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小西康陽 5243 シネノート

3月から4月

毎月連載

第10回

『月は上りぬ』 (C)日活

 いまラピュタ阿佐ヶ谷のレイトショーで曽根中生監督の『天使のはらわた 赤い教室』を観て帰宅すると、この連載の原稿催促のメールが届いていた。
 原稿の締め切りが今週の前半だったことは覚えていたけれども、なにしろこちらは毎日どこかに出掛けては映画を観ているので忙しい。映画ばかり観ているから、こんな連載の依頼もくるようになったのだし、こちらも映画ばかり観ているから、なんとか毎月の話題を絶やさずにいることができるのだ。
 これは大きな矛盾だと思う。けれども、原稿書きを職業にしている人たちはみな、なんとかこの矛盾に決着をつけているのかもしれませんね。ある人はDVDやヴィデオで観て書いたり、ある人は眠る時間を削って原稿を書く時間を捻出したり、またある人は原稿を書くスピードを速めているのか。じぶんにもできるのは3番目の方法だろうか。というわけで、今回は原稿を書くスピードを3倍速にしている。
 それにしても、曽根中生の『天使のはらわた 赤い教室』をどうしてまた観に行ってしまったのか。どうして今週のレイトは観に行かなくては、と思ったのか。劇場のロビーで開場を待つ間、水原ゆう紀のポスターをずっと眺めていたのに、どうして以前に二度も観ていることを思い出さなかったのか。もちろん素晴らしい映画であることは間違いない。けれども、わざわざ三度も観るほど好きな映画だったか。
 大学生のとき、劇場招待券をもらって封切りで観たのが池田敏春監督の『天使のはらわた 赤い淫画』だった。その映画は強烈で、大学4年の3学期に「にっかつ」の助監督の試験を受け、二次試験の面接で、ロマンポルノで好きな作品は? と尋ねられて、その映画のタイトルを告げると、面接官のひとりだった高橋伴明監督が「おー!」と言ったことだけはよく憶えている。ちなみにその助監督試験、大学で同じクラスの就職落ちこぼれ仲間にして、いまは売れっ子脚本家である斉藤ひろしと一緒に受験しに行ったことは以前にも書いた。
 そんなわけで『天使のはらわた』シリーズといえば、じぶんにとっては『赤い淫画』であって、なぜか『赤い教室』の方は何度観ても記憶からこぼれてしまうらしい。そんな簡単に忘れてしまえるような映画ではないのに。とはいえ、さすがに三度目の鑑賞ともなると、いろいろと欠点も見えてくる。それをこれから挙げていくとすれば、やはり原稿書きのスピードは落ちてしまいそうなので、今月はやめておきます。