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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ブレンダン・フレイザー

連載

第99回

特殊メイクで体重270キロの男に扮しオスカーをゲット!

── 今回は、先日アカデミー主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーです。『ザ・ホエール』(4月7日(金)公開)の演技で受賞しました。家に引きこもっている体重270キロの中年オヤジの役ですよね。本作で来日もするようですよ。

渡辺 監督はダーレン・アロノフスキー。『レスラー』(09)でミッキー・ロークを再稼働させ、『ブラック・スワン』(11)ではナタリー・ポートマンにオスカー像をもたらした。ロークも初オスカーノミネートだったし、役者の演技力を引き出す監督なのかもしれない。本作でもブレンダンにそのチャンスを与えてます。

── どんな映画なんですか?

渡辺 同名戯曲の映画化だそうです。舞台劇を映画に移し替える場合、もっとカメラを外に出すとか、動きを加える場合が多いんですが、本作はほぼ主人公の部屋だけで、登場人物がドアから出たり入ったり。舞台っぽい作りになっている。だからなのか役者たちの演技もオーバーアクト気味。そこが鼻につかないこともないんですが、ブレンダンは身体が凄いので、オーバーでも気にならない。

物語は、太り過ぎであと5日くらいしか生きられないだろう大学の講師チャーリーの、死ぬ前にやりたいことを巡る物語です。彼は女性と結婚して娘までもうけていたんですが、彼女が幼い頃に家庭を捨て、好きになった男性のもとに走ってしまう。でも、その男性は亡くなり、残された彼は悶々と悩んで気がついたら“ホエール=クジラ”のような身体になり外出もできない。

『ザ・ホエール』でチャーリーを演じるブレンダン・フレイザー

そんな彼の面倒を看てくれるのが、自殺した恋人の妹で看護師のリズ。彼女を演じたホン・チャウもアカデミー助演女優賞にノミネートされていました。

死期が近いチャーリーの数日間を描いた作品なんですが、娘も何度も来てくれるし、彼が捨てた奥さんも来てくれる。看護師のリズはいつも健康をいたわってくれるし、好き勝手に生きたわりには、気にしてほしい人が気にしてくれるんだから、意外と幸せなおじさんだなって。

ブレンダンとともにアカデミー助演女優賞にノミネートされた『ザ・ホエール』のホン・チャウ

── ブレンダンはやはりうまいんですか?

渡辺 私も受賞するのは彼という予測で、実際にとても上手い。オスカーを獲得したクジラメイクで、ずーっと出ずっぱり。過酷な仕事だったと思うし、オスカーもそういう演技が好きですからね。

私たちのブレンダンの印象と言えば『ハムナプトラ』シリーズのおにいさんなわけだから、それとは真逆のキャラ。向こうの役者さんは基本ができているので、たとえ前身がアクションをやっていたりコメディばかりであっても、こういう演技もちゃんとこなせるんだと思います。だから“復活”が可能だし、演技力を必要とする映画にも、こうやって出演できる。

過酷だったに違いない特殊メイクを施されるブレンダン
(C)courtesy of A24

── 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)で助演男優賞を獲得したキー・ホイ・クァンもそんな感じがしますね。

渡辺 いや、彼はまた別枠でしょう。作品に合っていた上に、最近のハリウッドの流行に上手く乗っかることができたからなんだと思っています。でも、ブレンダンの場合は映画を支えているわけだから、やはりちょっと違う。

自分が信じて演技している限り、観客も信じてくれる

── なるほど。で、ブレンダンへの取材は?

渡辺 『ハムナプトラ』シリーズ(99~08)で二度ほど。あとは『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』(03)のときですね。

『タイムトラベラー きのうから来た恋人』(99)など大好きだったし、『フランケンシュタイン』などの監督、ジェームズ・ホエールの晩年を描いた『ゴッド・アンド・モンスター』(98)では名優の誉れ高いイアン・マッケランと共演していましたから。ということは、実はシリアス系演技もできる役者だったのに、『ハムナプトラ』でブレイクしたから、演技力を発揮する機会が少ないだろうエンタテインメント濃度の高い作品ばかりに出るようになったのかもしれない。

ブレンダン・フレイザーといえばやっぱり有名なのは『ハムナプトラ』シリーズ(写真は2作目)。ちなみに『ハムナプトラ』1・2作目のヒロイン、レイチェル・ワイズは『ザ・ホエール』の監督、ダーレン・アロノフスキーの元婚約者で、2006年に男児を出産している。

実際、こんなことを言っていました。

「こういう仕事をしていると、素晴らしい人と出会う機会に恵まれる。僕にとってはイアン・マッケランがそうだった。というのも僕は大学生の頃、いつもイアンがシェイクスピアを演じている舞台のTV放送を録画して何度も観ていたからだ。そういう人と共演することになるなんて、本当に信じられなかった」

そして、こうも言っていました。

「役者をやっていてイヤなことは、仕事をしていない状態だ。こうやって仕事ができているのは本当にありがたいし幸運なことだからだよ。僕はいつも自分に“ヘイ! お前、分かっているか? 今、お前がやっている仕事を、死ぬほどやりたい人がたくさんいるんだから、思い上がったりするのはもってのほか。それは絶対、ダメだ”って言い聞かせているんだ。こうやって仕事をもらえるだけじゃなく、素晴らしい人たちと一緒にできるんだから、本当に最高だよ!」

俳優駆け出し時期の1992年には、50年代の名門校を舞台にした『青春の輝き』に出演(写真中央左)。マット・デイモン(中央右)、ベン・アフレック(後列中央)、クリス・オドネル(左端)といった後のスターたちを差し置いて堂々主演している。

── ということは、仕事ができてない時期は、かなり辛かったんでしょうね。

渡辺 彼に限らず、役者の多くはそうなんでしょうけどね。

ブレンダンが第一線を退くことになった理由は、体調の悪化や母親の死、結婚生活の破綻、さらにはハリウッド・フォーリンプレスのおじさんにセクハラを受けたことで鬱になったとも告白してますね。

私がインタビューしたのは、そうやって退く前の『ルーニー…』でした。この映画、ジョー・ダンテの傑作だと思っているんですが、コケちゃったんですよね。彼のテューンズやチャック・ジョーンズに対する愛があふれていて大好きなんですけど、これがコケたせいか、その後あまり映画を撮れなくなった。

私はある映画のスタジオでダンテに会ってサインをもらったんですよ。『グレムリン』の1作目が大好きだと言ったら、モグワイの絵を描いてくれました(笑)。彼の映画は大体、モテない男子か子どものようなオヤジが主人公で、本作でもブレンダンはそんな役を演じてましたね。

実写とアニメの合成映画『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』でのブレンダンは、スタントマン志望のサエない警備員役。

── で、ブレンダンはどんなことを話してましたか?

渡辺 このときはコメディの演技について話してくれました。

「コメディをやるとき、僕が決めているのは、おかしくやろう、笑わせようとしないこと。笑わせようとした途端、演じているキャラクターがどこかに行ってしまうから。笑えるのは、当人が笑わせようとしているわけじゃないからだよ」

── それは納得ですね。

渡辺 また、共演のコメディアン、スティーヴ・マーティンをとても褒めていましたね。

「スティーヴは天才だ。実は彼のシーンには脚本はなく、すべてがアドリブなんだ。それでいて、スティーヴは徹底的に準備をする。身体の内側もすべて役になりきって、本番ではたぶん、ほとんどがリアクションしている感じなんだと思う。カメラは彼が演じている間中、ずっと回っていて、後からいいところをチョイスするんだ。ああいう演技は見たことがないので、めちゃくちゃ刺激的だった」

── 真面目な感じがしますね。

渡辺 当時のブレンダンはこの他にも『センター・オブ・ジ・アース』(08)などのVFX映画にたくさん出演していたので、その撮影について尋ねると、こう答えていました。

「目の前にいない相手と共演するときのモットーは、テクニカルなことはリハーサル時に身体に覚えさせる。そして本番では、そのテクニカルなことを考えないようにして演技する。そうしないと、すべて意味がなくなってしまう。僕は常々、自分が信じて演技している限り、観客も信じてくれると思っているから」

『ザ・ホエール』では、ちゃんと自分が信じて演技をしたんだと思いますね。

── そうかもしれませんね。

オスカー受賞を喜ぶブレンダンとふたりの息子、リーランドとホールデン。その背後でおちゃらけるキー・ホイ・クァン。ちなみにブレンダンとキー・ホイ・クァンは『原始のマン』(92)で共演経験アリ。

渡辺 私が思うに、こういう復活系の役者、セカンドチャンスをモノした役者って、それから3年はいいけど、後が続かない場合が多い。いじわるな言い方すれば賞味期限は3年間なんですよ。ミッキー・ロークもいつの間にかいなくなっちゃったし、『リトル・チルドレン』(04)で返り咲きオスカーにノミネートされたジャッキー・アール・ヘイリーもあまり見なくなった。おそらくキー・ホイ・クァンもそうなりそうな予感がするんですが、ブレンダンは大丈夫なんじゃないかと思っています。基礎があって、演技に対して真摯な感じがするので。これからどんな活躍をするのか、楽しみですね!

文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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