい10年ぐらいのスパンで展覧会を作ってます」

今回は、そんなバリーとオスジェメオス2組の展覧会ですね。オスジェメオスは、日本での本格的な展覧会はこれが初めてなんだそうです。

さっそく、展示を見ていきましょう。

手ぶらで来日、二組が即興的に作り上げた展示空間

2階の展示室に入ってすぐ私たちを迎えてくれるのは、壁一面に描かれた色鮮やかなオスジェメオスのグラフティです。

「オスジェメオスは双子の兄弟だから、まさに手が4本あるみたいな感じで(笑)、脅威的なスピードで制作していくの」

なるほど、ここで制作したんですね。

「今回は作品を持ってこないというのもひとつのテーマで、彼らは身ひとつで日本にきて、ここで作品を制作したんですよ」

ストリートからアートの世界にやってきたオスジェメオスは、スプレーだけでこれらのグラフィティを描きます。よく見ると、輪郭線なんかも黒のスプレーでしっかり引かれている。

オスジェメオスとバリーは、1993年にバリ―がサンパウロでアーティスト・イン・レジデンスをしていたときに出会います。当時のサンパウロは反政府の運動が強く、ストリートが活性化していたといいます。そんなストリートシーンで活躍していたのがオスジェメオス。バリーは、当時まだ若かったオスジェメオスをいろいろな人に紹介して、アートの世界に導いたのです。

2階の展示室はバリーとオスジェメオスの壁画や絵画、立体作品で埋め尽くされています

この展示室は、オスジェメオスとバリーのコラボレーションが見られる場所でもあります。

吹き抜け空間の大きな壁に描かれたグラフティ。オスジェメオスが中央の大きなキャラクターを先に描いていき、その後、バリーがふたつの顔を付け足しました。ちなみに今のバリーの作風は、小さな顔を描いていくことが多いので、こんなふうに大きな顔を描いたのは久しぶりなのだそう。

この巨大な壁画を約10日間で即興的に作り上げていったそう

展示室に作品を持ち込まないことによって、展示室がまるまるストリートになったかのような印象を強く受けます。美術館は特別な場所なのではなく、ストリートのようにみんながいられる場所であるかのように。

2階の展示室には、レコードショップのインスタレーションもあります。

「オスジェメオスはふたりでDJもやっていて、レコードが大好きなんだよ。ストリートに音が流れているように、美術館のなかも同じ空間にしたいと言われたの」

来日中にフリマなどで集めたレコードで埋め尽くされた「レコードショップ」。観客は好きなレコードを選んでプレイヤーで聴くこともできます
ゆったり椅子に座ってくつろいで、楽しんでくださいね

続いて3階へ。こちらの展示室では、バリーの作品が展示されています。

バリーさんの作品には同じ「顔」がたびたび登場しますね。描いている人は、誰なのでしょうか?

3階はバリーの平面作品を中心に展示されています

「これは、誰でもない誰かを描いているとバリーは言っています。最近だと幾何学模様のパターンもよく描いているね。この作品(写真右の作品)は、ピアノのレッスンで使う楽譜「バイエル」がくしゃくしゃになって道に落ちていたのがきっかけでイメージされたものらしい。あと、サーフィンをやるバリーにとっては波のモチーフも身近なんだと思います」

一見、普通の平面作品のように見えますが、別々に描いた作品をパズルのように組み合わせて、一つの作品にしているものもあります
こちらはブラウン管を使ったビデオインスタレーション

4階は、オスジェメオスのインスタレーションです。

これまでみてきたグラフィティに描かれたキャラクターたちが、アニメーションとして動くインスタレーション作品です。

LEDに映し出される映像が鏡に反射し、没入感たっぷりの空間

「自分たちが描いた絵を動かしたいというのが、この作品が制作されたきっかけなんだよね。同じようにミラーを使った作品を作る作家はいるけど、発想は全く逆なんです」

いつまでも見ていたくなるような空間ですが、なんと、ここで寝てしまっていた強者もいたのだとか。好きなように過ごせる空間なのがとても素敵だし、オスジェメオスの作品だからこそ、そんな空気が作られるのかな。

コラボスイーツが楽しめる「アート喫茶」でひと休み

地下1階には、カフェ「アート喫茶 紅谷」もあります。

青山通りにある老舗の和菓子屋「紅谷」さんとのコラボで、季節の和菓子と本格的な日本茶を楽しめます。

こちらは、「オスジェメオス+バリー・マッギーOne More展」記念生菓子「彩鼓(あやつつみ)」です。(飲み物とセットで1,600円)
どら焼きには、ワタリウム美術館の焼印がついていますよ。(飲み物とセットで1,200円)

ミュージアムグッズや美術書がたくさん並ぶショップ、オン・サンデーズもぜひ立ち寄ってみてくださいね。

1階から地下へと続くミュージアムショップ、オン・サンデーズ

コンパクトな展示室に、ぎゅっと作家の魅力を詰め込むことのできるワタリウム美術館。 東京の真ん中で、等身大で楽しめるアートスポットへぜひ足を運んでみてくださいね。

撮影:村上大輔

ワタリウム美術館

初代館長・和多利志津子(1932-2012)の現代美術コレクションを1972年から1988年まで運営していたギャラリーの活動をベースに1990年、私設美術館として開館。ストライプの外壁と翼を広げたようなフォルムが特徴的な建物は、スイスの建築家マリオ・ボッタが手掛けている。1980年代からアンディー・ウォーホル、キース・ヘリングやドナルド・ジャッド、ソル・ルウィットなど、世界の現代美術をいち早く日本に紹介してきた先代の活動を継承し、国内外のアーティストによる企画展のほか、講演会、ワークショップ、教育講座なども行われている。
http://www.watarium.co.jp/

ミュージアムショップ オン・サンデーズ
https://onsundays.shopselect.net/

【展覧会情報】
『オスジェメオス+バリー・マッギー One More展』
2025年10月17日(金)〜2026年2月8日(日)

1998年、サンフランシスコ近代美術館で巨大な壁画を発表し、同館のコレクションに選定され、さらに2001年ベニス・ビエンナーレで世界最大の壁画のインスタレーションを制作したバリー・マッギーと、昨年から約1年間にわたりワシントンのハーシュホーン美術館で大規模個展を開催したオスジェメオス(1974年ブラジル、サンパウロ生まれの双子の兄弟)の二組による、世界初のコラボレーション展。館内は、身ひとつで来日したという二組が即興的に描き上げた巨大壁画をはじめ、それぞれの平面作品、ユニークなレコードショップのインスタレーション、没入感あふれるアニメーションルームなど多彩な作品で埋め尽くされている。

プロフィール

和田彩花

1994年8月1日生まれ、群馬県出身。

アイドル:2019年ハロー!プロジェクト、アンジュルムを卒業。アイドルグループでの活動経験を通して、フェミニズム、ジェンダーの視点からアイドルについて、アイドルの労働問題について発信する。

音楽:オルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」、ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド「L O L O E T」にて作詞、歌、朗読等を担当する。

美術:実践女子大学大学院博士前期課程美術史学修了、美術館や展覧会について執筆、メディア出演する。